第8話 浮かぶ疑念、どこへ向かう?
『
このゲームにおける初日の夢の名前を答えよ。
』
『 ヒント:3つの頭 』
求められているのは夢の名前だ。ありがたいことにそのおかげで、選択肢はかなり限られることになる。
だけど、この問題では選択肢なんて不要だった。
この閉じ込めが起きた初日を思い出そう。
主催者側から行われた大きなアクションといえば、シャッターや扉での閉じ込めと、ルール説明のアナウンス、そして『謎ボード』による挑戦権の付与だ。
初日に解いた謎は――たしか3つ。
ここに引っ掛かりさえすれば、おのずと答えは見えてくる。
ヒントの”頭”とは、やはり”頭文字”のことをいうのだろう。それが3つ。つまり謎の何かの頭文字3つを組み合わせることで、答えに近づくことが出来る。
何かとは――答えだ。
順番に思い出す。初日に解いた謎の答えは何だったか。
ひとつめ、『ようこそ』
ふたつめ、『
みっつめ、『ムギ茶』
その頭文字を繋げると――夢の名前になる。
「答えは……『
扉が開いた――と同時に、俺は東堂さんを抱えて脱出し、いま出せるだけの大声で助けを呼んだ。
「誰か! ――お湯とタオルと……!」
* * *
俺たちは2階のモール事務所まで戻ってきていた。この2日の間に、近くの階段等を解放することができたのもあって、1階の冷凍庫から近い場所で安静にできるのが、この部屋だった。
意識
一方で俺は、毛布に包まれながらも、目の前のサーバー室の扉を見つめていた。
モール事務所のGMの席の後ろに隣接しており、事務所のサーバー関係の精密機器や、建物全体の鍵を管理するボックス等、貴重なものがこの部屋に一緒くたになって保管されている。
(閉じ込められた初日には……ここに『謎ボード』なんてなかったのに)
いまは――ある。
こういう仕掛けの準備は、いつの間に行われているんだろうか?
首謀者は防災センターを根城にしてこちらの様子を観察している。その可能性が高いと俺たちは踏んで、目的地を定めたのもある。しかし奴がずっとその場に留まる道理もない。
このように、ときどき『謎ボード』がなかった場所に突如出現するような事象が何度かあった。それは、俺たちの進行具合をみて随時判断しているということだろうか。それとも、単に準備が遅れていたから……?
俺はひとつの仮説をたてる。
冷凍庫に閉じ込められた時。背中を誰かに押されたような感触が、ぞわりと寒気と共に思い出される。
(案外、近くにいるんじゃないのか……? たとえば、俺たちの中にとか)
あんなことをするのは、間違いなくこの脱出ゲームに与する者だけだ。
羽場健斗。
佐倉こころ。
真宮吾郎。
そして、もしかしたらどこかに隠れているかもしれない第三者。
命の危険を味わうのは、このゲーム内で2度目だ。
死に目に遭うたび、あの条件を思い出す――彼女に知られた場合、樫村龍之介の死を意味する、か。
いつでも殺せるぞ、という意思表示なのか。
まったく、惚れさせるだのなんだの色恋に集中できるような精神じゃいられなくなるというのに、あんなことが続けば。…………続けば?
(……あれ? じゃあなんで――)
「樫村さん、なにみてんスか?」
横から声をかけてきたのは羽場だった。彼は俺と東堂さんが冷凍庫に閉じ込められている間、遠く離れたEPS(電気設備のある小スペース)の中に居たという。EPSに入れる鍵を持っていた真宮さんも一緒だったと、真宮さん本人からも裏を取れた。
「あれ、ここにも謎あったんすね。気付かなかったッス」
「うん。なんか増えてるみたいだね」
「樫村さん、ずっとここの前で立ち尽くしてたから……もしかして苦戦してんすか?」
「言うね。じゃあ羽場くん、解いてみようよ」
「えぇー……」
「えぇーじゃない」
『
ある : なし
---------------------------------
せなか : おなか
とうけつ : しゃくねつ
くすのき : えのき
あかね : ゆうやけ
「ある」のほうに共通することは何か答えよ。
』
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