第3話 胡乱な者ども
防災センターに戻ると、気付いた真宮さんがこちらに手を振ってきた。どうやら収穫があったようだ。
「いくつか遠隔でシャッターが開くことができましたわ。これで行動範囲も広まったと思いますよ」
「何度も警報鳴らしまくって超焦ってましたスけどね、真宮さん。警備さんの操作いつも見てたんじゃなかったんスか」
笑いながら羽場が突っ込む。責めているわけではないことが伝わったのか、真宮さんも苦笑しながら答える。
「いやあ、見てるだけと実際にやるのじゃ違うねえ。自分の仕事上だと充分そのことは理解してるつもりですが。ひとに教えるときはおいらだって、見せるだけじゃなくて、本人に実際にやらせてみせたり」
「あァ~分かるッス。オレも新人のときはずいぶんこき使われました」
「お、営マネに言っておきますか? なんてな」
ずいぶんと意気投合していた。それだけはやめてくださいよ~と羽場が身振りしながら、彼は佐倉さんのいる保管庫のほうへ寄っていった。
「佐倉さーん、首尾はどうッスか?」
「特に、……っと。ありませんね」
呼ばれて、ようやく佐倉さんが顔を出した。その額に流れる汗を腕で拭う。
防災センターでの収穫は、ひとまずはそのシャッターの開放ぐらいだろうか。まだまだ探索できてない部分がある以上、希望は
(……でも、それ以上にかなりの収穫があったんだよなあこっちは)
怪物――いや、悪魔と呼ばれていると言っていたか。あの悪魔のことを公言はできない。他言無用と縛られるも破った場合のリスクは説明されなかったが、ここは遵守するが吉だろう。
キツネの悪魔は、自身を首謀者ではなく協力者だといっていた。力を貸していると。つまりこのゲームで起こる不思議現象は悪魔の仕業で、ゲームを起こす理由を持つ者は別にいるということだ。
このタイミングで、俺の目の前に現れた意味。そして助言。それはきっと、あの悪魔が『このゲームに飽きてきた』から、または、彼が言っていたように『つまらない
もしそうだとすると、悪魔と首謀者の間に強力な絆は存在しない。手を貸す程度のものだ。悪魔もこのゲームを、面白がって見ているものというくらいの認識かもしれない。
――逆に、すべて首謀者の手の内で、悪魔に助言するよう指示していた可能性。…………いや、あの態度からしてこれは違うか。
分かっているのは、きっと、このまま謎だけを解いて行っても出口は見つからないということだ。――あの【条件】をクリアしなければ。
そして、脱出が可能ということがほぼ確実になったということ。
これはある意味で、嬉しい誤算だった。
いままでは雲をつかむような話だった。ルール説明はされど、本当にここから出られるのか、首謀者の目的が分からない限り永遠の謎だと覚悟していたが――あの存在するはずもない者が存在し得た情報こそが、絶対のルールだと確信できる。
ここから生きて脱出するんだ。
そのためには、俺は俺自身と、そして東堂さんと向かい合わなければならない。
「……どうしたのよ、何か考え事?」
となりから声をかけられて思わずビクついてしまった。東堂さんは前かがみになって俺の顔を覗き込んでくる。
「熱があるとか……」
「やっ、だ、大丈夫ですから……!」
「でもさっきから様子が変よ」
「横須賀ヘンリー?」
「いや無理矢理すぎる! やっぱり変よ、なにかあったの?」
俺は思わず口ごもってしまう。他の三人からも、奇妙な目で見られはじめた。やめてくれ、面白いこと言わなきゃいけない空気じゃないか。
「ちょっと、狐につままれまして」
我ながら言い得て妙だと思った。さて反応は。ふむふむ、なるほど、呆れ半分、蔑みが半分といったところか。泣いちゃうよ? あと怪訝が微小――
――その怪訝な眼をしたのが、首謀者か。
悪魔の言葉を思い出す。そう奴は――『あやつらは驚かしがいがなかった』といっていた。複数形だ。
(この二人だとは)
首謀者はひとりではない。うすうす感じていたのが、あの悪魔の言葉から確信に変わった。
確証を得るには、まだ材料が足りない。だけど当分は、この二人をそうだと想定して考えながら動いてよさそうだ。
どうして。
どうしてこんなことをするんだ――。
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