第10話 浪費


 デン、デン、デン、テレテレッ。デン、デン、デン、テレテレッ。


 ボタンが三回押されてまたスロットが回る。絵柄が揃わないのでひたすら画面が回転する。

 ……これ面白いのか?

 後ろから覗いている限り面白さが何も感じられない。もし俺がやったとしても、永遠にボタンを押し続ける作業にどんな楽しさがあるのか全く分からなかった。

 まぁこれが当たったら楽しいんだろうど、当たるか分からないのでその間までの時間がひどく退屈そうだ。

 確か彼女も単純作業が苦手だったはず……。一体どんな気持ちでやってるんだろ?

「……むぅ」

 そしてやはりというか彼女は退屈そうにしていた。性格的に向いてないと思ったけど、やっぱりそうだったな。

 というかまただんだんと不機嫌になっていってるな。

 不機嫌になるくらいならやらなければいいのに……。そもそもこれは本当に死ぬまでにやりたい事なのか、と疑いたくなるくらいだ。

「…………」

 するといつの間にか彼女がぼーっと画面を見つめているのに気づく。

「……終わったの?」

 画面を見ると丁度数字がゼロになっていた。そして手持ちのコインも全て無くなっていたので、恐らくこれで終了したのだろう。

 いくらか当たりは出たものの大当たりではなく、結局何事もなく終わったようだ。

 さて、これからどうするんだろうか。

 もしかして当たるまでやり続けるのか?


 ポチポチポチポチポチポチ。


 一体どうするつもりなのかと見ていると彼女は執拗にボタンを連打し始める。

 まるでもっとやらせろと言わんばかりに。

「お、おい……やめとけって」

 当たりが出なかったことに相当ムカついたのか、もう動かなくなったボタンを連打する。

 そんなことをしてもどうしようもないことを知っているにも関わらずにただ連打する。……これは音ゲーじゃないんだけどな。

「え、えっと、次の台やったらどう?それかパチンコでもやってみたら?」

 このままでは埒が明かないと思い、とにかくここから移動させようと思う。

 これ以上変なことをして店員さんにでも声を掛けられたらたまったもんじゃないからな。もしそれで年齢確認でもされたら普通に怒られてしまう。

 それだけは絶対に避けないと。

「ど、どうかな?」

「そうね。確かにそっちの方がいいかもしれないわ。後々のためにもいっぱい当たった方がいいし」

 よかった。素直に提案にのってくれたみたいだ。

 スロットは諦めてくれたみたいで、彼女と一緒にパチンコのゾーンへと移動する。

 そこはスロットの場所よりも一層うるさく、そしてキラキラと光って眩しかった。

(ここはここですごいな……)

 より一層騒がしくなりながらも、やはり彼女はなんともない様子で台を物色する。

 しかしまぁ、パチンコはスロットよりもいくらか面白そうに見える。

 こちらの方が演出がすごいし、見たことあるアニメなんかもあった。

 どうせやるなら俺はパチンコの方がいいな。

 なんて思っていると彼女は一つの席に座っていた。

「今度はこれするの?」

「うん」

 今度の台は俺も知っているアニメの映像が流れている台だった。

 これだったら見ていても多少楽しめるかもしれない。


「……中々当たらいな」

 お金を投入してからしばらくの間眺め続けていたが、当たりが出ることはなかった。度々映像が流れて、当たりそうな雰囲気はあったが結局当たらずに映像が終わる。

 しかし映像が見てて楽しいからか飽きる様子はなかった。

 彼女もやっていて楽しいのか、玉がなくなればすぐに財布からお金を取り出し入れている。

 ……しかしそんなにも使って大丈夫なのか?詳しく数えてないから分からないが、今入れた分で一万円もいった気がするぞ。

 こいつどんだけ金持ってるんだよ。

 そして彼女はその後も次々と小さな玉となったお金を消費し続けていく。

 これだけ見るとなんだかギャンブルをひしひし感じられる気がする……。

「なぁ、その変で終わりにしとかないか?これ以上やっても無駄に浪費するだけだぞ?」

 あっという間に千円がなくなり、再び財布を取り出そうとした彼女を慌てて止める。

「大丈夫よ」

 だが彼女は俺の抑制も聞かずにまた千円を投入する。

 これはマジでパチンカスにでもなってしまったか?

「気にしなくていいわよ」

 するとそんな俺の心配を察してか、彼女がパチンコを打ちながら口を開く。

「どうせお金なんてあっても今日しか使わないんだから。使えるだけ使っておいて損はないわよ。それに入れれば入れるだけ当たるかもしれないじゃない」

「なるほど……」

 確かにそれはそうかもしれない。と納得してしまった。

 今日終わる人生だったらお金なんてのものは持ってて無意味なのだ。

 確かにパーっと使い切ろうとするのは当然なのか。

 もしかすると散財することが彼女の夢の一つでもあるのか?

 なんて考えながらも、俺はただお金がなくなっていく様を俺はただぼーっと眺めているのだった。

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