第13話 焼肉

「一応願いが叶った」


 現在俺達はよくある牛丼のチェーン店に来ている。

 ここを選んだ理由は彼女が焼肉を食べたいと言ったからだ。

 ……所持金四百円で何を言ってるのかと思ったけど、どうやら彼女のやりたいことの一つに書いてあったそうだ。

 ここへきて初めてノートの中身を拝見させてもらったが、そこには人の金で焼肉を食べると書いてあった。


 ――これは?


 ――そうすると美味しいって聞いたの。


 ――なるほど……。


 その時の彼女は全く悪気がなさそうだったのでもう怒る気も失せた。

 そして焼肉の折衷案として牛丼屋になったというわけだ。

 一応半分以上は俺の金なので一応彼女の夢を叶えたことにならないかと思ったけど、多分その人の金で食う焼肉が美味いとはそういうことではないのだろう。

 まぁでも願いが叶ったと言ってたのでこれでいいのだろう。

「それでどうだ?人の金で食う肉は?」

 ちょうど肉を頬張る彼女を見ながら尋ねる。

「別に普通……。ちょっと量が少ないぐらい」

 まぁ四百円で食べれる量だ。それを二人で分けてるので尚更少ないがないよりはましだ。

 こいつはもう少し人に感謝するということを覚えないといけないのかもしれない。

「って、ちょっ!お前一人で食いすぎだぞっ!」

「んんん?」

 こいつ、人が目を離した好きにバクバク食ってやがる。

 半分にするという約束を忘れたのか?本当に餓えた獣になってやがる。

「くそっ、俺にも食わせろっ」

 彼女が皿を独占する中で慌てて箸を持つ。

 しかし俺がとらないようにするためか、箸を入れる隙間がない。

 ぐぬぬぬ……。こいつ本当に全部ひとりで食べる気か……。

 しかしそんなことはさせないからな。

「確かお前辛いの嫌いだったよな?」

「ん?」

 肉を頬張りながる彼女は俺の言葉を聞いて何やら不穏な気配を読み取ったようだ。

 先ほどよりも早いペースで牛丼を食べる。

「ふふふっ」

 思わず笑いがこみ上げる。

 彼女が辛い物が嫌いなのはすでに知っている情報だ。俺もそこまで得意というわけではないが、ここは苦渋の策だ。

 テーブルの上に置いてあるタバスコの瓶を手に取り、蓋を開ける。

 さぁ行くぞっ。

「はっ!」

 彼女が肉を口に運ぶ隙を見て俺はタバスコを牛丼に投入する。

「あっ!」

 ふふふっ、どうだ!これでお前は牛丼を食べられなくなったはず!

 嫌いな物はとことん嫌いな性格だからな。きっとすぐに食べるのを諦めるだろう。

「……せこい」

「せこいのはお前だろうが。お前が全部食べようとするからだよ」

 仲良く二人で分けようとしたならばこんな事をしなくてよかったのに。

「……むぅ」

 ようやく諦めてくれたようで、彼女は渋々皿を受け渡してくる。

 ふぅ。これでようやく俺も牛丼にありつける。

 さて、ようやく飯にありつける。

「…………おい」

 牛丼を受け取った箸を持ち上げたところで俺は気づく。

「お前食いすぎだろ」

 皿の中にはもうごはんが半分以上なくなっていた。

 まだそれでもごはんはあるからいい。問題は肉だ。

 最後に肉だけ食べたのか、もう皿の中には一切れが二切れぐらいしか残ってなかった。

「……まだお腹一杯じゃないし」

「いや……」

 こんだけ食っておいてまだ満足しないとか……。

 まぁいいや。これで少し飯にありつける。

「……うん」

 肉は最後にとっておくとして、まずはごはんを食べる。

 ごはんとタバスコという組み合わせだが……まぁなんとか食べられないことはない。

 しかもちょっとタバスコをかけすぎたせいで、少しだけ辛い。

 これは食べ終わるまでに沢山水にお世話になるかもな。

「ふふっ」

 するとそんな俺を見てか彼女が鼻で笑ってくる。

 どうやら俺の心情を察したようだ。

 くそっ……どうして牛丼を食うだけでこんな苦労をしなければ……。

 なんて考えながらも、食わないわけにはいかないので俺は水を三杯ほど飲み干して牛丼を完食したのだった。

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