第18話 運転講習
「さぁ、到着したよっ!」
車に揺られること約十分。
どうやらようやく目的地についたみたいだ。
「ここは……?」
窓から外を見ると山に囲まれた場所で、どこかの駐車場のようだった。
ここに来るまでの間、彼女の機嫌が爆発しないようにお姉さんの話し相手になっていたので正直外の風景はみていなかったが、どうやらどこかの駐車場に連れてこられたようだ。
「ここは知り合いが管理してる駐車場なのよ。ここだったら少しぐらい運転しても何も言われないわよ」
「なるほど……」
確か自身の敷地内であれば車を運転してもいいと聞いたことがある。
まぁ、このお姉さんの場合知り合いの私有地なので適用外だと思うが、今更言っても仕方ないだろう。
「やっと運転できるのね」
わざわざここまで連れてきてもらってきているのに彼女は相変わらずの態度だ。
お姉さんの事は嫌いなのにここまで許しているというのはそれだけ車に乗りたいのだろう。
……まぁ、正直俺も一度乗ってみたいと思わないこともないけど。
「それじゃあ詩織ちゃん運転席に座ってみて」
まるでお姫様のように、お姉さんがドアを開ける。
それをさも当然かのように何も言わず彼女は運転席に乗り込む。
お姉さんはそれをにこにこしながら見ているので、これが二人の関係でいいのだろうと、なんとなく思った。
「よし、それじゃあ早速運転してみようかっ」
「え?隣に乗るの?」
お姉さんが元気よく助手席に乗り込むと、彼女が明らかに嫌そうな顔をする。
「そりゃそうでしょ。詩織ちゃんが事故らないように私がしっかり教えてあげないといけないからね」
「う~……。じゃあ、許す」
「はは~、ありがとうございます~!」
二人のやりとりが完全に、殿様と家臣のそれだ。
お姉さんはのりのりみたいだけど、彼女のそれは完全に素なんだよな、と思いつつも温かく見守る。
……そうだ、ついでに本当に事故しないように祈っておこう。
いくら今日死ぬといっても、俺とお姉さんを道連れにはしないでほしい。
「しっかり指導してくださいね」
一抹の不安を取り除くため、念のためお姉さんに頼んでおこう。
「はっはっはっ、任せされたよ涼真君っ」
「余計な事言わないでいい……」
お姉さんは豪快に笑い飛ばすが、彼女は鋭い視線で睨んできた。
まぁ、でも車というのは万が一のことがある。
それにもし車を壊してしまった場合は彼女が損をするだけだ。それにお姉さんにも迷惑をかけてしまう。
「よ~し、それじゃあ早速やってみようかっ」
そうしてお姉さんによる運転講座が始まった。
「えーと、まずはアクセルをゆっくり踏んでみようか」
「アクセルってどれ?」
「アクセルってのはね……」
そんなこんなでお姉さんの指導が始まる。
最初は少し不安があったが、流石に初めて運転するということで彼女もゆっくりとしたスピードでしか走らなかった。
そしてお姉さんもちゃんと教えてくれるおかげで、しっかりと進むことが出来た。
「――そうそう、そこでブレーキ。少しでも危ないと思ったらすぐにそれを踏んでね」
「こ、これ……?」
するとブレーキを確認するために彼女が足を置いた。
「うっ」
その瞬間、ゆっくりと進んでいた車が急停止してしまう。
「あぁ~今のはちょっと強く踏みすぎちゃったね。でもブレーキでよかったよ」
「むぅ……難しい……」
彼女もだいぶ苦戦しているようだった。
「あっ、涼真君も一応シートベルトしててね」
「は、はいっ」
さっきのブレーキのことがあったから確かに少しだけ怖いのでやっておいたほうがいいだろう。
それにしてもちゃんと周りを見ているお姉さんに少しだけ関心した。
「むぅ……」
そして当の彼女はというと、一度失敗したこともあり少し自棄になっているようだ。
「あっ、だめだよ焦ったら。誰しも最初は失敗するなんだから一回ミスったからっていじけちゃだめ。まずはゆっくりゆっくりアクセル踏んで進んでみることからしないと」
「わ、分かってるわよ」
やはりしっかり見ている。この少しの時間でお姉さんに対する見方が大分変ってしまった。
そして彼女は素直にお姉さんの言葉を聞いて、もう一度ゆっくり進めはじめる。
「そうそう、そうやってゆっくり進んで~」
彼女も真剣な様子で集中している。
「じゃあそろそろハンドル回してみようか」
「は、はい」
集中しているせいか、彼女の言葉遣いも丁寧なものになってきた。
「おぉ~!そうそうちゃんと曲がれてるっ!じゃあ一回止まってさっきのもう一回確認するよ!」
「はいっ」
褒められたからか、少しだけ頬を緩ませた彼女を見て、俺も自然と頬が緩むのだった。
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