今日死ぬ君に
降木星矢
第1話 プロローグ
一定のリズムで刻まれる木魚に合わせるように、異国語と思わせるようなお経が独特のリズムで刻まれる。中央に置かれた棺桶の前で。
この場で唯一、派手な服を着飾っている坊主を横目に、地味で黒い服装の人達を見る。そいつらは、悲しい表情をしている者もいれば、無表情の奴もいる。中には眠気と闘っている奴までもいた。
現在、ここにいる者達は棺桶の中で眠る少女の親族達だ。――僕を除いては。
「そろそろ帰りますので」
長いお経が終わる。今からは親族皆で食事をする事となっている。
流石に何の関係のない僕が食事までご馳走になるのは心苦しいので、正座で痺れた足を精一杯引きずらせながら僕は玄関まで向かう。
「は、はぁ…。お気をつけて」
僕を見送りにきた誰だか知らないおばさんにぺこりと軽く頭を下げて僕はそのまま外に出る。
きっとあのおばさんを含め、中にいる者達は僕の存在をさぞ気にしていただろう。終始奇異な物でも見てくるかのような視線を向けていたしな。
恐らく今からの食事ではまず僕の話題が出るだろうな。
「ふふっ」
親族達の不思議そうな表情を思い浮かべると何だか笑えてきた。
葬式の直後に何て表情をしてるんだ、と誰しもが思うかもしれない。それほど今の僕の表情は嬉しそうに、そして楽しそうに笑っているのだから。
「これで約束は果たしたからな」
ひとしきり笑った後、ふと思い出したように僕は空を見上げる。
ここにはいないあいつを思いながら口に出さずにはいられなかった。だってこの葬式に出ることになったのは全てあいつのせいなのだから。
「きっとあいつも、今の僕を想像して笑ってるんだろうな」
彼女がバカにするように笑う姿がすぐに思い浮かんだ。
……少し鮮明に思い出しすぎたかもしれない。だんだんと腹がたってきてしまった。
しかしこにいない彼女に何を言っても伝わるはずがなく、ただ僕は道端に転がっていた石を思い切り蹴り飛ばしたのだった。
「いっ」
だが思ったより石が重たかったのか、足の指が僅かに痛みを訴える。
僕もまだまだガキだな。
自分の状況を客観店に見てしまったせいでそんな感想を抱いてしまった。
「ふっ」
しかしそんな痛みでさえも再び笑いへと変わっていった。
今よりもっとガキらしい事をしたあの日を思い出して笑う。
あの日、彼女と共に言った自殺旅行を思い出して。
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