第10話 少年兵

 少年兵


「あれ? 皐文だ。ってこの姿でも私だと認識できるの?」


その可愛い声は鬼から聞こえてきた。女の子のような声、さっきまでの鬼とは思えないほどかわいい声だ。


「うん、アミだろ。僕は神奈から話を聞いているからね。やっぱりあの人形が、トリガーかな。君が憑依すると、人形が大きくなって、いや元のサイズに戻って、鬼に成る、そんな感じだと思うよ」


「へーそうなんだ。で、この憑依を無くす方法ってわかったのかな? 鬼に成るの嫌なんだけど」


「僕にはわからないや。でもいいんじゃないかな? 君はこっちの世界に来れるから。まあ僕の持ち物扱いになるけど」


「嫌だよ。私は自分の体でこっちの世界に戻りたいの!」


なんか忍びの子と鬼が喧嘩しだしたよ。


「では、サターンの救出に行くぞ!」


あ、師匠はあの二人を無視して、先に行こうとしている。忍びの子は放っておいても大丈夫かもだけど、鬼は放っておいていいのかな?


「ちょっと、あの鬼は放っておいていいのかしら?」


「ああ、どうやら皐文の言うには、敵ではないらしいからな。それより、そこの少年兵はどうする?」


「あれこそ、放っておいていいでしょ? 脅えているし、儂は戦意の無い人間を斬る趣味は無いわ」


「だが……」


師匠以外は彼を無視して、大きな通気口の下に立つ。大きさ的に、うん、ペガサスで飛んでいけそう。


「ま、ま、待て!」


その言葉に皆が怯えている、いや怯えていた少年兵を見る。その少年兵に近づいて行っていた忍びの少女といつからか居た、鬼のような角を持った、少女が警戒を高めているようだ。さっきまでいた鬼と同じ肌の色、けど、服をちゃんと纏っていて、髪も長い。けどさっきまでいた鬼は何処に行ったのかな?


「どうした少年。君は殺される心配はないんだぞ? 此処で声を上げて、死亡率を上げるつもりか?」


師匠の言う通りだ。今ここで声を上げたら、僕たちに袋叩きにあう。それぐらいわかるはずだ。


「確かにこのままだと死ぬかもしれない。でも! 隊長や団員、指導者とも約束したんだ! ここでサターンを殺して、僕たちの世界に安寧をもたらすと! だから、逃げるわけにはいかない!」


少年は立ち上がる。足は震えているが、瞳が怒りに燃えている。武器は槍、恐らく対金属性防御も持っているはずだよね。さっきの鉄破片が飛んだ時も傷一つ付かなかったからそうだろうと思うんだ。


「隅で、震えていたのにかい」


「それでも、皆死んだわけじゃない! まだ生きている人もいる! 助けられるのは僕だけなんだ!」


「奈波、武備ちゃん、ここを頼んでいいか? あの二人もいるし問題はないだろう。自分とヴィーナスはサターンの封印を解きに行く。流石にこの状態だと、過剰戦力だと思うから、分散してサターンを目覚めさせて、援軍が来る前に撤退したほうが良いからな」


「援軍?」


「ああ、今この上空に時空が歪んでいる所を観測している。おそらく、そいつらの援軍だろう」


「解った。じゃあ僕と、武備さんとで何とかしつつそっちに向かうよ」


そう言っているうちに、鬼と忍者が、少年と戦闘を開始している。


「行くよ、火球5連弾!」


「アミ、君は何でそんなに暴力的なんだい? その鬼の体のせいかな? それにしても、あの少年兵に武器、見たことある気がするんだよね」


そう言いつつも、忍者は苦無投げているし。って僕たちも行かないと! 兵士は紙一重で火球を回避して、苦無は金属性防御によってはじかれた。


「敵の兵士は、全員金属性防御を持っているみたいなんだ。だから金属の武器は効かないよ」


「あ、そうなんだ。教えてくれてありがとうね。えっと、名前何て言うの?」


「僕は奈波だよ。君は?」


 「僕は皐文だよ。じゃあ僕はこの大量にある水を使うとするよ」


水が舞う。水が刃となり、兵士を襲う。それでも、少年は槍を回転させ、その勢いで、水の刃を相殺、何とかやり過ごしているけど、鬼が接近して、一発殴った。


「ぐはっ!」


壁に叩きつけられた少年は変な声と、血を吐いた。というか、なんであれだけで済むの? それだけ少年は丈夫ってことかな? それでも少年は槍を構えて立ち上がる。


「あ、思い出した! ってことはまずいね」


「何思い出したの?」


皐文が走りだす。それほど何かあるのかな?


「あの槍、蜻蛉切なんだ! あの槍は、穂に触れると、真っ二つにされるんだ!」


鬼に向かって槍を突き出す少年。拳を振り上げる鬼。その間に皐文は入り込んで、双方の攻撃を苦無で防ぎ、


「ごめんね! 僕たちはこのまま撤退する。後は頼んだよ」


その言葉の後に3人の影も形もなくなった。


「な、なんで、どこか行ったのかな?」


「うん~。転移魔術っぽいね~とりあえずお疲れ様~。私たち何もできなかったね~」


「そうだね」


「じゃあ~上に向かおうか~」


「う、うん」


僕たちは残っていたペガサスに乗り込み、どうして消えたのか不思議に思いながらも、上の層を目指した。

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