第26話 無理矢理
「んっ!」
俺に馬乗りしたまま、彼女は強引に唇を重ね合わせてくる。
電車の時でしたよりも、強く、そして荒いものだった。
「んっ、っ!い、一体急にどうしんだよっ!」
少しばかりに強引に彼女の体を掴んで離れさせる。
これじゃまるで本当に夜這いにきているみたいじゃないか……。
まさかこれも彼女のやりたかったことなの?
いや……それにしては様子がおかしい。
「はなっ、してっ」
体を押さえるも、必死に抵抗する彼女の表情からは強い焦りが感じられた。
どこか焦って必死になって抵抗する彼女を見て、やはり疑問が大きく膨らむ。
彼女の様子を見ていると、それはとても死ぬまでにやりたいことなんて思えない気がしてきた。
まだ今日が残りわずかだから焦っている、と言われれば納得できるがそれもどこか違うような感じだった。
まるで強い使命感に駆られているような、そんな気がしたのだ。
「と、とにかく一回落ち着いて説明してっ」
「そんな暇も、時間もないのっ!」
非力なことに、彼女の体を押さえていた手が払われる。
そしてその勢いのまま彼女は再び乱暴に唇を奪ってくる。
「んっ!」
しかも今度は丁寧に舌まで絡ませてきた。
いくら振り払おうとも、彼女に顔面を押さえられてしまい何もできなかった。
ただただ、貪られるように俺は唇を吸われる。
しかも体は否応なしに密着状態になってるので、意識していなくても彼女の体温を感じてしまう。
そして一応こいつは女だから、当然胸の膨らみも押し付けられているわけで……。
って!何を考えている!今はとにかく事情を聞かないと!
「んはっ!はぁっ、はぁっ……。だ、だから説明をっ……」
ようやく唇を開放され、息も絶え絶えになりながら彼女を見上げる。
いつも説明なく色んなことをやってくるが今回だけは、正直説明が欲しい。
一体どういう意図で、どういう目的なのか、彼女の口からしっかり聞きたかった。
でも、それでも彼女はいつものように俺の言葉を無視して自分だけで先に行ってしまう。
くそっ……、こうなるんだったらもっと日頃からちゃんと会話していれば……。
今更後悔しても遅いんだけど。
「って!おまっ、何する気だっ!」
しかし今は後悔すらしている時間はなかった。
キスが終わって少しは大人しくなったのかと思ったけど、そうじゃなかった。
黙っていた時間は次の行動に移すための時間だったのだ。
「何って、決まってるじゃない。君だって男の子だからこういうの好きでしょ?」
そう言いながら彼女は俺のズボンに手をかける。
まさかとは思ったか、こいつは俺のズボンを脱がそうとしているみたいだ。
「ほら、君だってさっきのキスで少し大きくなってるじゃない」
「や、やめろってっ!」
さっきの密着のせいで少なからず体が反応してしまったみたいだった。
だけど、体が反応しようとも流石にこれ以上は不味い。
なんとしてもズボンだけは死守しないと、色々と不味い気がした。
「は、離しなさいよっ!これも私の為よ!私のために早く童貞を捧げなさいっ!」
「だから嫌だって言ってるだろっ!それに童貞って決めつけるのはよくないからなっ!」
「ふ~んっ!どうせあんたのことだから童貞なんでしょ!見栄はらなくていいわよっ!」
「うるせっ!そもそも高校で卒業している奴はみんなただのヤリチンなだけなんだよ!」
「だから私が今から卒業させてあげるんだから感謝しなさいって言ってるのよっ!」
「感謝も何もお前なんかに童貞奪われてたまるかっ!」
「私だってあなたなんかに初めて捧げるなんて嫌に決まってるじゃない!私だって我慢してるんだからあんたも我慢しなさいよっ!」
「はぁっ!?どういうことだよっ!」
もう意味が分からない!
自分だって初めてのくせして、俺となんかとやるのが嫌なくせしてどうしてそこまでやることに拘るんだよっ!
ほんとに意味が分からない!
こいつのことはやっぱり本当に意味が分からない!
「いい加減にっ……!」
と彼女が引きちぎろうといわんばかりに勢いよくズボンを引っ張ってきた。
「お前こそっ……!」
だが俺も負けじとズボンを死守する。
そんな熾烈な戦いが繰り広げられる中、そこへ突然足音が近づいてくる。
「あんた達一体何してるの?」
「「えっ?」」
突然の第三者の声に俺達は思わず力を弱めて声の方に顔を向ける。
「え~と……夜這いしてるの?それにしてはお互い元気いっぱいみたいだけど……」
振り向くとそこには微妙な表情をしたお姉さんが立っていた。
「こ、これは……」
なんだかいけない場面を見られてしまったみたいで俺はすぐさま言葉を出そうとするが、何を言えばいいか全く分からなかった。
「…………はぁ」
そんな中先ほどまで気持ちが高ぶっていた彼女だったが、突然表情を冷たくしてそっと立ち上がる。
「あっ、どこに……」
そのまま何も言わず部屋を出ていこうとする彼女を見て、俺はすぐに声をかける。
「――もう終わりよ。もう、全部。終わらせるわ。時間切れよ。だから今日はありがとうね」
「えっ……?」
突然の言葉に俺は固まってしまう。
そして彼女はそのまま振り返ることなく、そのまま部屋を後にして行った。
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