第24話 えぐい
(う~ん……この空気、一体どうしたんだろうか……)
咀嚼音だけが響く中誰も言葉を発することなく、黙々と旅館の食事を堪能する。
俺は部屋に案内されてしばらく経って、お姉さんに呼ばれた。
お姉さんの部屋に行くとすでに食事が用意されており、しばらく経つと彼女もやってきた。
その時から重苦しい空気を察していたとおり、食事が始まってもこの空気のままだった。
……チラリと隣を見る。
さっき喧嘩――のようなことをしてしまったから彼女が不機嫌なのはまだ分かる。
でも……。
「…………」
前を見るとお姉さんも黙々と食事をとっている。
今までだったら彼女の機嫌関係なしに話しかけてくるはずなのに、今はそれがない。
一瞬、俺と彼女との空気を読んでいるのかとも考えたけど、今までの感じ的にそれはないだろう。
しかもよくよくみると、彼女はお姉さんに対しても怒りの矛先を向けているみたいだ。
俺にも怒ってお姉さんにも怒っているようで、どうにも忙しない奴だ。
そしてお姉さんはそんな彼女の様子を伺いつつも食事をしているところを見るに、何かあったのだろう。
でもお姉さんに関しては、もしかすると俺が彼女を怒らせたからとばっちりが飛んだかもしれない。
もしそうなら誤りたいところだが、この空気の中そう簡単に口を開くことはできなかった。
「――あっ、そうだ」
するとお姉さんが何かを思い出したように声を出す。
「そういえばここの旅館混浴があるみたいだよ」
「は、はぁ……」
いや……、何かしゃべってほしいと思っていたけど、何もそんな話題を出さなくても……。
まさかの下ネタ系――もしかしたらそうじゃないかもしれないけど――女子とそういう話をするのは耐性がないから少し勘弁してほしい。
「あれ?もしかしてあんまり興味ない?」
「ま、まぁ……」
……健全な男子高校生としては確かに興味ないこともないけど、混浴だからといってわざわざそこに入る度胸は俺にはない。
だからここは早くこの話題を終わらせよう。
「えっ……?」
するとお姉さんは衝撃を受けたような表情をする。
「もしかして涼真君……アニメのキャラクターにしか興奮できないとかそういう性癖?」
「違いますよっ」
一体何を突然言い出すのか……。確かに二次元の分野も興味ないこともないけど、それだけではない。俺はよくある健全な男子高校生だから、そんな特殊な性癖は決して抱えていない。
「なんだぁ~、じゃあただのむっつりなだけね」
「いや、むっつりって……」
お姉さんの思考回路は一体どうなっているのだろうか……。
突然むっつり認定されて意味不明だった。
「部屋の中にお風呂はついてるけど、当然男の子だから混浴に行くわよね?」
「いえ、行きませんよ……」
この人はいつまで混浴の話をするつもりなのか……。
これはもう適当にあしらっておこう。
「なんでよ~。一緒に入りましょうよ~」
「入りませんよ……って、えっ!?」
脳死して適当に返事をしていたところ、いきなりとんでも発言をされて思わず二度も反応してしまった。
「な、なな何を言ってるんですかいきなりっ!」
「ふふっ、顔を赤らめちゃって可愛いっ」
「か、からかわないで下さいっ」
ほんと、さっきまでの沈黙はなんだったんだよ。気を遣っているのかと思いきや、結局お姉さんはいつもどおりの平常運転だった。
「何バカな話してるのよ」
と今まで黙々と食事をしていた彼女がようやく重い口を開いた。
「バカな話じゃないよ~。それとも詩織ちゃんも一緒に入る?」
「入る訳ないでしょ」
「冷たいわね~」
そしていつものようにお姉さんがあしらわれる。
機嫌が悪くなった後なので少しだけ彼女が口を開くことにびびっていたが、どうやら今は大丈夫のようだった。
……まぁ、でもそれでさっきのことがなかったことにはならないが。それでも彼女のいつも通りの声が聞けて少しだけ安心する。
「それにこいつはチキンだから、きっと寝込みを襲うぐらいのことしないとやれないわよ」
「やっ、やれっ……!?」
突然何を言い出すかと思えばい、一体何をっ……!?
「あぁ~確かにね~。夜這いまでしないとやってくれなさそうだもんね」
「そうよ。こいつとやりたかったら無理矢理やらないといけないのよ」
「ここまでくると草食系男子通り越して、一種の特殊性癖持ってる子みたいだね」
だ、だから一体何の話してるんだよっ!しかも本人の目の前でっ!
そういうのは本人のいないところでやってほしい!
「あら、固まっちゃった」
「この子は自称純粋だからこういう話に疎いのよ」
「なるほど純粋系男の子か~。それは食べがいがありそうだね~」
「うぅっ……」
もはや一種の羞恥プレイのような状況になってないかこれ……?
俺が悪かった……。静かに空間が気まずいと思っていたが違ったんだ。
この二人は黙っていればそれだけ平和なんだと分かった。
でも後悔してももう遅い――というかこの二人の行動を操るなんてことがそもそもできない。
そうしてそれからしばらく話題が変わることはなかった。
この時、女子の下ネタはえぐいという話をいつか聞たけど、確かにその通りだなという実感を初めて持ったのだった。
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