第20話 宿

「二人のこの後の予定はどんな感じなの?」

 無事に運転が終了し、彼女の願いをまた一つ叶えることが出来た。

 最後に多少の胸のつっかえが残ったままだが、無事に終わったといってもいいだろう。

 そんな中、お姉さんがこれからのことを聞いてくる。

「今後ですか……」

 お姉さんに言われてからそういえば何も考えてなかったことを気づいた。

 外を見ればすでに夕日が傾きかけていた。思ったより運転するのに時間がかかってしまったみたいだ。

 でもそれ以前にこれからどうするつもりなのだろう。

 チラリと彼女を見ると、何やら先ほどから考え込むような表情をしていて俺の視線に気づいていないようだった。

 きっと今後の予定がちゃんとあるはずなんだろうけど、全く何も聞かされてないので何も答えられなかった。

 そんな無言を見て、お姉さんは何やら察したようで笑顔で頷いていた。

「よかったら今日私が泊まる宿に一緒に泊まる?」

「えっ?」

 思いがけない提案に思わず声をあげてしまった。

「今だったらきっと部屋も空いてるだろうから別に気を使わなくて大丈夫だよ?」

「ど、どうする……?」

 どこまでのお人よしで優しいお姉さんに圧巻されながら、とうとう彼女に尋ねる。

「……え?」

 すると彼女は話を聞いていなかったみたいで、ぼけっとした表情を浮かべる。

「いや、お姉さんが宿を紹介してくれるって」

「そうそうっ!」

 どうやら本当に話を聞いていなかったようでぽかんとしていた。

「あ、あぁこの後のことね」

 そこでようやく思考回路が追い付いたようだ。

「どうする?そもそもこれからの予定ってどうなってるの?」

 ついでに一緒に今後の予定のことも聞いてみた。

 あっ、でもお姉さんがいるから少し答えにくかったかな。

「――じゃあお願いします」

「うんっ、分かったよっ!」

 だが意外にも俺のことは無視されて、変わりにお姉さんの方に反応した。しかも、お姉さんの提案にのるみたいだった。

「それじゃあちょっと電話しておくから待っててね~」

 そう言ってお姉さんはスマホを取り出して、少し車から離れる。

「本当によかったのか?」

 お姉さんが離れたのを見て、再び彼女に尋ねる。

「うん。どうせお金ないし、泊まるところも決めてなかったから全然大丈夫」

 いやちょっと待ってほしい。ということは当初の予定では俺達は路頭に迷うはずだったってことか……?

 流石にそれは冗談だと言ってほしいが、まぁ、そんなこと今更考えても無駄なことなんだろう……。

 とにかく今は泊まれる場所が確保できてよかったと思おう。

「でも本当にいいのか?お姉さんがいたらあんまり自由にできないんじゃないか?」

 それこそ彼女は今日死のうとしているはずだ。

 だったらここでお姉さんを巻き込んでしまうのは少しだけ申し訳ない気がする。

 そこのところちゃんと分かっているのだろうか?

「大丈夫迷惑はかけないつもり」

「分かった……」

 どのみちこうして関わった時点で迷惑がかかってしまうのではと思うが、それは言わないでおいた。

「でもまだやりたいことは残ってるんだろ?このままだと宿に直行するんじゃないか?」


「だから大丈夫だって言ってるでしょっ」


 あまりにもしつこく聞きすぎてしまったせいか、彼女は少しだけ言葉を荒げた。

「ご、ごめん……」

 やばいな、らしくなくしつこくなりすぎてしまった。

 いつもなら彼女の機嫌が悪くなる前に気づくのだが、今回は気づくのが遅れてしまった。

 見守るといいつつも、口出しし過ぎてしまったことを少し反省しないといけないな。

「とにかく何かあったらなんでも言ってな」

「分かってるわよ。それがあなたの役目でしょ?」

「――一応言っておくけど、俺はお前の奴隷か召使じゃないからな?」

「え?違うの?」

 はぁ……このやりとり何回目だろうか。

 まぁ、でも少しだけ機嫌も直ったみたいで安心する。

 でも……。

 いくらしつこくなっても、聞きたいことはいっぱいある。

 一度チラリと見た、彼女のやりたいことが書かれているノートには色んなことがびっしり書かれていた。

 今日やってきたことはノートの中のほんの一部にしかない。

 なのに焦る様子もなく、いつもと変わらない彼女に態度にやはり戸惑ってしまう。

 時刻が刻一刻と進み、今日が終わってしまうと感じる度に戸惑いは大きくなっていく。

 でもしつこいと言われたこともあって、深々と聞くのは躊躇われる。

 だからこそ彼女から何か言われるまでは見守っておくことしかできなかった。

「二人とも泊まるの大丈夫だって!」

 するとお姉さんがようやく帰ってきた。

「それじゃあすぐに行こうか」

 そうして俺達は親切なお姉さんに案内され、宿に向かうことになったのだ。

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