第10話 目が離せない?
シャッターが閉まる――
突然のことに、俺の身体は硬直したままだった。
普段、館内を閉めるときに見たことがあるシャッターの降下速度とは比にならない。ブレーキ機構が破損したのだろうが、直下に誰もいなかったのが幸いだ。
ちょうど、東堂さんと羽場が手洗いを済ませたタイミングだった。二人も突然のことに驚き、しかしこちらに滑り込む前に――断絶した。
「あっ…………ぶねぇ」
「でも、分断されちゃいましたね」
「違う道を探してみますか。どこかで合流できるかもですし」
あっ、とか細い声を上げて、彼女は残念そうに言う。
「せっかく敬語が解けてたのに、戻っちゃいましたね」
……確かに。さっきまで、佐倉さんに対してフレンドリーに会話を交わしていた。こんなのは俺史上類を見ない。認めたくはないが、いつの間にか彼女に絆されたのか。
俺はすぐに「すみません、失礼しました」と謝ると、彼女は両手を振って慌てて否定した。
「戻さなくていいんです! 敬語なしで、お願いします……」
俯きがちに言うものだから、彼女の真意がみえない。
「佐倉さんは敬語じゃないですか」
「いえ、これはその、癖なので気にしないでください。……私、男性の方と仲良くお話とかしたことなかったので……欲しくても、恥ずかしくて。なので、できればカッシーさんは、それでいてください」
よく見ていたわけではないが、彼女が他の男性と気軽に会話を交わしているところなど想像できなかった。だがウチの事務所は若いショップの男性店員が受付に来たりして、その対応をしたりするだろうに。
……いや、言っているのは、仲良くできる男性についてか。
「ぼ……俺でよければ、別にいい……けど。あまりしゃべらないよ?」
「いえ、ありがとうございます。こんなときに、何言ってるんだって感じですけど、あはは」
恥ずかしそうに笑って、両手を
その様子はまるで……
まるで……仲良くなれて嬉しそうだった。
その様子は、つい勘違いしてしまいたくなるほど可愛い。
「佐倉さんって、そういう感じだったんだな」
「そっ、そういうってなんですか!? まるで初めて会ったかのように言いますけど、ずっと同僚でしたからね?」
「ご、ごめん。でもやっぱ、話してみないとわからないなって」
羽場もそうだ。少しチャラくてモテて要領が良い感じのいけ好かない奴だとカテゴライズして離れていたが、予想通りのフレンドリーで、でも実は頑固で服のセンスが悪かったりする(悪口)。
「色々発見があって、面白いよ」
「カッシーさんもなかなかでしたよ。観察日記とか――アッ」
「…………日記?」
やっちゃった、という顔だというのは分かった。逃れられないと思ったのか、佐倉さんは正直に言ってくれた。
「カッシーさん、普段誰とも話さないし、話しかけてもすーんとしてるので、もう事務所のなかではブラックボックス扱いで」
謎の人物Xというわけだ。
「プライバシー上大変申し訳ないんですけど、女子の間で観察させてもらってて」
「…………日記も、つけられていた、と?」
気まずそうな首肯が返ってきた。頭が痛くなる話だ。いや、ツケが回ってきた気分だ。
しかしそんな秘密を話してくれるとは、だいぶ信用してくれているらしい。彼女に失言癖があるという問題もあるが……。
なるほど、カッシー。モール湖に住み着く不思議生命体ということか。いやどういうことだ。
「その日記はどこに……」
「それが最近、紛失しちゃったらしくて。あ、犯人は言えませんけど」
「完全犯罪じゃないか……」
咎めたところで、なにも返ってこない。記憶の遠い彼方へ押しやっておこう。
それよりも二人が心配だ。なにより気にかかるのは、羽場。彼自身が言うには、東堂さんに気があるという。その彼女と二人きりにしてしまっている以上、何が起こってしまうか不安で仕方ない。
あの【条件】のこともある。
俺と佐倉さんは、他の二人と合流すべく、探索を再開した。
* * *
一方で、とある人物がこう呟く。
「よく書けてたな、あれ」
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