第3話 エレベーターのなかには…
『
以下の数字の列において、
〇に入る数字を答えよ。※すべて同じ数字である。
1235〇〇2222
』
「この数列がさ、わけわかんなくてよ。樫村さんは分かる?」
真宮さんが所属する防災センターは、ウチが業務委託をしている別会社の人間が詰めている。要するに俺たちはお客様となるため、真宮さんも丁寧に俺たち年下の人を「さん」付けで呼んでくれている。
「ええと……これはちょっと時間かかりますね」
「カッシーさんにしては珍しいですね、苦戦なんて」
「いや、買いかぶりすぎだから……」
俺たちがいるのは、客用エレベーターが三基
真宮さんが天井のエアコンを見上げて「中間期にしてはフィルター汚れてんな。動かしてないはずだし、あとで運転スケジュール確認しねえと」などとチェックしていた。自由奔放な人だ。
一方で佐倉さんは俺の隣でううむと唸りながら謎を解いているようだ。そういえば彼女がこういうのを解いている所を見たことないけど、どの程度馴染みがあるのだろうか。
「テレビの番組を見てたくらいですよ。脱出ゲームが好きな友達もいて誘われたりしましたが……結局そのままですね」
「脱出ゲーム?」
「ご存じないですか?」
「いや、どこかで耳にしたくらい、かな」
「まさに今の状況ですよね。こうやって謎を解いて、脱出するためのアイテムを集めたりして、条件をクリアすることで閉じ込められた場所から脱出する。現実にアトラクションであったり、最近はオンラインのゲームで遊べたりするらしいです」
「今の状況――脱出ゲーム、か」
首謀者も知っていてこんなことを仕掛けているのだろうか。であれば、名の通りこれは「ゲーム」なのだろう。しかし【条件】に俺の死が関わっていたりと、到底遊びでは済まされない。
「それで、解けましたか?」
さも当然のように聞かないでほしい……俺は別に、こういうの得意なわけじゃないんだからな。
「ごめんまだちょっと。等差数列でも等比数列でもないし……数学的に規則がある感じがしないんだよね」
「最後に2が連続してますしね……。数字が関係するとなると、五十音とか画数とかアルファベットとかですか」
「…………あっ、それだ!」
「……え?」
俺の気づきに、佐倉さんはポカンとしていた。
「画数なんだ。しかもこれは、漢字に変換する」
「どういうことですか……?」
「えっとね」俺は一息ついてから説明を始める。「これは1~10までの数字の列なんだよ、しかも漢字のね」
「一、二、三、四……って感じにですか」
「そう。そして、その漢字の画数が、この数列の数字なんだ」
「…………あっ、なるほどです。だから左から4つめは、4→四→5(画数)で”5”なんですね」
「後半4つは、七八九十で、みんな画数が2だから全部”2”になってるってこと」
つまり、以下のようになる。
①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩ → 一二三四五六七八九十 → 1235〇〇2222
「〇に該当するのは、五と六で、どちらも4画だから答えは”4”ってことだね」
「はー……さすがですね」
なにやら感嘆しているようだが、ほんと、買いかぶりすぎだ。
「今のは佐倉さんのおかげだよ」
「そう謙遜せずに、素直に受け止めてくださいよぉ。カッシーさんのこういう特技、たぶん私以外……あ、いえ……職場のみんなは気付いてないと思いますし」それに、と彼女は続ける。「せっかく褒めてるのに、こっちが馬鹿にされてる感じがしちゃいますから」
思わず面を喰らってしまった。そうやってストレートに言ってくれることなんて、今まで職場でそうそうなかったからだ。こうして佐倉さんの口から聞けるということは、少なからず緊急事態下で心の距離が縮まったとみていいかもしれない。
「……うん、気を付けるよ。ありがとう」
「……っ。そ、そうやって急に素直になるのも、変な感じです!」
怒られてるのか、驚かれているのか。年下の女子のことはよくわからない。こう一括りにしたら東堂さんあたりから叱られそうだけど。
さて、俺はスマホに「4」と入力して送信したところ、見事正解だったようで、エレベーターが起動を始めた。
はじめは「2」にランプが点灯していたのが、どんどん上昇していって「R」を指した。
3基並んでいるうちの、真ん中の扉が開く。
そしてそこには――――
「…………あれ?」
「え、あ……」
どういうことか、東堂さんと羽場が乗っていた。
「……えーと?」
いや、乗っていたことには大体想像がつく。おおかた、俺と佐倉さんと同様に、こちらと合流しようと模索した結果エレベーターで別の階を探そうとしたのだろう。
だが、俺は混乱してしまった。
俺を代弁して、佐倉さんが言ってくれた。
「GM……なんで羽場くんに抱き着いてるんですか……?」
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