第2話 夜の来訪者

 夜の来訪者


ふう、美味しかった。今日の夜ごはんは、カレーだった。いつもの家の味、それが僕を安心させてくれる。家だと落ち着いて食べれるし、お母さんのご飯は絶品だ。部屋で勉強をしながら、夜ご飯の余韻に浸っていると、


「奈波ちゃん、友達が来てるわよ」


へ? 誰だろう? この時間に真美ちゃんが来るとは思えないし。ただの嫌がらせの為に、家を探してくる奴なんていないし、


「はーい、今行くよ」


とりあえず、出てみるかな。ドアをそーっと開けてと。


「こんばんは~。夕方、あたしの講演聞いてくれてありがとうね~」


何で僕はドアアイ(ドアについている、のぞくための穴)で見なかったんだろう。そんな後悔が湧いてくる。見るべきだったでしょドアアイ。とりあえずドアをそっと閉める。夕方に飯野さんたちの映像を映写していた、赤毛、ストレートで腰まで伸びている髪が特徴的な、ゴスロリっぽい赤い服装、背の高い目が黒い女性で、年齢は僕と同じ、16歳ぐらいかな? そんな彼女がどうして家に? 会いたくないの様な、会いたいような。けど、どうやって内を突き止めたのだろう? あの後も講演の片づけで忙しかっただろうに。


「お~い、奈波ちゃ~ん、開けて~」


なんで僕の名前知っているんだ! 鍵をかけて、部屋に逃げよう!


「奈波ちゃん、友達はいいの?」


「う、うん」


お母さんは、僕に友達が尋ねてきたことを喜んで、ジュースを出そうとしていたようだけど、僕が戻ってきたため、ジュースを冷蔵庫に戻し、口をとがらせていた。それを横目に、僕は部屋に帰ると、ベランダから、物音が聞こえてきた。そんなにも風は強くない、それに、まだ寒い時期なので、窓も閉めているのに、こんなにも大きく音が聞こえて来るってことは何かいるよね、泥棒? ここ四階だよ。けど、普通の泥棒なら、僕の魔術でやっつけられるかな? っと修行用の木刀も持たないと。コンコンとベランダからノックするような音が聞こえる。そーっとカーテンを開けると、黒髪のポニーテールで、優しい目つき、黄色い和服が目立つ15歳歳ぐらいの女性が手を振っている。ん? その後ろにさっきの子が跳んできたよ。いやここ四階なんだけど。で、この二人が泥棒? なんか手を此方に向かって振っているんだけど。とりあえずお母さんを呼んだほうが良いかな? 


「おかぁ……」


声が出ない! そして動けない! それに、鍵がひとりでに開いたよ! 靴を脱いでそそくさと侵入してきた二人。ど、どうしようしかし二人は、部屋の真ん中にある丸く小さい机を囲んで座り、指を鳴らした。


「まあまあ、座って座って」


「なんなんだい! 君たちは、僕の部屋にいきなり入ってきて! 君は僕の名前を知っているし!」


「ごめんね~、ヴィーナスさんが、勝手に君の名前を調べてきたんだ~。住所もね~」


「まあ、いいじゃないの。儂らはお主に話を聞きたくて来たのよ」


全然優しそうな喋り口じゃない。とりあえず、木刀で叩けばいいかな?


「っと、その物騒な物は封印よ」


その言葉と共に、木刀がピクリとも動かなくなった。空中で。さっきから、魔力を使った痕跡がない! 本当に何者なんだろう?


「話って何かな?」


「話聞いてくれる~? やった~! あたしの演説聞いてくれてたよね~。どう思った? どう思った!」


「と、その前に自己紹介よ。儂はヴィーナスエルピス。偶然この町に立ち寄った者よ」


黒髪ポニーテールの女性がそう紹介する。


「あたしは~、武備 光よ~。宜しく~」


テンションMAXに、赤髪のゴスロリ女性が握手してくる。


「あ、僕は、犬飼 奈波だよ。夕方の講演は変なこと言っているなーとしか、思ってないよ」


嘘をついた。本当はもっと話したい。僕はこの町の資料(検閲済み)の物しか読んでないし、あそこまで資料はの集められなかった。それに、あの映像、この子も飯野さんたちの戦いを見たのだと思う。だから、色々聞きたい。けど、もう奇異な目で見られるのは沢山だ。という思いもある。


「嘘はよくないわよ~。本当は話したいんだよね~? どうしてあたしがそういう考えに至ったか、聞きたいくせに~。あたしは貴女の味方よ~」


なんで、嘘がばれている? いや、町の人に噂を聞いて来ただけの可能性もある。だからここは仮面を被らないと。


「そんな事、思ってないよ。僕は、僕は……」


武備さんの手が、肩に触れる。言葉が紡げない。やっぱり、飯野さんたちの悪口を言うなんて無理だ。だって、僕を助けてくれて、町を助けてくれた人なんだよ。なのに、悪く言うなんて、僕にはできない。


「助けてもらったんだ~。なら、あたしと一緒だね~。でも、なんで嘘つくの~? もっと素直に話そ~?


「素直に話したら、皆に嫌われるじゃないか!」


「だから、あたしたちは大丈夫よ~。飯野さんたちに助けられて、その恩に報いるために、今動いているんだから~。あ、あたしから話したほうが良いかな~?」


僕は頷く。聞いてみたい。本音で話して良いならすごく嬉しいな。そう思うと、泣きそうになる。


「あたしは、最良世界で、軍に監禁されていた所を助けてもらったんだ。その際にヴィーナスさんも助けてもらったのよ。その戦いは、さっき流していたやつね。その後、戦いに巻き込まれることなく、ヴィーナスさんと逃げたんだけど、でも、あの時はやっとあたしを人間としてみてくれる人が助けに来てくれて、嬉しかったな~」


本当かな? 本当に僕は本音を言って良いのかな? 武備さんの目を見る。此方に期待している目だ。ヴィーナスさんの目を見る。すごく優しい目で、安心する。良いのかな、良いよね?


「僕は、この町が悪魔に占領されたときに、悪魔に憑りつかれて町をさまよっていたんだ。まあそういう人はたくさんいたんだけど、その後に飯野さんたちが悪魔の将軍を倒して、皆悪魔から解放されたんだけど、その直後に、異世界からの侵略を受けたんだ。その時、僕は泣きながら、お母さんを探していたんだよ。けど、そこにサイボーグの兵士たちが下りて来て、周りにいた人たちは殺されていったんだ。僕は、隠れてやり過ごしたんだけど、それでも、限界はある。ビルに入って、上へ上へと逃げていたんだ。まあ最上階に着くよね。そこで、もう終わりだとべそ書いていたら。飯野さんが現れて、上空から迫っていた敵を倒して、そこから僕を救い出してくれたんだ。そしてお母さんの元に空を飛んで、送ってくれたんだ。けど、その後に起きた侵略の際、僕たちは皆、飯野さんたちの事を忘れていたんだ。そして、侵略の後、どこからか帰ってきた飯野さんたちを思い出した町民たちは、助けてくれなかったことを恨んで、飯野さんたちを売国奴って呼んだんだ」


「成程ね~。それで、この町でも、あの人たちを称賛する声が、少ししか聞けないわけね~」


「へ、少しは聞けたの?」


「儂が聞いたわ。二人とも、口が堅かったけどね。レアメタルを渡して訊いたら、少しずつ話してくれたわ。両方とも、飯野の仲間の親だった。飯野とその二人、そしてもう一人は友達だそうで、沈んだ大陸の戦いの際、送り出したそうよ。その後は、悪魔と戦って、上空に現れた、砲台を壊して、そしてみんな彼女たちを忘れてしまって、最後は、泣いていてよく聞き取れなかったわ」


やっぱり、家族の方が辛いよね。飯野さんたち死んだって話だもん。そういえば、時計を見ると、9時前、約束の時間だ!


「あ、時間だ。ごめん。僕、ちょっと出かけないと!」


「え~? 今、夜だよ~」


「ご、ごめんね。本当に出かけなきゃいけないからごめん!」


そう言うと僕は、ベランダから飛び降りた。


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