第4話 フルカウント・ショッピング

  B = 3

  S = 2

  O = ?


  ?に入る数字を答えよ

             』


「これは…………」


 情報が少なすぎる。文字数だろうか、カタカナに変換? いや、違うか……。


 珍しく苦戦している俺に気付いたのか、隣で東堂さんがフォローしてくれようとするが。


「ビー、エス、オー……ボスじゃないし。び、び、ビジネス・ソーシャル・オペレーションとか?」


「すげえ無理矢理ですね……でもGM良いです、そうやって変換させていくことが謎解きの第一歩ですよ」


「び、び……ビスマス・シリコン・オキサイド」


「謎の羅列すぎる……」


「単結晶でね化学式は」


「あるんかい」


 他にもボストン交響楽団とかのイニシャルらしいが、そもそも解き方が間違っている気がする。Bはアルファベット順だと2番目だし……うーむ。


 すると、肩口から羽場がひょこりと頭を出すと、ああと心得たように言った。


「これは野球のボールカウントってやつスよ」


「――あ!」


 そこまで言われれば、すぐたどり着いた。


「ボール、ストライク、アウト! ってね。その数字が、それぞれカウントの最大数になってるんじゃないすか?」


「球場にあるスコアボードのあれか」


「それならわかるかも! ということは、Oはアウトで『2』ってことね」


 東堂さんが讃嘆の目を羽場に向ける。


「やるじゃない、羽場くん」


「ふっふ~ん、野球は好きッスからね」


「……やるじゃねえか、羽場」


「なんか恨んでます!?」


 俺の放つ敵対心は察知できたようだ。自分の見せ場がなくなる上に、東堂さんから褒められるなぞ……素直に悔しい。とはいえ、この場は彼がいてくれてかなり助かった。普段野球を観ない俺にとって、答えにたどり着くのは結構先になっていただろう。


「いや、助かったよ。ありがとう羽場」


「どういたしましてッス」


 こういうことだ。この謎解きでの脱出にはやがて限界が来る。

 このメンバーの誰もが解けない難題にぶつかったその時が……。


 それだけに、出口の手がかりとして謎ボードが見つかってほしい反面、少ない回数で早めに脱出したいという焦りの気持ちが混じる。


「答えは分かったんすけど、それでどうなるんスか?」


 羽場がきいてきた。そうか、こいつはいま半裸でスマホを持っていない。答えが分かったとしても、それを回答する手段を持たないんだ。


「スマホのこのアプリに答えを入力するのよ。そうしたら扉が開くみたいなの……こうしてね」


 実際に東堂さんが実践してみせる。「2」と入力し送信すると、見事目の前の防火戸からガシャッと開錠音が聞こえた。


「お! 押したら開けられるようになったッス! すげー!」


 まるで子供みたいだ。やれやれと俺は肩をすくめる。


 ひとまずは衣類だ。俺も着替えたかったし、東堂さんも同意見だろう。そしてなにより、羽場には早めに服を着せてやらねば。いつまでも半裸だと、正直こちらが慣れない。


 店内の照明は点いたままだった。

 それでいて、人の気配はない。普段見られない光景に、少しおぞましさを感じる。


 店内に出てすぐ隣にあるショップに入った。国内外に展開する、低価格でかつファッション性を兼ね備えた有名ブランドだ。


「私も服選んでくるね」


「わかりました」


 東堂さんがレディースの売り場に向かったのを見送ると、羽場が声をかけてきた。


「せっかく選び放題なのに、こんな安いとこでいいんスか?」


「お前、いま一文無しのくせに」


「いやいや、こんな人も居なくて閉じ込められてて、おまけにオレは素っ裸すよ。勝手にもっていっても問題ないと思うんすけどねえ」


 ようはわざわざ金を置いていくのか、という話だ。


「そりゃ、ここから脱出したときに問題になるだろ」


「些細な事だと思いますけどねえ……」


 そう言いながら、彼は自分の服を物色しはじめた。


 そう、俺はまずこの男に確認しなくてはならないことがある。





――?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る