第6話 お前はGM、でも俺は?

 虹色とエメラルド色と深緑色を混ぜると、赤色になる。


 灰色と橙色とラベンダー色と深緑色を混ぜると、金色になる。


 では、青色と赤色と橙色と白色と濃紺色を混ぜると、何色になる?

                               』





「また面倒そうなのきたな……」

 俺たちを閉じ込めた首謀者が楽しんでるのがよくわかる。

 ほんとに楽しむことだけが目的なのだろうか。こんなにわざわざ手のかかりそうなことをしてまで、得るメリットがあるというのか。

 いや、こんなことを企てるだけで変人だ。まともに額面のまま受け取ってはダメなのかもしれない。


「ええ、なにこれ。こんなので赤色になるわけないじゃない」


「まともに受け取ってる人いたよここに」


 やはりというか、東堂さんは謎解きに免疫がないらしい……。


「これも謎解きですよ。言葉遊びの一環ですね」


「え、もうわかったの!?」


「いえ……」


 解き方は掴みかけているが、正直知識量が圧倒的に少ない。ここは東堂さんに助け舟を出してもらおう。


「深緑色……って、英語でなんて言うんですか?」


「ディープグリーンね。ダークグリーンとも言うらしいけど」


「なるほど、じゃあ濃紺は?」


「ネイビーじゃない?」


「解けました」


「早!!」


 東堂さんは心底驚いてくれているようだ。リアクション抜群で大変よろしい。でも暗闇で大声はやめてください。


「全部英語にするんですよ。そして、それぞれのアルファベットの頭文字を組み合わせる」


「アルファベット……。rainbow虹色emeraldエメラルド色deep green深緑色……それでred赤色ね!」


「はい。その下段も同様なので省きますが、最後の何色かと問いているのは、blue青色red赤色orange橙色white白色、えーとnavy blue濃紺色ですかね。――それで答えは、brown茶色です」


 俺は自分のスマホの入力画面に『茶色』と入力しエンターキーを押すと、目の前の扉から錠が外れたような音が鳴った。

 ……おっとしまった。解く前に、そもそも扉が施錠されているのか確認すら怠ってしまっていた。俺は無意識のうちに首謀者の言葉を聞き入れ、奴のルールに則って行動してしまっている。嫌な刷り込み具合だ。


「すごい……こんなに早く。もしかして樫村くんって天才?」


 もっと言ってください。


「正直引くわ……」


 評価があらぬ方向に行ってしまった……。


「もっと仕事のほうに活かせばよかったのに」


「どう活かせばいいんですか……。それに今のは東堂GMがいたから解けたまでですよ。ほんと勉強とか苦手なので」


「そうだったかしら、昔は――いえ。いまも冷静沈着でいてくれてるし、頭の回転も速いほうだと思うわ」


 マジで謎解きくらいで勘弁してほしい。


「はあ……。まあ、それで今までうまく立ち回っていたのかしらね」


 ――うまく、立ち回っていた?

 東堂GMからしてみればそうなのだろうか。確かに残業は、面倒事は避けるように生きてきた。でもそれで何が得られた? 他の事務所の職員とはほぼ交流せず、いつまで経っても平社員。グレードアップ試験も適当に受け流して。


 気づいたら。


 東堂菜穂幼馴染はゼネラルマネージャーで。


 樫村龍之介はその部下だ。


「…………」


 こんな簡単なことで俺を褒めたりしないでくれよ――俺は。


「入りましょうか」


 俺は、お前に対して劣等感を覚えているんだから。 

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