第28話 行き先

「くそっ、どこ行った……」

 慌てて彼女を追いかけたが、案の定彼女を見つけることが出来なかった。

 彼女は絶対に死のうとしているはずだ。

 だから旅館の中にはいないと思い、一直線に玄関へと向かったがやはり彼女を見つけられなかった。

 旅館を出たとなると、俺には探す当てがなかった。

 この旅館の場所は良くも悪くも、山奥にある。

 道路を歩いているはずがないから確実に山の中へと入ったのだと分かるが、逆に山の中に入りこまれたら見つけることが困難になってしまう。


「どうされました?」


 旅館の前でどうしようかと悩んでいると、突然背後から声をかけられた。

 慌てて振り返るとそこにはお姉さんの知り合いの女将さんが立っていた。

「あ、あのっ」

 見ると女将さんは箒で玄関の周りを掃除している最中だった。

 だったら、彼女が出て行ったのも目撃しているはず。

「俺と一緒にいた女の子、どこ行ったか分かりますかっ?」

「女の子……?あぁ、確かに今さっき走って山の中に入って行きましたね」

 やっぱり山の中か……。

 でもやはりそうなら山の中で彼女を探すのは困難を極めるだろう。

 それでもやらなければ……。

「ありがとうございましたっ」

 とりあえず女将さんが指を向けていた方向へと足を踏み出す。


「あっ、山に入るなら気を付けてねっ」


「えっ?」

 しかし足を踏み出した瞬間、再び女将さんに呼び止められてしまい慌てて足を止める。

「あっちの方へはあんまり行ってはダメですよ。あっちは地盤も緩くて。そのせいで崖も多くあって危険なんですよ」

「崖が?」

「そうなんですよ。お嬢さんにも忠告したのですが聞き入れてもらえなくて。だからもし見つけたら何かある前に連れ戻してもらえればと」

「……分かりました」

 どうやら女将さんは彼女にもこの忠告をしたみたいだった。

 だったら、彼女が素直にその忠告を聞くはずがない。

 むしろ彼女にとって好都合と言えるだろう。

「あいつに会ったら言っておきますねっ」

 俺はそれだけ言って旅館を後にする。




「あぁ~あ涼真君、行っちゃった」

 涼真君が山の中へ入って行ったのを遠目に見ながら私はゆっくりとした足取りで旅館を出た。

「何してるのよあなた」

「いや~、振られちゃったな~って思って。私、体だけは少し自信あったんだけどな~」

 旅館を出ると、女将が掃除をしていた。

 丁度いい、話し相手がいなくなったから、今は女将とでも話していよっか。

「あの子達、一体なんなの?あなたとどういう関係なの?」

 なんて、雑談しようと近づくと早速あの子達の事を聞いてきた。

 う~ん……それにしても困った。

 あの子達の事を聞かれても、私もそこまで詳しい訳じゃないからな。

 今回の家出で偶々出会って、面白そうだからここまで連れてきたんだけど結局よく分からないんだよね。

 涼真君は中々いい顔してたからあわよくば誘ってみようかと思ったけど、結局涼真君はあの子が大事みたいね。

「私もよく分からない」

「分からないって……」

 正直に答えると女将は大きなため息をこぼす。

「見たところ未成年みたいだけど……、本当に警察とかに連絡してなくて大丈夫なの?」

「うん大丈夫みたい。本人達も今日外泊することは両親に許可とってるって言ってたし」

 一応相手が未成年ということで、念のため確認を入れてみたけど二人はちゃんとそういう許可はもらっているようだった。

 まぁもっとも許可があっても未成年同士が、しかも男女二人が外泊することに対しては何か問題がありそうな気もするけどね。

 でも私もしょっちゅう家出してるからあんまりそういうのは気にしないでいるからよく分からない。

「本当に大丈夫なんでしょうね?私は何か変な問題に巻き込まれるのは嫌よ」

「大丈夫だって。もぉ~君はいっつも心配症なんだから」

「そりゃ心配症にもなるよ。一応私はここの女将でもあるんだから」

 そう言う女将はまたため息を吐いた。

 昔と比べて今は大分疲れているみたいだな。前はもっと自由で面白かったのに。

「そんなに気にしてばっかだと昔みたいに限界がきちゃうよ?」

 一応、心配して言ってみる。

「大丈夫よ。私はもう昔みたいな私じゃないから」

「そう。ならいいんだけどね」

 それだけ言って私は旅館へと戻る。

 さて、涼真君が帰って来るまで何してようかな。

 ちゃんとあの子を救えたらいいんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る