比翼のインスタントサモナー

月読雨月

1章 君に

第1話 出会い

 6つの世界では不思議現象が3つ起きていた。一つは貧困層に金を渡す謎の放浪者、一つは忽然と姿を消す、角の生えた子供達、一つは紀光保護所から、帰ってきた少女たちが各世界で、戦いを始めたこと。その三つだ。この話はその不思議の一つの物語である。



出会い



「また、石投げられちゃった~、けど、まあいいわ」


あたし武備ぶび ひかりは、今日の講演について、内容、聴衆の数、そして、同調した人がいなかった事を伝えた後に、講演について愚痴っていた。いや、石はないでしょ石は。それも人に投げるにはかなり大きい、握りこぶしぐらいの大きさよ!


「まあ、しょうがないわね。儂らのやっている事は、この世界を支配下に置いている、最良世界への反乱だもの」


それはあたしも解っている。それでも、それでもだ、


「こんなにも貧しいそうだし、ひどい目にも合わされているんだから、反乱の一つぐらい考えないのかしら~」


「たしかにね。だがしょうがないでしょ。この世界は圧倒的に蹂躙されたのよ。反抗しようにも手立てが見つからないのよ」


「そうね~。まあそれはそうと、次こそは、あたしの話聞いてもらえると思うのよね~」


次はあの人たちの故郷と言われる場所に行く。あそこならあたしたちの話に共感してくれる人もいるだろう。それに残された家族もいるはずだ。だから、行く価値はある。


「そういえば~、金属は配れたの~? それに~、なんで配っているのかしら~?」


「ええ、配れたわよ。おかげで、ちゃんと話は聞いてもらえたし、協力も約束してくれたわ」


ずるくない? そして、金属の力ってすごいんだね。何ていう金属か、知らないけど。


「じゃあ、行きましょうか。あの町へ」


「うん~ 珠樹さんたちが住んでいたという町へ!」




僕、犬飼いぬかい 奈波なみの青春は灰色だ。学校では一人以外僕に近づくこともなく、怖い物を見る目で見られる。まあ苛められることもないが。理由は分かっている。小学生の時に喧嘩で男子をボコボコにしたからだ。それぐらいなら、普通にあるよね? けど僕の主張がいけなかった。僕の主張はこの世界を支配している、最良世界の意思に反するものだったから。先生には怒られ、親まで呼び出される始末。そんな訳で、僕は今村八分だ。そんな退屈な学校が今日も終わった。昔言ったことで嫌われているのは納得いかないけど、あの時の気持ちは今も変わらない。でも仮面は作っている。世間では、あの人たちは悪だと解ったから。だから私は仮面でやり過ごす。


「君は、僕の昔からの友達だし、僕の昔の話を聞いても離れていかないから、信頼してるよ」


僕は素直な気持ちを、友達の杉谷 真美に吐き出す。

 夕暮れ時、山や建物が赤く染まり、海が綺麗に夕日を反射する。その海は、陸地を浸食しているので、海に落ちた建物なども確認できる。そんな町で、唯一の友達と家に向かって歩く。


「ふふふ、私も好きですよ。それにしても何故今更そんな分かりきったことを?」


「ただね、学校が嫌だなって思ったんだ。これも今更だけどね。嫌がらせする人もいるしね」


その度、友達は助けてくれる。青い髪をなびかせて、赤い瞳で睨みを利かせてくれて、ビシッっと反論してくれる。それはとてもうれしいし、ありがたいんだけど、やっぱり、彼女に飛び火しないかとか、自分自身がそんな扱いを受けているのが辛かった。


「もう、私も一人は嫌ですわよ」


「んーそれは分かっているんだけどね。もう、授業はリモートにしてくれないのかな? 先生はロボットなのにね」


ん? 何あれ。プロジェクターで何か映している? アレは……脳内記憶を直接映像にしているのかな? その内容はっと、アレ? これってもしかして、飯野さんたちの戦いの記録? 見たことがある女の子が、師匠と戦っている。


『じゃあ、本当に私たちも消しちゃうの?』


『その通りだ』


いつかの戦闘の記録だと思う。刀と軍刀がぶつかり合い、つばぜり合い。火花を散らしている。話によるとこの後、師匠によって、飯野さんたちは消されるはずだ。ってことはこの後飯野さんたちを悪くいうんだろうな。僕としてはその映像を見ていたかったけど、嫌な話は聞きたくない。だから、


「ここ、早めに抜けよっか」


「ええ」


「この戦いは、この世界を解放するために、勃発した戦いです。という事で、この方たちは、英雄とみるべきなのです。ましてや、戦犯や売国奴と言うのはもっての外なのです!」


映像は資料の山になっていた。こんな功績が有ったり、この町を守るために苦心した話をしたりしているけど、人が一人また一人と、興味を無くし、また、日常が脅かされるのが嫌で、疎らになっていく。その中で僕は立ち止まっていた。いや立ち止まってしまっていた。


「奈波ちゃん、行きましょう。また皆に奇異な目で見られますよ」


「あ、うん。あの人たちが英雄なわけないもんね」


自分に言い聞かせるために、嘘をつく。こんな事言うのは嫌だけど、でも皆に嫌がらせ受けるのも嫌だ。

そっと講演していた同い年ぐらいの少女に目を向ける、あれ? なんか目が合った。慌てて視線を逸らして、僕たちは歩き出す。

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