第3話 服泥棒に心当たりはない?
彼が中心に話が回るとまではいかないが、彼が事務所に入ると場の緊張感が少し緩むし、お店の店員さんたちも話しかけやすくてよく彼にお呼びがかかる。
仕事ぶりもそれなりで、つねにくっちゃべっているわけではないのでモードの切り替えが上手いのだと思う。
そんな気やすく話しかけやすい空気からか、事務所のみんなからはだいたいタメ口で呼ばれているし、俺も珍しく「お前」とか呼んでいる。本人は「まったく気にしないスから、いいすよ」と気さくに言っていた。
後輩だからというのもあるだろうが、俺も少しは気を許しているうちの一人だ。
まあ……いまはちょっと一枚壁ができた感じだが。
「羽場……お前服はどうしてそうなったんだよ」
「聞いてくださいよ! ずっと1階の商管で寝泊まりしてたんですけどね」
商管とは商品管理室のことをいう。1階でスーパーを展開する『シャイニーリテール株式会社』がもつ部屋で、各商品の入荷・在庫管理を行う部屋だ。
「先に下着とか洗ってたんすけど、やっぱ上も匂いとか気になっちゃって。清掃控室の洗濯機を使ってたんですよ」
「まあ1階のその辺は調理作業場も近くてちょっと臭うもんな。んでパンツ一丁だったのか」
「そのままちょーっと探索したくて、どうせ他に人もいないし、階段上りきったところでドン! 今まできた道を封鎖されちゃって。防火戸っていうんすかね、アレ」
「で、閉じ込められてたってことか。本気でやばいやつじゃん」
激しく首を縦に振る羽場。しかし東堂さんは首を傾げた。
「でもあなた、急に服が無くなったって言ってなかった?」
「あ、それっす! 探索してた理由にもなるんですけど。服を全部洗濯機にぶち込んで回してたのが……気づいたら中身が無くなってたんですよ!!」
少しホラー風味を混ぜて話す羽場。正直ギャグにしか聞こえなかったが。
「ほかの誰かが盗っていったってことかしら?」
「ド変態ですよそいつ!」
「お前のその姿で言われてもな」
「いやマジ、服は無くなるし閉じ込められるしでノーアウト満塁って感じッス」
「にしては余裕の態度だなオイ……」
しかしまた別に第三者がいるという可能性があるのか。服を盗んだ理由は分からないが、その人物もこの閉じ込めの被害者なのだろうか……。
「ひとまず、服の調達をしたほうがいいか」
下着類も必要だと思ってたところだ、ちょうどいい。
現在俺たちは2Fのバックヤード通路にいる。
調達するとしたら、この2Fのフロアにあるアパレル雑貨店に向かったほうがよさそうだ。
「そうね。いつまでもバックヤードにいないで、店内に出たいわね」
「そこの通路、行った先で出られましたよね」
「あ、そこ行ってみたんすけど、扉が閉まってて先進めなかったッス」
どうやら羽場は退路を断たれた後、ある程度動ける範囲で探索していたらしい。彼が閉じ込められていたこの空間で、出口は3つ。
1つは今開けたシャッターで、1つは彼が上ってきた階段に繋がる扉。そしてもう1つ、三股に分かれて通路が伸びており、その先が店内――いわゆる客用フロアに出られる出入口だった。
「なんか、変な看板がかかってなかったか?」
「あ! ありましたねそういえば」
俺と東堂さんは互いに見合わせて、その扉のほうへ歩いていく。
そして、扉――防火戸が閉じている突き当りまでたどり着き、それを見つけた。
『
B = 3
S = 2
O = ?
?に入る数字を答えよ
』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます