第6話 カーテンの向こうは?

 本気か、はたまたちょっかいをかけているだけか。


 羽場だと、後者のほうがあり得る。というより後者のほうだと信じたい。


 しかしまさか、コイツにかぎってそんな……?




「本気ッスよ」


「……別に、俺には関係ない」


「へえ、まだまだ余裕そうですね」


「第一、なんで俺にそれを宣言する。……たとえば、俺がGMと仲良くてそういう雰囲気だったとして、お前にメリットはあるのか?」


「メリットなんていう話ですかねえ。これは、勝負っすよ、勝負――そうですね。早速、こいつでやってみないすか」


 そう言って彼が手に掲げたのは、物色していたTシャツだった。


「ファッションセンス勝負。ここにあるものから着替えて、GMに気に入って貰えたほうが勝利。どうすか?」


「誰が受けるか、そんな勝負」


「受けるかどうかは置いても、ずっとそのスーツじゃ汗くさいでしょう。着替えはするッスよね? やっぱそこで、GMの目に留まるかどうかって重要だと思うんすよねー。隣に立つ者として、センスは大事ですよ」


「……大事なのは、その人に合うセンスかどうかじゃないか?」


「お! いいこと言いますね。さすが、先輩ッス」


 そこに敬う気持ちはない。むしろ神経をさかでしてくるようで、もはや挑発だ。

 一体、羽場の狙いはなんだろう……?


 そんな、怪訝けげんな顔をしていたのだろう俺を見て、可笑おかしくなったのか羽場はニヤニヤと笑みを浮かべた。


「今まで周りの人間に興味を持たなかったツケですよ、樫村さん」


「お前……協力する気はないのか」


「それはこっちの台詞せりふッス。先に敵意向けてきたのはそっちじゃないすかー」羽場は気まずそうに頭を掻いた。「でもまあ、キツイ当たり方して申し訳ないッス。この服のセンス勝負も、仲を深める遊びの一環として楽しみましょうよ」


「はあ…………わかった。こっちこそすまなかった」


 すべてこいつの手の平の上で転がされてる感覚だ。

 一枚上手な気がするのは、気のせいではないだろう。あまりにも俺のコミュ力不足に辟易する。




 気を取り直して、それぞれ別れて服選びを開始。




 そして、再集合した。

 お互い気にする人目もなかったので着替えたから待ち合わせとなった。


「樫村さん……それ……」


「お前……マジか……」


「まあ……行きますか」


「そ、そうだな……」


 変な雰囲気のまま、俺たちは東堂さんの方へ移動することにする。

 レディースゾーンに居るはずだが。


「GMー? どこいますかー?」と羽場が声をかけると、


「え!? 二人とももう着替え終わったの?」


 という声が違う方向から聞こえてきた。

 おそらくレジの隣にある試着室コーナーにいるのだろう。

 まあ、着替えてる途中に俺たちと遭遇する可能性もあるし、そりゃそっち行くよな。


「GM~?」


 声をかけながら試着コーナーへ赴く。複数あるブースのうち、ひとつだけカーテンが閉まっているところがある。その中にいるのだろう。

 わかりやすいことに、そのカーテンの前に靴と、カゴに入った服が置かれていた。よく見ると今まで東堂さんが着ていたスーツだった。


 ……なんかちょっとドキドキするな。


「脱いで放置された服なんて、ちょっとドキドキしますね」


 なんて羽場がこそりと耳打ちしてくる。まったく同じ思考回路だった。


「あ、あの……二人とも、そのー……えーと……」


 ブースの中から東堂さんの声が聞こえる。なぜか歯切れが悪い。


「どうかしましたか?」


「いやー、その、ちょっと閉じ込められちゃって」


「え!?」


 驚いて俺がカーテンを開けようと手をかけると、「待って!!」と制された。

 勢いあまって力が入ってしまったが、たしかにそのカーテンはビクともしなかった。鍵でもかかっているのか、開かない。


「あ、いや、開かないんだけどね。アハハ」


 なぜか東堂さんの声がたどたどしい。一体どうしたのだろう?


「樫村さん、これ」


 羽場がカーテンの上のほうを指さす。

 そこには、やはりというか『謎ボード』が掛けられていた。


 こんなことがあるのか。閉ざされるのは、事前に設置されているものばかりだと油断していた。


「GM。こっちにボードがありました。やっぱり謎を解かないと、ここは開かないみたいです」


「そ、そうなの…………。あのね、正解しても、カーテンはまだ開けないでね?」


「? どうしてですか」


 キョトンとする俺だが、羽場はなにか察したらしい。俺の肩を叩いて、カーテンの前に置かれた服を見る。


 ……そういえば、普通なら、自分の服までブースの中に置いておくはずだが。


「GM、なんで服が外にあるんです?」


「や、ほか誰もいないし、ブースも狭いし、大丈夫かな~って。下着だけだし、ちょっと解放感もあって」


「えっ、下着だけ!?」


「こ、こら! 大声で言わないの!」


「いや、オレら以外誰もいないッスから……」


 合点がいった。さっきからなにか恥ずかしそうにしているのは、そういうことか。

 もうすでにすべて着替えているものだと思っていたが――下着だけ、着替えていたのか。

 そして……いま俺たちの方に服一式がカゴに詰められて置いてあるということは。




「これは……どうしても解かなきゃいけないな」


「そうッスね。おとこ沽券こけんにかけて」


「ほんと開けないでね!?」





 PC×① + CD×② + DM×⑦ = パンツ


 PC×⑥ + HD×② + CD×⑤ = コート


 VR×⑩ + SE×⑥ + PC×④ + IT×⑥ =?


 ?に入る単語を答えよ。

                         』


 



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