第9話 24年前の夢を見る真一…『白線流し』

(回想・夢の中)

時の流れは早いもので、真一たちは高校3年の秋を迎えた。続々と進路が決まっていく頃だった。真一は福町の企業に就職を希望し、優香は新潟の大学に進学を考えている。


ある日、下校しようと真一が高校の校門を出ると、優香がやって来た。



優香「ヤッホー」

真一「あれ、アイツ(森岡)は?」

優香「帰った」

真一「あ、そう」


真一はいつものようにミルクティを自動販売機で2本買って、1本を優香に渡す。


真一「はい」

優香「ありがと」

真一「おう」

優香「なんか久々やなぁ、ミルクティ」

真一「そうかぁ?」

優香「うん。しんちゃんと帰ったらいつもや(笑)」

真一「まぁな…」

優香「ひっちゃん(加藤)も福田くんと別れてから、ショックが大きかったけど、大分落ち着いてきたわ」

真一「そうか」



真一は優香のクラスの女子生徒・加藤から、修学旅行の時に、真一のクラスの男子生徒・福田が加藤にラブレターを出したことがあり、坂本と滝川と一緒に相談に乗っていた。加藤と福田は付き合うことになったのだが、福田が加藤に対して、冗談で済まされない失言があり、加藤が真一に再び相談していた。結局2人は別れた。



優香「大変やったね、間入って話して」

真一「加藤さんから声かけられたで、しゃあない(仕方がない)わ」

優香「そうやな…」

真一「うん」

優香「しんちゃん、ありがとね」

真一「あぁ…」

優香「あ、くーちゃん(村田)から聞いたけど、最近物思いにフケてるって?」

真一「聞いたん?」

優香「うん。どうしたん? 就職活動終わったらすることないの?」

真一「細かいことはあっても、大まかなことはなぁ…」

優香「そっかぁ…。じゃあ、しんちゃん怒るけど、あえて言うけど、彼女でも作ったら?」

真一「はぁ? 何言うてんの?」

優香「することないんやろ? しんちゃんの最大の懸案事項やんか(笑)」

真一「懸案事項ではない」

優香「…私も森岡くんと付き合う前は興味なかったよ。でも、よーく見てたら…ってなったから…」

真一「どうぞ、ご自由に…」

優香「女の子と手つないだことある?」

真一「あるやん。幼稚園の時に優香ちゃんと」

優香「それはお遊戯の時でしょ。そうじゃなくて…」

真一「幼稚園の時の優香ちゃん以外ないんとちゃうか?」

優香「それはないやろ?」

真一「特に記憶ないわ」

優香「ホンマに、女っ気がないなぁ(笑)」

真一「ないなぁ…」

優香「ホンマにそれでいいの?」

真一「いいよ別に…」

優香「そう…」


優香は真一の女っ気のないことに心配していた。これ以上言うと真一はまた怒ると思い、何も言わなかった。優香はそんな真一に対して悲しい思いがしたのだった。


優香「なぁ、しんちゃん」

真一「うん?」

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」

真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」

優香「そっかぁ…」


優香の顔が少し困った顔をしていたのを真一は見た。真一は『白線流し』というドラマのことで、優香が自分に何か言いたいのか…と考えた瞬間だった。そう思うと優香の顔色が悲しそうな顔をしていた。












真一「それでや…」

浅田「何や?」

真一「この『白線流し』の話の夢見てから、この間から『白線流し』がらみの話が出てなぁ…」

浅田「どういうこっちゃ(どういうことだ)?」

真一「仕事で得意先の病院の看護師から『コロナ禍で(休日に自宅で)ビデオとか見たら?』っていう話になって、オレ、高校時代はドラマって見てないんやな」

浅田「うん」

真一「そしたら、『白線流しでも見たら?』って言われて…」

浅田「ほう」

真一「何か有名なんか、『白線流し』? まぁ、オレは見てへんからわからんのやけど、嫁(みつき)やら、小学校時代の同級生とか、皆知ってて…」

浅田「オレも知ってるで。言うても、そこまで熱心には見てなかったけど…。それで『白線流し』がどないしたんや(どうしたんだ)?」

真一「この前なぁ、車で買い物行く道中、信号待ちしてたら急に助手席の窓を叩いて助けを求められて…」

浅田「ほう」








(回想)

男(高橋)「すいません…」

真一「はい?」

高橋「助けてください」

真一「どうしたん?」

高橋「ボク、今どこにいるのですか?」

真一「えっ?」

高橋「今、どこにいるのかわからなくて…」

真一「わからん? どういうこっちゃ?」

高橋「記憶がないんです…」

真一「記憶がない? すぐ近くに警察があるから、行くか?」

高橋「お、お願いします…」



高橋は真一の車の助手席に乗り、真一は近くにある警察へ男を送った。


警察に到着し、男は警察官に事情を話す。

その間に真一は、仕事で顔なじみの会計課の上田と話す。


上田「堀川さん、今日は何ですか?」

真一「あの、この男の子、すぐ近くで『記憶がない』ってボクに助けを求めてきたので…」

上田「そうですか…。記憶がない…か」

真一「記憶喪失みたいです」

上田「そうですか…」


その頃、男と警察官がやりとりしている。


警察官「名前は?」

高橋「わかりません…」

警察官「わからん? 住所は?」

高橋「わかりません…」

警察官「細かい住所やなくても、例えば京都の人間とか、わからんかなぁ?」

高橋「…すいません、全然わかりません」

警察官「わからん…か」

上田「どないや?」

警察官「全くあきまへん。自分の名前もどこから来たのかも記憶がないんです」

上田「うーん…」

警察官「身分証明になるもんも不携帯です」

上田「弱ったなぁ…。所持品は?」

警察官「着替えと財布、御守が2個、あと本ですね」

上田「御守が2個、誰かに渡すんか? 財布の中とかに身分証明になる物はなかったんか?」

警察官「ありません」

上田「あんた、御守が同じものが2個あるんやけど、これは誰かに渡すんか?」

高橋「そうかもしれませんが、よくわかりません…」

上田「うーん…。堀川さん、どこでこの男の子を乗せましたか?」

真一「そこの交差点です。赤信号で青になるのを待ってたら、声かけられたんです」

上田「そうですか…」

警察官「その時、どんないきさつでしたか?」

真一「買い物に行く途中、交差点で赤信号で停まっていた時に、歩道から助手席の窓をコンコンとノックされて『助けてください』って声かけられたんです。それでこちらを案内したのですが…」

警察官「そうですか…。面識は?」

真一「いま初めて…」

警察官「うーん…。とりあえず保護した方がよさそうですね」

上田「そうやなぁ…。堀川さん、心当たりないんですね?」

真一「ないですね」

上田「所持品見てもらってもわからんなぁ…」


真一が男の所持品の方をチラッと見た。所持品の本を何気なく見た。裏表紙だったので、裏返して表紙を見る。


真一「ん? 『白線流し』?」




(回想・夢の中)

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」












浅田「へぇ、なかなかそんな偶然はないなぁ…(笑)」

真一「もう、参ったわ」

浅田「それで、あんたのことやから、また『人探し』でもしたんか?」

真一「結局、気がついたら『Gotoトラベル』使って、高山(岐阜県)の『白線流し』やっとる(行われている)高校と、記憶喪失の男の子(高橋)の出身地の柏崎(新潟県)へ行ったんや」

浅田「あんたらしいなぁ(笑)」

真一「とにかくこの半年、いや、もうそれ以上経つなぁ…。高校時代の夢を走馬灯のように見て、夢の中の優香さんに振り回されてる感じや。もう四半世紀も前のことやのに…」

浅田「いいんじゃないですか(笑)」

真一「よろしくない」

浅田「それで、記憶喪失の男の子は記憶甦ったんかいな?」

真一「柏崎に『幼なじみ』の女の子がおって、それで甦った」

浅田「へぇー、よかったやん」

真一「うん」

浅田「よりによって『幼なじみ』ですか…(笑)」

真一「もう、何もかも『幼なじみ』がらみで参ったわ」

浅田「非常にいい日々をお過ごしですねぇ(笑)」

真一「やかましいわ❗(笑)」

浅田「このコロナ禍、あんたは色々な出来事に直面してるなぁ」

真一「毎日夢見せられて、現実でも夢で見た話から派生して、『どんなコロナ禍やねん?』って思っててなぁ…」

浅田「それで、夢の方は相変わらず続きを見ておられるんですか?(笑)」

真一「見てたなぁ…」

浅田「過去形ということは、今は見てへんのか(見ていないのか)?」

真一「少し落ち着いたっていうやつちゃうか…」

浅田「あ、そう」

真一「それでこの『白線流し』事件の後やな…」

浅田「うん。続きがあるんやな…(笑)」

真一「夢の中はいよいよ高校卒業を迎えましてなぁ…」

浅田「超大作やな(笑)」

真一「映画とちゃう(違う)ねん❗」

浅田「何があったんや?」


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