第17話 ドライブ
「ふんふんふ~ん♪」
「…………」
前の座席、つまり運転席ではお姉さんが楽しそうに鼻歌を歌っている。
そして後ろの座席ではそんな鼻歌を邪険に思いながらも、何も言えずにただただ機嫌の悪い表情で景色を眺めている彼女がいた。
う~ん……これは中々に空気が悪い……。
お互いがお互いに自己主張が激しい……というか、お互い空気を読むことをしないためかカオスな空気になってしまっている。
まぁでも彼女同様にわざわざ車に乗せてもらっている分、何か言えるわけもなくただひたすら車に揺られるだけだった。
まぁ、むしろお姉さんが話しかけてこないだけましなのかもしれないが……。
「あっ、そうそうっ、君達に聞きたいことがあるんだけど」
――なんて考えていると、まるで俺の思考を読んでいたかのようなタイミングで話しかけてきた。
まぁでもやっぱり話しかけてくるか……。
どうせ彼女はろくに答えようとしないから、ここは変わりに僕が答えるしかない。
僕は普通の人だから会話を無視するわけにもいかない。
「なんですか?」
「ん~、どうしてこんな平日に詩織ちゃんのやりたいことを叶えてあげたいと思ったの?見たところしっかり計画してたわけには見えないけど?」
「そ、それは……」
やばい……。いきなり核心をついてきた。
このお姉さんには彼女のやりたいことを叶えているとしか説明してないんだ。だから彼女が今日死のうとしていてることは言ってない。
流石にこれは言ってはいけない気がするので、なんとか誤魔化さないといけないな。
でもこの好奇心の塊みたいなお姉さん相手にどう話題を変えればいいのやら……。
「――お姉さんは家出してるって言ってたけど、どうしてなの?」
「えっ?」
お姉さんではなく、俺が先に反応してしまった。
だって会話に参加するはずないと思っていた彼女が、まさかの会話に参加してきたのだ。
普段の彼女を知っているからこそ、今の彼女に驚いた。
「え~?私?」
お姉さんもまさか彼女から話しかけられると思っていなかったのか、返事を返すまでに少しだけ時間がかかっていた。
「家出って言っても私にとってはただの趣味だからね~。どうしても何も、大して理由なんかないんだよ」
「趣味……ですか?」
家出という言葉に類似して出てきた単語の違和感に思わず聞き返してしまう。
「そう趣味。やることなくて暇だから家出するし、やることあってもちょっと家出したりするし、ただなんとなく家出したりもするから私にとって家出ってただの趣味なのよね」
家出ってなんとなくでするものなのか……。
やはり何度もいうけど、お姉さんもお姉さんで中々に変人さんなんだな。
「それで、詩織ちゃんは?」
お姉さんが話し終わったからか、話題が元に戻ってしまった。
しかも一度お姉さんの一身上の話を聞いてしまった以上、こちらも多少なりとも答えないといけない空気になってる。
まぁ、そんな空気を彼女が読むかは分からないけど。
とにかくここは俺ではどうしようもないな。
ここは仕方ないけど、彼女に任せるしかなかった。
まぁ、さっき会話に混ざってきたので多少なりともその意志があるようなので、素直に任せておこう。
「…………私もただなんとなくやりたかったからやってるだけよ」
悩んだ末なのか、お姉さんの回答を模倣したなんとも苦し紛れの理由だった。
まぁ、これでも返事に答えただけましと言えるだろうな……。
「ふはっ、はっはっはっ!なるほどそうか、そういうことかっ!」
当然彼女が言った理由が嘘であることは伝わったはずだろうけど、お姉さんは豪快に笑い出す。
どこに笑いのツボがあるか分からないけど、お姉さんはとにかく大爆笑した。
……そんなに笑っていると運転大丈夫なのかと少し心配になる。
「はっ~!いいね詩織ちゃん、ほんと君最高だよっ!」
今の回答でどうやってそう思ったのか知らないが、どうやら今の一言のせいでお姉さんはさらに彼女のことを気に入ったみたいだ。
彼女のとっては不名誉なことこの上ないけど、このお姉さんの思考は全く読めないのでどうしようもない。
「そうか、そうか、君もなんとなくやりたいことをやっているだけなんだねっ。いいねっ、若いってのはやっぱそうじゃないと面白くないっ!」
若いか。お姉さんからみたら僕達も若いんだろうけど、お姉さんも別にそこまで大人っていうほどでもない。直接歳を聞いたわけでもないけど、見た目からは二十代前後のように思われた。――まぁ、中身は中々に幼いみたいだが。
「私は別に若くないですよ」
すると、意外にも彼女が反発するように言葉を返した。
「いや十分若いよ。君達はまだまだ若くて子供だよ」
いつもだったらそんな些細なことで反発するような彼女じゃないのに、今は何故かお姉さんの言葉に強く反発する。
それどころか目に見えて表情が険しくなる。
まるで逆鱗に触れられたといわんばかりの顔だった。
「…………」
俺はそんな初めてみる彼女の表情に戸惑いながら、何も言葉をかけることはできなかった。
そしてそんな彼女ことなど知ってか知らず、お姉さんは変わらない調子でさらに続ける。
「君達はまだ若いんだから、やりたいことちゃんとやらないとねっ。じゃないと将来つまらない大人になるぞ~」
そう言ってお姉さんは再び笑い出す。
「…………私は子供じゃないですから」
そんなお姉さんの笑い声に混じって彼女の声がうっすらと耳に届く。
それは冷たく重い声で、思わず冷や汗をかいてしまった。
「…………」
ちらりと彼女に視線をずらすと、彼女はもうお姉さんのことを無視するように、まるでふて寝する子供みたいに窓側に視線を向けていた。
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