第14話 次の願い

「ふぅ……」

 なんとか牛丼を完食し終わり思わず息を吐く。

 俺が食べている間彼女はなんとも退屈そうな表情だった。

 最初の頃は頑張って食べる姿や、肉をほとんど食べてやったことの優越感で楽しんでいたようだけどだんだんつまらなくなったのか退屈しはじめ、ストローをぐるぐる回して遊んでいた。

 まぁでもちゃんと食べるまで待ってくれただけでありがたいか。

「それでこれからの次は何をするんだ?」

「あっ……」

「ん?」

 もう昼も過ぎ、今日という日が半分過ぎ去っていった。

 でもノートを見るからにまだまだやりたいことは沢山書かれていたからすぐに取り掛からないといけないと思って聞いたんだけど……。


 ペラッ。


「…………おいおい」

 まるで俺に言われた気づいたかのように、彼女は慌ててノートをめくり始めた。

 こいつまじかよ……。今日の目的分かってるのか?

 実際半日付き合ってみたがやっぱり今日死ぬという言葉が未だに信じられない。いつもと変わらない日常かとも思ってしまう。

 それほど彼女の様子はいつもと変わらないものだった。

 ……それとも何か別の目的が?

 いや、でもわざわざ俺に嘘をついてまでついてきてもらう理由なんてない……。

 それに彼女は基本的に嘘をついたことがない。嘘を吐くとしても悪戯程度のものだった。

 だから死ぬといった事は嘘だとは思えない。

 じゃあ一体どうして……?

 何も変わらない態度も、願いに貪欲じゃないところも、俺には全く彼女が理解が出来ない。

「――なぁ」

「何?」

 ノートに目を通していた彼女がわずかに視線をあげた。

「――お前本当に今日死ぬつもりなのか?」

 この話はしてはいけないと言葉に蓋をしていた。聞いちゃいけないものだと思っていた。でも抑えられなかった。

 彼女の態度に、行動に、疑問を持ってしまった以上聞かずにはいられなかった。

「…………」

 恐る恐る、を通り越して勢いよく尋ねてしまった。

 あまりにも突然過ぎたので珍しく彼女が驚くような、少し動揺したような顔を浮かべていた。

 ……悪い事をしてしまったな。

 今更になってそんな感情が浮かんだがもうどうしようもなかった。一度外に出た言葉はどうすることも出来ない。

 だから、せめてもの誠意として俺は彼女の顔をまっすぐと見つめる。


「――――死ぬよ」


 少しの間があったが彼女ははっきりと、俺の目を同じくまっすぐ見つけ返しながら言った。


「私は大人になる前に死ぬって決めてたから。だから私は死ぬよ。今日、ちゃんと」


 ひどく重く冷たい声におもわず何も言えなくなってしまう。

 今では疑いの心なくその言葉がすんなりと入ってくる。


 ――今日、彼女は死ぬ。


 やはり彼女は本気だ。本気で死のうとしている。

 だから俺も改めて心に決めよう。

 今日一日彼女の元で彼女を見守ると。約束をしたように最後を看取ってあげようと。

 それが彼女の願いでもあるのだ。

 最初は純粋な興味でついてきたけど、今はこのまま彼女を見守りたいという強い思いに変わっていた。

 なんでだろうな?

 ……きっと俺も相当やばい奴なんだな。

 チラリと彼女を見ると、もう話し終わったのかまたノートに視線を落としていた。

 きっと彼女のそういう態度も原因だろうな。

 本当はもっと深刻なんだろうけど、彼女の様子がそれを感じさせない。

 ……今日が終わる時、俺はどうなってるだろうな。

 未来なんか想像できるわけないか。超能力者じゃないんだからな。

とにかく今は見守っていよう。どうせ俺には何も教えてくれないだろうからな。

 それに何か言ってきたときは出来るだけ叶えられるように頑張ってみるか。


「……見つかった」


 すると彼女がようやくノートから顔をあげる。


「車を運転したい」


「…………え?」


「私、次は車を運転してみたい」


「……車?」


「そう、車」


「…………」


 う~ん……。どうやら思った以上に彼女の願いを叶えるのは難しそうだ。

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