第2話 屋上に巣食うのは変人?

 俺と佐倉さんは、屋上階まできていた。

 屋上階のバックヤードは、清掃用具なんかの物置になっている。モップからポリッシャー、トイレットペーパーの在庫まで。


「なんか……フロアカーペットが積まれてベッドみたいになってるんだけど」


「誰か住んでいたんですかね?」


 俺たちはあまりこの場所へは踏み込まない。しかし監視カメラでチェックされているはずなので、普段ここでサボる人はいないはず。ということは……。


 もしかしてという期待を込めて、俺は駐車場に出るドアの取っ手に手をかける。

 やはり、今までのように謎でロックされていない。元々鍵がかかっていないか、もしくは謎が解かれたか――。


「うあ……久しぶりの外だ……」


 風は少々、気温もそこまで高くなく、かなり気分が良い。

 見上げると晴天が広がっていた。いつも見上げる青空だ。


「なんか、安心しますね。ずっと室内だったので」


「うん、これで色々考察できるな」


 最大の謎に迫るときかもしれない。この閉じ込めが、どのような理屈で成り立っているのか。


 ――だけど、俺は心のどこかでそれを諦めている。


 きっと、



 駐車場を取り囲むようにフェンスが並んでいる。

 その向こう側には、この建物を運用するうえで必要な設備が揃っていた。

 受電設備、熱源設備、非常用発電機、高置水槽、その他諸々……。

 普段見ないから、新鮮だな。


 俺たちはそれらの設備をかいくぐり、外の景色が見える位置までたどり着いた。


 そして……。



「……普通に、外の景色見えますね……」


「…………」


 なんか、変だ。


 空の雲は動いている……けれど。


「人も、車も――


「えっ、あっ」


 嘘……、と佐倉さんが受け入れられない気の持ちようを漏らす。

 にわかに信じられない。まるで現実味を感じられない。俺たちは魔法にでもかかってしまったのか。


「時間が止まった、って感じだな。でも閉じ込められた時刻が深夜だったわりには晴天になっているし、空模様だけ時間が進んでいる……? あとは、今見てる街の風景だけが何かの幻覚とか」


「でもなんか、警察とか消防隊とかが救助に来ない理由が分かった気がしますね。これじゃあ外の助けは絶望的ですか」


「太刀打ちできるのか、こんなのに……」


 高いところから見下ろしているせいなのか。それとも、得体の知れない現象を目の当たりにしたせいなのか。ぞわりと寒気が足元から襲ってくる。


 すると、佐倉さんが変なことを言い出した。


「大声を出したら、誰か気付いてくれますかね」


 そ、れは……どうでしょう。かなり原始的だな。そもそもこの高さから届くものなのだろうか。息を整える佐倉さん。あれ、もしかしなくても準備しちゃってる? 本気でやるつもりかちょっ



「やっっっほぉぉぉぉ――――――――――――っっっ!!!!」



 あまりの大声に、そして先ほどまでの足の震えからか、俺はつい尻餅をついてしまった。その様子を見て佐倉さんが笑う。


「カッシーさんでも転ぶんですね」


「佐倉さんでもそんな大声でるんだな……」


「なんだ、そんなとこにいたんか」


 第三者の声が介入した。

 振り返るとそこには、作業服を着たおじさんがいた。首にタオルを巻いており、腰に工具ホルダーをぶら下げている。

 この人は……


真宮まみやさん!」


「声かけてくれればいいのに、びっくりしたよもう~。いつから居たの?」


「さっきです。真宮さんこそいつから……」


「ん? なんか出られなくなっちゃってさあ。無線も繋がらないし、仕方ねーから仕事してたよ。みてほら、ずっとルーフドレン詰まってたから掃除しといた」


 真宮まみや吾郎ごろうさんは、防災センターで勤務する設備員の一人だ。

 設備員とは、日々このモールが営業していく中で、稼働する設備の日常メンテナンスや緊急対応を行っている方々のことをいう。


 なかでもこの真宮さんは、50を過ぎる歳を感じさせないパワフルさを持ち、設備に関する知識が豊富のため、すごく頼れる人として人気者だ。50過ぎにしては外見がかなりけているため「設備のおじいちゃん」と親しまれている。


「閉じ込められてから、よく過ごせていましたね……食べ物とかどうしたんです?」


「ちょうど残車があったからさ。緊急事態だし拝借させてもらったわ。駄目だった? 窓ガラス割っちゃったけど。あーでも寝床にはできなかったなあ」


「じゃあやっぱり、物置のところのカーペットが積んであったのは」


「そうそう、あそこで寝てた。案外寝れるよ、大発見」


 この人なら無人島でも生きていけるんじゃないか説、濃厚。


「君ら、どこから来たの?」


「あ、そのバックヤードのエレベーターからです」


「そっちかぁ~」彼は頭をポリポリと掻いた。「客用のほうさ、謎が解けねーんだよ。わかるかな?」


 真宮さんに案内されるがまま、俺たちが屋上に出てきた方とは真反対側にある客用エレベーターの方に行く。


 そこにはやはり、謎ボードが掛けられていた。



  以下の数字の列において、

  〇に入る数字を答えよ。※すべて同じ数字である。


      1235〇〇2222

                         』













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前話 なぞなぞ解説

 ※なぞなぞなので、ほぼ引っ掛け要素だと見越して答えます。納得いかない部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。


問題①イワシを1匹加えてきたので、合計6匹。

問題②合羽はレインコート。

問題③ひらがなをカタカナにした後、1画を足し引きしてあげる。「タ」から1画引くと、「ク」になる。

問題④「ひつじ」において、”ひ”が”し”になると、「しつじ」となり人間である。

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