第7話 謎の声
「うへっ!」
再び強い衝撃が加わりうめき声をあげてその場に倒れる。
「ちょ、ちょっと!」
そして殴られる寸前に響いた声がこちらに近づいてくるのが聞こえる。
殴られたせいで上手く顔を見れなかったが、声からは女性のものだと分かった。だがそれだけでどんな人かは分からない。
少なくともその人は俺が殴られそうなのを見て止めてくれたのだと願いたい。
――世の中どんな人がいるか分からないからな。
「だ、大丈夫君っ?」
よかった、どうやらこの人は俺のことを心配してくれたようだ。
「だ、大丈夫です」
しかし恥ずかしい。まさか女の人に助けてもらえるなんてよっぽど頼りなく見えるんだろうな。
まぁそれは置いておいてどうしようか。
顔をあげるとやはり彼女は困ったような表情を浮かべていた。
それはそうだろう。恐らく……も何もこの人は俺を助けようとしている。普通ならばそれは嬉しいことだしありがたいことなんだけど、今は状況が違う。
「お姉さんちょっとこういうのは見逃せないかな~」
「はぁ……」
あっ、こいつすごくめんどくさがっているぞ。こんなにもはっきりというお姉さんの事をすごく鬱陶しいと思っている顔だ。
「ほらっ、君も早く行くよ」
「えっ、あ、あの~……」
何も言い返してこないのを見てか、お姉さんは俺の手をとって早々にその場を立ち去ろうとする。
こういう場合ではとにかくその場を去ることがすごくいい選択なんだろうけど、う~ん……これはどうしようか……。事情を説明しようとすれば彼女のことを話さないといけないし……。う~ん……。困ったものだ。
「どうしたの?早く逃げるよ」
「え、え~と……」
女の人に手を引っ張ってもらえることは嬉しいことなのだが、彼女のためにもなんとかこの場を切り抜けないといけないな。
――とは言ったもののどうしようか。
「あっ、もしかしてまだお腹が痛い?だったらおんぶしてあげよっか?」
「い、いえっ、大丈夫ですっ!」
流石にここまで親切にしてもらって、そんなことまで頼めるわけがない。
というか俺も高校生だ。女の人におんぶをされるなんて普通に恥ずかしいし、出来ない。
さて、いい加減何しないといけないな。
「……あの」
言い訳を考えていると、なんと彼女が口を開く。
「何?」
するとやはりというか、お姉さんは俺を庇うように彼女の前に立つ。
中々に威圧的な態度だが彼女にとってはそんなの関係ない。彼女はいい意味で自己中だから自分以外はどうでもいいのだ。だからこそ学校ではぼっちという立ち位置を勝ち取っている。
「手を離して?私達これからまだ用事があるんだけど」
さっきまでの困惑した表情はどこへやら、堂々とした態度にいっそかっこよくさえ見えてしまう。
「あなたには関係のないことよ。あなたこそ早くどこかへ行ったら?」
しかしこのお姉さんも負けていない。とはいえどうしてここまで他人のために頑張れるのか意味が分からないが、とにかくお姉さんは俺を守ろうと頑張ってくれている。
「……あなたこそ無関係じゃないの?その子と知り合いなの?」
彼女は純粋な疑問をぶつける。
「そういう訳じゃないけど……」
「だったら関係ないじゃない。じゃあ早くそいつを離して」
といくらか強引に彼女は俺を連れ帰そうとする。
「ちょ、ちょっと待って!確かに関係ないけど、虐めを見過ごすわけにはいかないわ!」
しかしお姉さんは防ごうとする。彼女はそれに対して不機嫌になりながらも抵抗しようとする。
……なんだこれ。よくみるハーレム主人公みたいな展開になってきたな。
二人の女性が俺を取り合う。うん、中々にいい景色で少し和む。
「何キモイ顔してるの」
「うぅっ、いや別になんでも……」
どうやら彼女に思考を読まれてしまったみたいだ。何やら冷たい視線を向けられていた。
「……そもそもあんたも何か言ってよ」
「ごめんごめん」
どうやら自分で取り返そうとしていることがだるくなったのだろう。
いつの間にか冷たい視線はさらに険しくなり、「自分でどうにかしろ」という殺意に混じったような目になっていた。
……どうおらお姉さんの存在によって彼女の機嫌は激しく悪くなってしまったみたいだ。
「大丈夫だよ。君は何も心配しなくて」
と未だに守ってくれようとしているお姉さんは俺を助けようとしてくれているみたいだけど、ここはお姉さんのためにも、そして彼女のためにも早めに誤解を解いておかないといけない。
「え、え~と、すいません、ほんとに大丈夫なんですよ。俺とこいつはそんな仲じゃないので」
「えっ?」
とにかくまずは事情を伏せた状態で話せるだけ話してみようか。
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