第11話 憂鬱
「おかしい……」
「まぁ、元気だしなよ」
「ありえない……」
「まぁそういう日もあるって」
「絶対におかしい……」
「はぁ……」
先ほどから彼女はずっとこの調子だった。
結局予想していた通り彼女はパチンコで当たりを出すことはできなかった。
おかげで彼女は約二万弱もののお金を失ってしまったようだ。
流石に俺もそれだけ使えば当たると思っていたけど中々当たらないものなんだな。
そうして見事に大負けした彼女と共に足取り重く進んでいた。
先ほどからいくら話しかけようとも、パチンコでのことを引きずっているから一向に話しが進まない。
店を出てからも彼女の足取りに任せている。相変わらず目的地も次のやりたいことも教えてもらえない。……今の状態だと尚更だ。
「……これじゃあ出来ないじゃないのよ」
相変わらず彼女は独り言が多い。恐らく俺の存在など気にも留めない。
この先本当にどうなるんだろうか……。
「ここは?」
しばらく彼女についていくと少し大きなデパートにたどり着いた。
パチンコの次はデパートか。
今度は一体ここで何をするつもりなのやら。
「え~と……」
デパートに入るや否や彼女はすぐに店内マップを見上げる。
どうやら目的のお店があるようだった。
……あれ?待てよ?目的の店があるのはいいけど、今こいつって金がないんじゃなかったっけ?
彼女自身が一番分かってると思うけど……、大丈夫だよね?
「……何してるの?早く行くよ」
「あぁ、うんっ」
よかった。今までいくら話しかけても返事がなかったので忘れられているのかと思っていたけど、どうやら存在は認識していてくれたようだ。
だからすぐに彼女を追いかけてエスカレーターにのる。
……でもますます不安になってきたな。確かこの上の階は服とか装飾品とかそういう店が集まっていたはず。
ますますお金が必要な場所なんだけど本当に大丈夫なのか?
「…………」
でも彼女に何を言おうもどうせ無視されるか機嫌を悪くするだけだからとにかく黙ってついて行こう。
元々今日の俺の役目は彼女の付き添いだからな。
とにかくこのまま黙って見守っていよう。
「うぅ…………」
そうして現在、俺は彼女の悲しそうな表情を見守っていた。
「仕方ないよ……」
店の前にあるショーケースを眺める彼女を見て思わず口に出す。
……っていうかよくここに来たな。
彼女の目線に合わせて俺もショーケースに視線を移す。
ショーケースの中にはいかにも高級そうなバッグや時計、イヤリングやネックレスなどの装飾品が飾られてあった。
しかもここの店はそこそこ有名なブランド店だった。
もしやとは思ったが、どうやら彼女はここで何かを買おうとしていたみたいだ。
とはいってもこの店は普通に高い。最低でも五万ほどないと何も物が買えない。目の前に飾られている商品なんかはそれ以上だ。
「……貯金とかないのか?」
「ない」
即答だ。
「そもそもパチンコでお金全部使っちゃったからお金持ってない」
「はっ!?」
とここで衝撃事実を聞かされる。
「全部って……ほんとに……?」
「こんなところで嘘ついてどうするのよ」
「そりゃそうだけど……」
まさかあのパチンコで使っていた金額が全財産だったとは……。
それを知ってたら少しは止めたものの。
相変わらず金使いが荒い……。というか彼女の場合は今日だからなのか?
でもだったらここで使えばよかったものの、どうしてギャンブルなんか……。
「うぅ……計画ではパチンコでお金を稼ぐ予定だったのよ……」
嘘だろ……。それは流石に頭が悪いんじゃないか?
呆れるを通り過ぎて、もはや心配になるぞ。彼女の思考回路が。
「なんて無計画な計画だ……」
「何か言った?」
「い、いえ……」
ギロリと睨まれてしまった。
怖い、怖い……。
「豪遊する予定が狂った……」
「そ、そんなにこのブランドが欲しかったの?」
「いいえ、別に」
あれ?そんなにも悔しがってるからてっきりこのブランドのファンかと思ってたけど、そうではないようだ。
どうやらただ沢山お金を使いたいだけのように思えた。
まぁ、豪遊するのは確かに夢ではあるけど、彼女にしてはやはり平凡な願いだったことに俺はただただ違和感を覚えるのだった。
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