第37話 お酒

「あっ、二人ともお帰り~!」

 旅館に戻ると、どうしてかお姉さんが俺達の部屋でくつろいでいた。

「……なんであなたがここにいるのよ」

「え?だって二人ともどっか急にどっか行っちゃうからさ~。私寂しくてここで待ってたんだよ~」

 寂しいって言うけど、胡坐をかいてビールを飲みながらテレビを見ている姿を見てどう寂しそうと思えと?

 てか、人の部屋に何お酒持ってきてるんだよ……。

「あっ、二人もこれ飲んでもいいよ~」

 ついお酒に視線を向けていると俺が飲みたいと思っているのか、お姉さんは缶を持ち上げて勧めてくる。

「飲みませんよ……。俺達まで未成年なんですから」

「車は運転したくせに~?」

「うっ……、そ、それは……」

 それを言われたら何も言い返せない。

「はぁ……私達まだ子供なんだけど」

「へぇ~、子供なんだ~」

 彼女がため息をこぼす中、お姉さんは面白そうに笑みを浮かべた。

「知ってる?」

 でも彼女はそんなお姉さんに反応する様子はなく、無表情のまま缶を手に取る。

「未成年がお酒を飲んだら、それを勧めた人も罪に問われるんだよ?」

「へっ?」


 プシュッ。


 独特の泡が出る音と共に、彼女は缶を一気に飲み干す。

「ちょっ!」

 慌てて止めようとするが彼女はそのまま一気にお酒を飲みほしてしまう。

「んっ。意外と美味しいわね」

「はっはっはっ!いいねぇ詩織ちゃんっ!いいよっ今夜は朝まで飲もうよっ」

「別にあなたの指図なんて聞かないから」

「いや……そう言いながらまた飲んでるじゃん……」

 お姉さんからの誘いを断ったくせに、彼女はさらに新しい缶に手を出す。

 こいつ、全然躊躇がないな……。

「ほらっ、涼真君も一杯どうよっ!」

「いや、だから……」

 俺は未成年だっつうの……。

 まぁ、でも……。


「だから度数が弱い奴にしときますよ」


 今日ぐらいは別にいっか。

 試しに近くに置いてあった缶を一つを手に取る。

「はっはっはっ!いいねぇいいねぇっ!二人とも最高だよっ!」

 ……不味い。

 彼女を見習って勢いよく喉に流し込んだけど、思ったより苦かった。

 この人達はよくこんな飲み物を飲めるもんだ……。

「ん~……」

「ちょっ……!」

 お酒の不味さに舌を痺れさせていると、突然彼女が覆いかぶさってきた。

「飲まらいなら私がもらう~っ!」

 呂律の回ってない舌で彼女は俺の缶を奪ってくる。

「ん~っ!美味しい~っ!」

 こ、こいつっ……もしかしなくても酔ってる……。

 どんだけお酒弱いんだよ……。

「へいへ~いっ!私もちょうだいよ~っ!」

 すると今度はお姉さんが背中から抱きついてくる。

「涼真~、もっともっと飲めよ~っ!」

「しょうよ~!もっと飲めぇ~!」

「めんどくせぇ~……」

 こいつら揃いもそろって酔っ払いだな……。

 こりゃ、今夜は本当に寝れないかもしれない……。

 ――なんて思ってたけど、一時間もしないうちに二人は眠りについてしまった。

 そして俺は勧められるがままにお酒を飲んでしまい、二人と同じく早々にリタイアしてしまったのだった。


 こうして俺達の長い一日が終わったのだった。

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