第16話 自己紹介

「いや~、また君たちに会えて嬉しいよっ!」


「…………どうしてこの人がいるの」


「あははは…………」


 電話をかけてからわずか数分後、俺達の目の前にお姉さんが立っていた。

 そう。車を乗りたいということで、俺はあの時連絡先を交換していたお姉さんを呼び出したのだ。

 もしやと思って電話してみるとお姉さんは車を持っているみたいだった。

 それでも流石に乗せてもらえないと思いながらお願いしてみると、なんと一つ返事で了承してくれた。

 まさに本当に来てくれると思ってなかったので彼女に言わずに連絡したのだが、どうやら勝手に呼んだことも相まって中々に彼女の機嫌が悪くなっている。

「え、え~と……事情を説明してくれたら車を運転させてくれるって言ってくれたんだよ」

「そういうことよ。まさか車を運転したいなんて言われた時には驚いたけど、お姉さん協力してあげるから安心してねっ」

 そしてどういうことかお姉さんが意外とノリノリだ。こんな見ず知らずの他人にここまで関わってくるということは随分とお人よしみたいだ。

「…………本当に運転できるの?」

 事情はちゃんと把握できたみたいだが、やはり機嫌が悪いままだ。

 まぁ、最初お姉さんと出会った時からそんなに好いていない様子だったからこうなることは分かっていたけども……。

 というか彼女の性格上、人と関わること自体嫌いな傾向があるからな……。

 まぁ、でもこれも彼女の願いを叶えるためだ。

 彼女にも少しは我慢してほしい。

「勿論よ。と言っても流石に路上を運転させる訳にはいかないけどね。それだと私捕まっちゃうもん」

「じゃあどうやって運転させてくれるの?」

「ん?まぁそれはついてきてからのお楽しみよっ」

「…………そう」

 お姉さんがにこにこ笑う中、彼女は明らかに不機嫌な表情になる。

 お姉さんもお姉さんで、どうしてこんな彼女相手にここまで楽しそうに応答が出来るのか正直俺も分からない。

 ただ一つ言えることはこのお姉さんは飛び切りのお人よしか、ただの頭のおかしな人だということだ。

 まぁ、実際協力してくれるというのだからそんな悪い人ではないんだろう。――恐らく。

「……本当にこの人にお願いするの?」

 すると彼女が小声で聞いてくる。

「……でも現状それしかないと思うよ?」

「……確かにそうだけど……」

 彼女もその点はちゃんと分かっているからか、そこまで邪険にする様子ではなかった。

 でも彼女の性格上気の合わない相手とは関わりたくないのか、とにかくこのお姉さんと一緒に行動するのは嫌なようだ。

「……どうするんだ?」

 だからこそ敢えて尋ねる。

「――――分かったわよ」

 よほど車を運転したいのか――まぁ、死ぬまでにやりたいことだから当たり前といえば当たり前だが――彼女はしばらく悩んだ末にお姉さんの同行を認めてくれた。

「よかったぁ。じゃあ早速向かいましょうかっ」

 そう言って彼女は車のキーをくるくると回して自身の車へと向かう。中々の上機嫌だった。

 やっぱり俺にはお姉さんの考えが全く分からない。

「――名前」

「え?」

 彼女は初めてちゃんとお姉さんの顔を見る。

「まだ名前聞いてない」

「あぁっ、そうだったわね。そういえばまだお互い自己紹介してなかったわね」

 そう言うとお姉さんは笑顔で手を出してくる。

「私の名前は上村瑞希よ。よろしくね」

 どうやら握手を求めているみたいだった。

 彼女は一瞬ためらいながらも、ちゃんと自己紹介をしてくれたことで少しは警戒が解けたのか握手に応じた。

「……私は園田詩織」

「園田、詩織ちゃんね。分かったわ!」

 自己紹介が終わると彼女は草々に手を離してしまう。

「それでそっちの君は?」

「あっ」

 おっといけない。彼女の様子を見守りすぎて完全に僕の存在を忘れていた。――いや自分で自分の存在を忘れるってどういうことなのかという話だが。

 とにかく聞かれた以上は俺も答えるしかない。

「俺は斎藤涼真っていいます」

「斎藤涼真君ね。分かったわよろしくっ!」

 するとこちらも手を差し伸べてくる。

「よ、よろしく……」

 少し躊躇いながらも俺は手を握った。

 ……なんというか、彼女がお姉さんを嫌う理由が少し分かる気がする。やっぱりこのお姉さんはどこか変だ。

「よし、それじゃあ早速向かいましょうか。涼真君、詩織ちゃん」

 そうして俺達とはタイプが違うイケイケ系のお姉さんが新たに加わったのだった。

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