ゼネラルマネージャーの幼馴染とショッピングモールから【脱出】する条件を知っているのは俺だけ

アダツ

第1章 閉ざされたショッピングモール

第1話 幼馴染だってこと、覚えてる?

 好きな人となら密室に閉じ込められてもいいやと思っていた俺、その通りだ間違いない。――ただし。



「ハァ……こっちは駄目みたい。他に空いてる部屋はなさそう。樫村かしむらくんは?」

「こっちも先の通路で防火シャッター閉まってますね。事務所で預かってるシャッターキーはどこですか?」

「奥のサーバー室の、キーボックスに入ってるけど……!」

「そっちは閉まってるんでしたね……くそっ」



 本気の密室は、正直いって恐怖がまさる。吊り橋効果を期待しようにも、俺もびびってるんですが!?



「樫村くん……」

東堂とうどうさん、俺もうちょっと調べてきます! この休憩室で待っててください!」

「待って!」



 駆け出そうとする俺の背中に、響きを持った鋭い声がかかった。乱れた髪を整えて、いつものように凛とした立ち姿で彼女は腕を組む。


「今日のところはこのくらいにしておきましょう。こんな異常事態なら、じきにほかの皆が気付くはずだし、警察沙汰になるのは都合が悪いけど……」

「そ、そんなの、コイツを仕掛けた犯人だって承知のはずです。時間稼ぎをデメリットにしてくるはず……それに!」


「……昔から変わらないわね、あなたは。変なところで熱血なの」


 瞬間、彼女の目が遠い昔を見ていた。

 東堂とうどう菜穂なほ――彼女とは物心ついた頃からの幼馴染であり、一時期だけ別の学校に通ってたりしたが、神の気まぐれかなんなのか同じ会社に就職していた。……そして多数の職場があるほどの大企業なのにもかかわらず同じ職場というミラクル。



 でも、そのときにはもう、俺と彼女は



「りゅ……、樫村くん。ひとまず、今日のところはこの部屋で寝ましょう」

「え? お、同じ部屋でですか……?」

「何か起きたとき二人でいたほうが安全でしょう。こんな事態になってるんだし」


 違うナニかが起きたときは考えないんですね……。

 ――まあ、手を出す度胸なんて俺にはない。俺と彼女の間には、明確な「格」の違いが存在するからだ。



 俺――樫村かしむら龍之介りゅうのすけはしがないオペレーション「担当」の一方。

 彼女――東堂とうどう菜穂なほはこのショッピングモール『シャイニーモール西多摩店』を取り纏める最高責任者『ゼネラルマネージャー(GM)』なのだ。


 昔みたいに、俺が彼女の隣に立つ姿なんて想像できない。


 なのに…………。



「応接室にソファありますし、俺そっちで寝ますよ。GMはこの休憩室のベッドを使ってください」

「あんな固いところで寝れるの?」

「いやいや、応接用だからそれなりに高価でふかふかですよ。知っているでしょう」

「あんな汚いところで寝れるの?」

「いやいや、汚いわけないじゃないですか……」

「嘘と欲望で」

「アンタあそこでどんな話してんだ」


「…………りゅうくん」


 昔の呼び方をした彼女は、休憩室から出て行こうとする俺の服の裾をきゅっと掴んできた。その指は震えており、彼女の抱えるこの状況に対する不安が震えと共に伝わってくるようである。


 いつもは凛々しく、事務所のメンバーを先頭で従える東堂菜穂は、いまこの瞬間だけは昔と変わらないただの幼馴染に戻っていた。



「お願い……今日だけでいいから、いっしょに寝て……」



 どうしてそう、理性崩壊しかける発言するの……!?




* * *




 そして同時に、俺はあるミッションをこなさなくてはならないようだ。


 俺の手に握られているスマホには、一通のメールが届いていた。



『このショッピングモールから【脱出】する条件は――東堂菜穂を恋愛的にオトすことである』


『また、この条件が彼女に知られた場合、樫村龍之介の死を意味する』

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