第10話 忘れてちょうだい。
おっと危ない、ノックを忘れては。
俺はドアのコンコンと叩いてから言った。
「樫村です。入ってもよろしいですか?」
はい、という声が聞こえたので、「失礼します」と頭を下げながら応接室に入る。
ソファに腰を落ち着かせ、毛布を肩にかけている東堂さん。真宮さんからきいていたように、どこかうつらうつらと、いまにも横になって寝息を立てそうな勢いである。
「樫村くん……助けてくれて、ありがとね」
「いえ、無事でなによりです」
俺はドアを閉めて、机を挟んで向かい側のソファに腰を下ろす。
「GM――」
「樫村くん!」彼女は俺の言葉を遮った。「あの……あのとき言ったことは、忘れてちょうだい」
「…………あのとき言ったこと、とは?」
「……むー、言わせるつもり?」
「冗談ですよ。了解です」と俺は手を振り否定する。おそらく『あの頃に戻りたいか』と問うた時のことだろう。あのときは意識も曖昧で、思ってもないことをつい口にしてしまう可能性もある。
東堂さんはほっとした様子で、手に持っていたお茶入りのマグカップを机に置く。
「それでね、樫村くん。私あのとき、背中を誰かに押された気がしたの……」
――やはり、そうか。俺の覚えた感触は間違っていなかったということだ。
しかしここで俺の推論を明かすのは、ちょっとリスキーな気がした。……この5人の中に首謀者がいる可能性。GM本人に警戒してもらうことができるが、その分精神をすり減らすことになるだろう。身内に自分を危険な目に逢わせた者がいるというショックも大きい。うん、やめておこう。
「どこかに首謀者が潜んでいるかもしれませんね」
「こわ……ゴキブリみたい」
「じゃあ100人くらいいるんじゃないすかね」
「害虫駆除してもらわなきゃ。特殊施工頼めるかしら」
「作業報告書の写真は見たくないですね……」
冗談にしては殺意が高すぎるぜ……。
「ともかく、はやく脱出しないことにはね」
「はい。いま、サーバー室が開きますから、そしたら色々手に入りますよ」
「色々って――」
* * *
一方、サーバー室の前に羽場と佐倉は来ていた。
「えーと、『方角』だよな……よし、どうだ!」
「あ、開きましたよ、サーバー室」
「よしっと……。久々に見たな。普段入らねえからなあ」
「カッシーさんは何が欲しいんでしょう?」
「そりゃこの――『マスターキーボックス』だろ」
「なるほどですね。でもそれで行ける範囲って……あ、そっか。防火戸とかもこれで開けられるんでしたっけ?」
「たしか全部じゃなかったはずだけど、シャッターの横についてるやつは、これで行けたはずッスよ」
「じゃあ、ようやく防災センターにたどり着けますね……!」
「…………」
「……? どうかしましたか?」
「佐倉さん。オレと手を組みませんか」
「ん、何がです?」
「オレはGMを狙ってます。佐倉さんは樫村さんを、狙ってますよね――――」
そんな彼らの足元に置いてあるマスターキーボックスには、『謎ボード』がかけられている。
『
?に入る言葉を答えよ。
12 = 位置
312 = 遺産
453 = ?
』
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