第4章

第1話 そこは”異”日常か

 閉じ込められてから4日目。

 ついに、目的の防災センターの目の前までやってきた。


 直前までシャッターにて封鎖されていた場所を、避難時に潜り抜けられる防火戸をマスターキーによって開放することによって、ようやくたどり着いた。


 しかし、来てみればあっけない。


 あっけないというのは――そのスライドドアには何も、『謎ボード』もなく鍵もかかっていなかったからだ。


「……開きますよ。いいですか、GM」


「うん、やっちゃって樫村くん」


 怖い部分はある。なにせ、俺は二度も死にかけたのだ。この扉を開けた向こう側で、首謀者が拳銃をこちらに向けていてもおかしくはないと思う。


 だけど、このブラックボックスを開けなければ、何も進展しない。


 防災センターの中から死角になる位置で、他の皆が待機する。なにかあれば俺を引っ張って動かせるように、傍に東堂さんと羽場。少し離れた場所に佐倉さんと真宮さんが配置につく。


 さて、どうなるか――。


「いきます――」


 ガラッ!! と俺は勢いよく防災センターのドアを左へスライドさせた。


 しかし、見渡す限り、誰も見当たらない。

 受付カウンターの傍に掛けられているディスプレイには、通常通り各所の安全カメラの映像が映し出されている。部屋の中央にはデスクが6つ並べて島が作られており、パソコンと書類の束が散らばっている。

 壁には分電盤と、非常放送設備や各消防設備を管理する防災盤が設置されている。


 散らばった書類は……正直、いつも通りだ。つまり、この防災センターは誰かによって荒らされているような形跡はない。


「なーんだ、ここには首謀者なんか居なかったッスね」


「羽場くん、油断しない。とりあえず、ここから遠隔ですべてのシャッターを開けられるか試してくれる」


「あ、そりゃおいらに任せなさんな。いつも警備さんのを覗いてたからよ」


 真宮さんがすすんで操作を試みる。その間、俺と佐倉さんは他の情報収集だ。


 ――さて。分かったことを整理しよう。


 人が過ごした形跡がまるでない、ということはない。普段から防災センターは24時間の勤務体制で稼働しており、ちょっとした時間につまむ食べ物や毛布など、生活用品は整っている。例えば数時間前までここに誰かが居たとしてもおかしくはない。


 では、24時間いるはずの警備員さんはどこにいったのか。これはある程度俺の中では推論がたっていた。なにも、24時間いるのは警備員だけではない。夜間にも調理場の資材整理をする者や、館内の夜間清掃員などもいるはずだ。――しかし、まったくといっていいほど出くわさない。


 これは、みんなどこかに匿われているか、追い出されているかのどちらかだろう。


 これが導き出す答えは、


 まるで、チェス盤にお気に入りの駒を置くように。


(そんなことができるのは……もはや『人外』の領域だ)


 つづいて、安全カメラの確認をする。――館ではあえて、お客様の反感を買わないために「監視」とは言わず「安全」という。


 16分割された画面には、各所のカメラ映像が映し出されている。

 その中でも外の映像が確認できれば……


「……駄目だな、外部カメラだけ画面真っ暗だ」


 まあ、屋上で外の様子が垣間見えたときには覚悟していたが。やはりというか、徹底的に外界とシャットダウンされている。

 その他のカメラでも、他の人物が映りこんでいるようなことはなかった。この大きな建物から、夜間とはいえ少なくない数の人をどうやって移動させたのだろうか。


「……ん?」


 なにか、カメラの端に影が映りこんだような気がする。


「Aグループの12番……防災センターのすぐそこじゃないか」


 見渡すと、真宮さん・東堂GM・羽場はシャッターその他設備の操作を模索しており、佐倉さんは防災センターの中にある保管庫へ赴いているようだった。


 俺は仕方なく、防災センターの扉を開けて外の通路を覗き見る。


(誰も……いないよな?)


 一歩、二歩と防災センターから館内の通路へ歩み出て、あたりを見回す。このあたりだったはずだが……。


 収穫も無し、引き返そうと踵を返したとき。 



 ――口元を、なにかで覆われた。


「ッ!?」


 目の前には、紛れもなく、『』が存在した。

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