第6話 行き止まりのストレーガ

  下記はとある法則で並んでいる。

  ?に入る言葉を答えよ。


  曲がり角 → 本 → 問題 → 拡大 → ? →×

                            』




「急いでるっていうのに……!」


 止まないサイレンが俺の焦燥を加速させていく。停電しているうえに夜中だが、今回は真っ暗闇ではない。この休憩室に3つほど設置されている天井の非常照明のおかげで、この『謎ボード』の存在も明らかになった。


 ものは試しで扉の取っ手を掴んでみるが、そこから横にスライドさせることは叶わなかった。


 真っ向からこの謎に立ち向かうしかない。


「これ……しりとり? じゃないわね」


 東堂さんが隣で首を傾げる。――いや。


「いい線だな、それ。英語に変換してみようか」


「英語……? えっと、曲がり角、ってターンかしら。それとも……」


「いったんぜんぶ置き換えてみよう。本はブック、問題はクエスチョン、拡大は……ズームかな」


「しりとりにならないわね……」


「いや、まだまだだ。もう少し探ってみよう。――曲がり角は、カーブもいけるね」


「カーブ……あっ、ブ! 次のブックと繋がるわ!」


「次にクエスチョンか。でも『ン』で終わってしまうな」


「それなら、『クイズ』でいけるんじゃないかしら」


「それだ!」


 こうして2人で会話しながらだと、なんと組み立てやすいことか。これならどうにかなる。


 つまり、

 カーブ→ブック→クイズ→ズーム→……となるわけだ。


「最後の『×』って……ってこと?」


「『ン』でゲームセット、ってわけだな。すると、『ム』で始まり『ン』で終わる単語が、答えだ」


 東堂さんは自分のスマホを取り出した。分かったらしい。


「ムーン! 答えは『月』だわ!」


 扉の鍵が開いた――。


 俺達たちは1階へ下る階段のほうに急ぐ。初めて体験するが、非常照明ってあんなに小さな照明なのにこんなに照らしてくれるんだな。おかげで俺たちは、停電中にもかかわらずかなり早い段階で防災センターに辿り着くことができた。


 そこにはすでに、真宮さんがパソコンに向かっている姿が見えた。東堂さんが声をかける。


「真宮さん!」


「おう、どこ行っとったんですか! ちょいと面倒な感じになってますわ」


「構内ですか、構外ですか」


「ウチ側です。こりゃちょっと、受電S1に行きます。ぐっすり寝てたのに、とんだ目覚ましですわ」


「羽場くんと佐倉さんは?」


「寝ぼけてる感じでしたんで、事務所に置いてきてしまいました。おいらについてきて欲しいのと、ここで待っていてほしいのとがあるんですが」


「じゃあ」俺はようやく口を開いた。「俺が行きます。GM、防災センターをよろしくお願いします」


 東堂さんは一瞬なにかを言いかけたが、飲み込んでしまったようだった。真宮さんがすぐに「お願いします」と追い打ちしたのもあるかもしれない。


 真宮さんは防災センターに常備されている無線を手にし、ヘルメットを抱えて飛び出してしまう。俺もならって、必要なものを抱えたのちに彼の後を追う。


 受電施設はこの建物に計3つあると聞いている。そのどれもが駐車場の隅に構えており、ナンバリングが最初のS1は、電力会社から電気を供給する本線・予備線が引き込まれている場所だという。


 つまり、電気が送られてきている大元で、なにかが起きている。


 従業員のみが使う後方階段を一気に3階まで駆け上がり、通路から扉一枚で簡単に駐車場に出て行ける箇所に向かう。まさかここでも『謎ボード』で閉じられているんじゃと案じたが、すぐさま真宮さんが勢いよく扉をあけたので杞憂だった。


 普段はセキュリティカード等を使わなければ突破できないのだが、停電で緊急事態ということで、誰でも避難できるようにパニックオープンになっているのか?


 ともかく、俺と真宮さんは受電施設に到着した。

 駐車場の一角の壁面に扉がくっついており、扉には「S1」と電気主任技術者の記載がある。俺が駆けつけている途中で、遠目で真宮さんがこの中に入ってしまったのを確認している。


 俺たち事務所の人間は、なかなかここに立ち入ることはしない。おっかなびっくりしながら、俺は抱えていたヘルメットを頭に装着し、その扉を開く。


 ――施設内は明るく、長方形の室内の中央に、キュービクルと呼ばれる受電設備が並んでいる。


 その奥のほうに、見覚えのある――見たくないものを、見てしまった。


「あ、悪魔……!」


 キツネの獣人。怪物。

 あのときの恐怖が足元から寒気と共に蘇ってくるようだった。

 その悪魔はすぐさま俺に気が付き、フレンドリーにこちらを向いて手を振ってくる。


『ようやく来たか』


「この停電も……あなたが仕組んだんですか」


『ちょっとじゃがな。つい手を出したくなっての』


 ニヤニヤと、何かを楽しんでいるようだった。二度目だからか、最初に這い上がってきた恐怖は、じわじわと落ち着いていくようだった。悪魔に慣れてしまうなど、普通の人間失格だな。


 そして――部屋の中ほどまで歩み進めたところで、俺の背後から声がかかる。



「やっぱり、キミも『』と知り合っていたか」



 それは、俺がと睨んでいた人物だった。



「真宮さん……!」

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ゼネラルマネージャーの幼馴染とショッピングモールから【脱出】する条件を知っているのは俺だけ アダツ @jitenten_1503

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