第37話 23年前の夢を見る真一…『真一と優香・それでも“幼なじみ”』②

(回想・夢の中)

優香「なぁ、しんちゃん…」

真一「何?」

優香「ベッド…、行こ…」

真一「う、うん…」




真一と優香はベッドに向かう。お互い緊張している。そして、優香が後ろから真一にべったり抱きついている。真一は何も言わずに、しばらくそのまま優香の気持ちを汲んだ。それから2人はベッドに入った。




真一はベッドに入るや否や、壁の方に体を向けた。優香は少し寂しそうにして、真一の背中に顔を埋めた。真一が少し後ろを向いた。



真一「どうしたん?」

優香「しんちゃん、なんでこっちに向いてくれへん(くれない)の?」

真一「え? オレが場所とってると思って…」

優香「そんなことないよ。こっち向いてよ」



真一が優香の方に体を向けた。優香が真一の顔を見つめる。



優香「しんちゃん…」

真一「ん?」

優香「…………」




優香は目を閉じて静かに真一に口づけした。



真一は黙っていた。

優香が真一に抱きついた。真一も黙って優香に腕枕をした。




優香「しんちゃん、待ってたんだよ…」

真一「そうか…、ゴメン…」

優香「ううん、いいよ。高校の時からこうしていたかった。私のせいで、真一くんを困らせて、私が遠回りさせたんや…」

真一「もうええよ(いいよ)、そんなことは…」

優香「真一くんは幼稚園の時から優しいよね…。何の見返りも求めないで、いっつも(いつも)私を助けてくれて…。それを知ってて私、真一くんを困らせて…。私がもっと、真一くんのように素直に言うたらよかったんや…って。そしたら、こんなことにならんかった(ならなかった)」

真一「もうええって(いいって)、そんなことは…。それより、甘えたかったんやろ? 優香ちゃん」

優香「うん…。高校の時から、しんちゃんとずっとこうしていたかった。新潟に来てから、すごく寂しかった」

真一「そうか…。オレ、『トラウマ』があるってわかってても、ちょっとどうしたらいいのか、わからんように(わからなく)なってて…」

優香「もっと早く『トラウマ』のこと、相談してほしかったなぁ…。真一くんがいつも私に『困ったら愚痴くらい聞くから』とか言って、私のこと助けてくれたから…。しんちゃんだって、私に遠慮しないで相談とか愚痴とか言うてほしい。困ったときはお互い様やんか?」

真一「うん…」

優香「それでしんちゃんは、私と(これから)どうしたい?」

真一「うーん…、『気持ちが迷ってる』ってことなんかなぁ…」

優香「気持ちが迷ってる?」

真一「優香ちゃんと今、ベッドでどうしたらいいのか…。『一線を越えてしまうのでは?』と…」

優香「そっかぁ…、しんちゃんも所詮は男の子や。それが普通なんやって。迷ってないで、素直な気持ちになって爆発させたら?(笑) 私はいつでもしんちゃんの気持ち、受け止めるからね。少しずつでいいから、しんちゃんの『トラウマ』、私が解かしていくから…。(相手が)しんちゃんとなら、一線を越えてもいいよ。いや、一線を越えたい」

真一「でも…、そんなん(それは)、オレだけの問題やないやんか。オレの一方的な意見で進められへんやんか」

優香「私は…、ずっと真一くんを待ってたんやけど…(笑)」

真一「えっ…」



優香が微笑む。



優香「私、しんちゃんやったら、いつでも(一線を越えても)いいよ。『トラウマ』があるしんちゃん次第やないかな…(笑)」

真一「……………」

優香「ホンマに大丈夫やで、しんちゃん。おいで」

真一「ホンマにいいの?」

優香「好きな人と…だったら、してあげたいって思うもん。だから『襲ったらええやん』って言うてるやんか(笑)。おいで、しんちゃん」




そう言うと優香は、真一を抱いて静かにキスをした。優香に誘導されながら、真一が優香を愛撫する。優香が次第に喘いでいく。

そして真一と優香は、お互いを見つめあい長くて熱い夜を過ごす。




優香「しんちゃん…、しんちゃん…、しんちゃんを待ってたんだよ…、しんちゃん、もっと抱いて。大好き❗」

真一「優香ちゃん、オレも優香ちゃんが幼稚園の時から大好き」

優香「うん。私も幼稚園の時から大好き。高校の時にこうして抱いてほしかった…」

真一「遠回りしたからなぁ…」

優香「じゃあ、遠回りした分いっぱい抱いて、真一くん(笑)。しんちゃんの好きにしていいよ…」



優香が躊躇することなく、Tシャツとハーフパンツ、さらに下着を脱いで全裸になったあと、今度は真一のTシャツやパンツを脱がし、優香が真一を全裸にさせた。真一が夢の中なのにかなり緊張している。対して優香は笑っている。




優香「(笑)。しんちゃん、顔がめっちゃ真っ赤やし(笑)」

真一「あ、あのなぁ…」

優香「見たらいいんやで。もう、遠慮とか恥ずかしがらなくてもいいんだからね」

真一「ちょっと、優香ちゃん…。ホンマにいいんかなぁ…。優香ちゃん…、あの…、めっちゃ綺麗…。こんなに綺麗やったんや…。初めて見た。幼稚園の時からめっちゃかわいいから、今の優香ちゃんはめっちゃ美人や。『越後美人』って、優香ちゃんのことやったんかな?」

優香「(笑)。しんちゃん、私の全て、初めて見るの?」

真一「当たり前やん、見ることないやんか。いつ見るんや?」

優香「そっかぁ…(笑)。じゃあ、しんちゃんの『越後美人』をもっと襲ってみてよ(笑)」

真一「そんな、強引にはせえへん(しない)よ」

優香「わかってる。しんちゃん優しいから(笑)。それに『トラウマ』がある真一くんやからね…。でも大丈夫。ほら、見ていいよ。なぁ…、私…胸無いけど、いい?」

真一「胸の大きさとかスタイルとか、容姿は関係ないやん。『その人がどんな人か?』やないかなぁ…。しかも、オレがよう(よく)知ってる優香ちゃんやから…。しかしまぁ…、ゆ、優香ちゃん…、こんなに綺麗なんや…」

優香「ホンマに見たことなかったっけ?」

真一「ないって。あるわけないやんか。いつ見るんや?(笑)」

優香「高校の時に見せといたら良かったかな?」

真一「いや、そういう問題やあらへん(ではない)」

優香「顔赤いし(笑)」

真一「優香ちゃんがオレを誘ってるからやろ?」

優香「しんちゃん…」

真一「ん?」

優香「来て…」





真一と優香は、これまでの気持ちをぶつけるかのように激しく抱きあい、真一が優香を愛撫し優香が喘ぐ。その後も2人は、何度も何度も抱き合って、ついに2人の体が、真一の夢の中で一つになった。そして、熱い真夏の夜が過ぎようとしていた。





翌朝、真一が先に目を覚ました。しばらくして優香も目を覚ました。



真一「おはよう」

優香「おはよう。早いやん。いつ起きたの?」

真一「さっきやで」

優香「そうなんや…」

真一「優香ちゃん、よう(よく)寝れたみたいやな。爆睡やったやなぁ」

優香「しんちゃんが昨日激しかったからじゃない?(笑)」

真一「いやいやいや、優香ちゃんがオレを誘ったんやんか」

優香「しんちゃんが誘ったんや(笑)」

真一「オレ、何も誘ってないけど…」

優香「じゃあ、これは何なん?」

真一「え…、これは優香ちゃんが誘惑してきたからやろ」

優香「…しんちゃんのエッチ」

真一「…優香ちゃんのエッチ」



お互い顔を見つめてからキスをする。



優香「もう、アカンな。私、これ以上しんちゃんをからかったら…。でもしんちゃん、私、嬉しかったんやで」

真一「そ、そうか…」

優香「『トラウマ』、少しは解かせられたかな…?」

真一「うーん、どうなんやろなぁ…」

優香「それより、しんちゃんが今、こんなことになってるから、何とか治めないと…」

真一「これは、朝の生理現象や。気にすることない」

優香「いいんやで、私は。しんちゃん次第や」

真一「無理にすることないやろ」

優香「…無理やないで。14年分の空白を取り返したいの」

真一「14年分って。幼稚園から遡るんか?」

優香「そうやで。私らは幼稚園の時から両思いやったんやからね(笑)」

真一「さすがに幼稚園から中学までは、こんなこと…」

優香「いいの❗ それくらいの気持ちやんか」

真一「そうか…」

優香「しんちゃん、そっちに行ってもいい?」

真一「…好きにしたら…」

優香「素直やないなぁ。私とこうしていられて、どう?」

真一「…悪くないけど…」

優香「顔に書いてあるで。『めっちゃ嬉しい』って…(笑)」

真一「…………」

優香「真一くん…」

真一「ん?」

優香「ありがとね」

真一「……うん」



2人はまた熱いキスを交わした。




優香「朝ごはん食べよっか?」

真一「うん…」




そして真一と優香は、朝食をとった。

その後真一と優香は、14年分の時間を取り戻すかのように、また抱き合い始める。今度は真一から優しく優香を抱いた。



優香「しんちゃん…」

真一「空白を少しでも取り戻すんやろ?」

優香「うん…。じゃあ、せっかく真一くんから誘ってきちゃったから、いっぱいエッチしよっか(笑)」

真一「なぁ、こんなことばっかりしてていいの?」

優香「今回は私の『どうしたらいい?』の返事をしに新潟に来てくれたんやから、しんちゃんの『初めての新潟』で遊びに行くのは今度にしよ。だから今回はずっと一緒にベッタリいたいなぁ(笑)」

真一「優香ちゃんからこんなに甘えて来るのは初めてやから、ホンマに良かったんかなぁ…」

優香「うん、いいよ。しんちゃん、来て」



そうして、優香は真一の体を受け入れ、お互いを愛撫し、真一が優香にのめり込んでいく。優香も真一にのめり込んでいく。優香が激しく喘いだ。



その後、激しく愛し合った二人は、時間の許す限り、14年分の時間を少しでも取り戻すかのように、2人の大切な時間を過ごしていた。



優香「ありがとね、真一くん」

真一「うん…。こちらこそありがとう、優香ちゃん」

優香「うん…(笑)。気持ち良かった」

真一「そうか…」

優香「気持ち良くなかった?」

真一「気持ち良かったよ」

優香「『トラウマ』、解けたかな?」

真一「解けていきだしているのは確かかも…」

優香「じゃあ、もっとエッチする?」

真一「エッチばっかりよりも、オレは優香ちゃんと一緒に居られるだけでも安心する」

優香「そっかぁ…。それより、しんちゃん、エッチは器用やな(笑)」

真一「な、何言うてんの(言ってるの)? 分からんなりに優香ちゃんに教えてもらって…やんか」

優香「体の相性も間違いないなぁ(笑)」

真一「優香ちゃん、実はめっちゃエッチなんやなぁ…」

優香「しんちゃんがエッチなんやって(笑)」

真一「優香ちゃんがエッチなんやって」



こうして真一と優香は、見つめ合いながらベッドで何度も何度もキスをした。














真一が浅田にスマートフォンでこれまで見た夢のことについて話している。




浅田「ええ夢見てはりますやん(見ておられますね)(笑)」

真一「もう、『どこまで夢で見せるねん❗』って感じやったわ」

浅田「あの時(23年前)に、その夢の通りにしてたら、今頃は…なぁ…(笑)」

真一「どうなんやろなぁ…」

浅田「けど、これはこれで腹を割って話せたのも良かったんとちゃうか(違うか)?」

真一「そうやな…。実際はどうなったかわからんけどな…。あくまでも夢の中、妄想の話や」

浅田「しかし、夢の中で拓(森岡)に説得されて、あんたが『切ない話』の夢まで見たくないから…って、夢の中では話がこんなに変わるもんなんやなぁ…。そもそも、拓(森岡)があんたを説得したって言うのも、おもろい(面白い)やないか…」

真一「何かけったいな話やったわ。『元彼が元カノの幼なじみを説得』って…」

浅田「それは拓があの人(優香)の気持ちを察したんやないか?」

真一「どうなんやろなぁ…。まぁ、この話はオレ、当時は深入りしてなかったから…。昔の人間がどうこう言うより、大学で新しい人見つけたら…って思ってたから」

浅田「それは『トラウマ』が尾を引いて、全く前向きになれんかったからか?」

真一「そうや」

浅田「なんか、もったいないなぁ…。けど、あんたらしいと言えばあんたらしいわ。自分のことは後回しにして、あの人(優香)のことを最優先にしたからなぁ」

真一「まぁな」

浅田「けど23年経って、真剣に考えたんやな」

真一「アホやろ? そんな昔のことで幼稚園まで行って記憶を辿った…って」

浅田「あんたらしいわ。夢の中であの人(優香)が何度も聞いてきたから、あんたは真面目に考えたんやろ?」

真一「そうや。毎晩、同じ夢見せられてうなされて…」

浅田「リベンジできたようやな…」

真一「どうなんやろなぁ…」

浅田「夢の中で一夜を共にしたんやろ?(笑)」

真一「そうや。何か優香ちゃんが積極的やったわ」

浅田「そらぁ、お互い初恋の人同士なんやからなぁ…(笑)」

真一「けど、実際はどうなんやろなぁ…」

浅田「その後の夢の続きはどうなったん?」

真一「それがなぁ…、それ以降夢に出なくなったんや」

浅田「えぇ? もう見とらん(見ていない)のか?」

真一「うん」

浅田「ハッピーエンドで終わったようなもんやな…(笑)」

真一「一体どうなってるんやろ…って。このコロナ禍、不思議すぎるわ」

浅田「全く見てへんの?」

真一「全く見てない」

浅田「寂しいんやないの?(笑)」

真一「なんで? オレにはみつきという妻がいるからなぁ…」

浅田「不思議やなぁ。あんた、あの人(優香)のこと、今でも後悔してないんか?」

真一「後悔はしてない。そらぁ、あの(23年前の)盆休みに優香ちゃんと『切ない話』をした直後あたりは後悔したけど、それは一時的や。それ以降(高校卒業から)23年経って、後悔したことは一度もない。なぜなら、優香さんはオレと『切ない話』になった後、オレの言うた通りに大学で旦那を見つけてくれた。オレが甲状腺ガンで入院して、半年後くらいに優香さんと再会した時に、4時間くらい話したことがあったけど、懐かしい感覚を覚えつつ、これからお互いの人生のことで腹を割って話したからなぁ。その後、風の便りで優香ちゃんが『できちゃった結婚』したって聞いたから…。まぁ、歴史的事実で終わってるなぁ。それにオレは今、みつきという妻がおる(居る)。今回の優香ちゃんとの夢を見たことで、余計にみつきを大事にしようと思った。みつきは、付き合ってるときからオレのことをたててくれて、一歩下がったような嫁さんや。『内助の功』というやつやなぁ。みつきは幼少時代から苦労の連続やった。親父おやっさんが、『飲む・打つ・買う』の典型的な親父さんやって、貧乏暇なしやった。お義母さんも長女やから『お嬢様』気質で、家のこともあんまりしてない人や。親父さんのことで苦労はしてはったけどなぁ。けど、一番負担がかかってたのは、一人っ子のみつきやった」

浅田「…………」

真一「それで、結婚するときはある程度覚悟してたんや。『何か揉め事とかもあるやろう』って。けど、みつき自身は『猫を被らん』し、自分の意見はハッキリ言うヤツや。付き合ってたときも、みつきが小さいときに、両親が福町へ一緒に買い物に連れてってくれただけで、あとは全く遊園地とか連れてってくれんかった(くれなかった)らしい。貧乏やったから、余計になぁ。そやから(だから)、付き合ってたときは、京都とか大阪とか神戸とか、近場でも立ち寄り温泉みたいなところへも連れてった(連れて行った)んや。その上でや。オレは、今回の優香ちゃんとの夢を半年以上見て、余計にみつきのことを大事にしようと思った。それは、昔オレのトラウマのせいで、優香ちゃんにしてあげられんかったことを、今みつきにしてやろうと…」

浅田「そうか…」

真一「買い物でも、みつきは今まで何でもかんでも一番安い物を買って、『安物買いの銭失い』になっとった。この前、みつきが下着を買って、しばらくしたらボロボロになったときにボヤいとった。そやから『高くても物が良い物を買ったら?』って言うて、『お小遣いがない』ってみつきが言うから、今年のみつきの誕生日に、メジャーなメーカーの下着を見に京都へ行って、みつきにその下着を買ってやったら、喜んでた。女性用の下着って、男とは訳が違うんやなぁ。目が飛び出たわ(笑)」

浅田「あ、そう。なるほどね…。あんたがちゃんと『嫁さん』とわきまえてるから、大丈夫や。あんたは真面目やから、浮気なんて絶対せん(しない)しなぁ。あの人(優香)にしてあげられんかったことを今、嫁さん(みつき)にしてあげてるのなら、オレも安心や」

真一「それで、みつきと結婚した翌年の春、親父おやっさんはガンで亡くなったんや。一人娘の嫁ぐ姿は見せられたんやないやろか…」

浅田「そうか…」

真一「それに、このコロナ前、去年(2019年)の年末に白木と東京で会って、居酒屋へ呑みに行ったことがあったんや」

浅田「うん」

真一「ちょうどオレとみつきが、東京へ急遽旅行に行ったことがあってなぁ、その時に、東京に住んでいる白木と待ち合わせして呑みに行ったんや」

浅田「うん」

真一「その時に白木が愚痴をこぼしたんや」









(回想)

2019年12月中旬、真一とみつき、そして仕事帰りの白木が東京で会い、北海道料理の居酒屋で呑んでいたときのこと。真一と白木はビールを飲んだ後、日本酒に切り換えて飲んでいた。みつきは終始ウーロン茶を飲んでいた。


ある程度酒が入っていた真一と白木。白木が真一に愚痴をこぼしていた。



白木「堀川…」

真一「どうした?」

白木「オレ、お前が羨ましい」

真一「どないしたんや(どうしたんだ)?」

白木「お前がこんな良い奥さんと一緒になれて…」

真一「なんでや? あんたかて(あなたにも)、奥さんおる(居る)やないか」

白木「おるけど、お前はよう(よく)奥さんを吟味して結婚したんやなぁ…って」

真一「どないしたんや? 何かあったんか?」

白木「ウチの嫁、飯は作らんし、子供が小さいから子守りして、飯は自分が食べたいもんを買って食ってんねん。オレが夜遅く仕事から帰ってきたら何にもしてあらへんし(していない)…。洗濯もしてへんし、ゴミも全然片づけへんし…。『片づけたら?』とか言うたら『気がついた人が片づけたらええやん』やって…。呆れて何も言えんかった(言えなかった)わ」

真一「付き合ってるときに、その辺りわからんかったんか?」

白木「職場で目の前の席におったから、さっさと結婚してもうた(してしまった)。嫁の両親からは『わがままな子ですけど…』って言うてはった。けど、社交辞令やと思うやんか。マジやったんや。結婚してから一回お義母さんに相談したら『だから、わがままな子ですけど…って言うたでしょ?』って。もう返す言葉なかったわ」

真一「辛いのう…」

白木「いや、オレがそこまで見抜けなかったから、自業自得でもあるからなぁ…。けど堀川、お前が羨ましい」



真一が白木に酒を注ぎ、白木がお猪口に入った酒を一気に飲み干した。



白木「そこへ行くと堀川、お前はホンマによう吟味して奥さんと結婚したなぁ。高校時代のお前とは、全く想像もつかんかった話や。奥さんがおって(居て)やから、詳しくは言わんけど、高校時代のお前は確かに、自分の事より他人の事を優先して考えとった。『一番の親友(優香)の事』なんか特になぁ…」

真一「まぁ、そんなこともあったなぁ…」

白木「当時はお前、女の子に全く興味なくて、坂本と正反対やったもんなぁ(笑)」

真一「そうやったなぁ。保健室の大川先生が『あんたら、2人を足して÷2にならんか?』ってボヤかれたからなぁ」

白木「(笑)。そうやったなぁ…。けどお前が奥さんを見つけて、付き合って結婚して、オレ、ホッとした自分と『ホンマにお前が羨ましい』っていう気分やったわ。オレ、お前みたいによーく吟味せんかったから、高校時代、お前に偉そうに色々言うてたのが恥ずかしくて…」

真一「気にすることないで。オレもみつきと出会わんかったら、まだ旅が『彼女』やったやろうし…」

白木「高校時代、オレがお前に色々と言うたこと、今となってはオレが偉そうに言える立場やないわ。それどころか、恋愛に全く興味なかったお前が、ちゃんとええ(良い)奥さん見つけて結婚したんやからなぁ…。人生何があるかわからんわ」

真一「まさしく『人生いろいろ』やな…」

白木「ホンマ、色々なことでお前が羨ましいわ。今でも出かける時は奥さんと一緒なんやろ?」

真一「基本的にそうやなぁ…」

白木「嫁さんと一緒に出かけるとか、幸せな結婚生活してみたいわ。ウチはよりによって、ダメ嫁やし、子供もおるし、離婚しようと考えても、中々ややこしいなぁ…。ホンマにお前が羨ましい…」










真一「そう言うて、白木が愚痴ってた」

浅田「大変やなぁ…。白木があんたの事を羨ましがってたんや」

真一「うん…」

浅田「まぁ、あんたは真面目やからなぁ。あの人(優香)があんたを好きになるのは、わかる。しかし、男の白木もあんたを羨ましがってたっていうのもなぁ…。ホンマに『人生いろいろ』やね」



真一「あのなぁ…」

浅田「なんや?」

真一「ちょっと話変わるけど、実は半年前に、コロナ禍ですることなかったから、SNS(ソーシャルネットワークシステム)のことを少し勉強してたんや」

浅田「ほう」

真一「そしたら、SNSで知り合った女性が、動画アプリで『幼なじみ』のボイス、所謂ASMRをやってる人なんやけど、その人が『何か幼なじみにまつわる話のネタがありませんか?』って募集ではないけど、そんな話をSNS上でしておられて、優香さんとの話を概要だけ伝えてみたんや」

浅田「うん」

真一「そしたら、その女性が『小説みたいに、お話を書かれてはどうですか?』って、逆に言われたんや」

浅田「ほう」

真一「そんなんオレ、アホやし、文学には全く疎いし…。そんななぁ、小説家とか、アマチュアとかで書いてる人とかに及ばへんし、『無理ですよ』って返事したら、『実話なんだから、ありのままを書いてみては?』って、えらいオレに奨めてんやな」

浅田「ほう(笑)」

真一「それで実は、とあるところにアホなオレが、物語書いてるんですわ。『実話を基に再構成したフィクションです』ってなぁ…」

浅田「(笑)…。あ、そう。いいコロナ禍の過ごし方してはります(おられます)やん(笑)」

真一「この1年、ホンマに不思議な1年やわ」










そして、真一と浅田がスマートフォンで話した日から4ヶ月が過ぎた2021年3月。この間、真一は、優香との出来事を『幼なじみ~不器用な男と器用な女~』という題名の物語にして、前年・2020年の春から執筆していた。四半世紀も前の記憶を辿りながら、色んな実話を交えて書いており、現在も多忙な仕事の合間にシリーズの派生企画の『物語』を書いている。しかし『物語』の執筆も、いよいよ終焉を迎える頃だった。書き終えたのは、2021年の秋だった。



優香との夢を見なくなった真一は、仕事で病院や介護施設へ営業に出かけている。コロナ禍で入場制限がかかる中、苦労しながら仕事をしていた。


ある日、共栄病院の放射線科で看護助手をしている、真一の小学校時代の同級生・佐藤まり、旧姓・吉岡まりと病院の廊下で出会う。



まり「堀川くん」

真一「あ、まりちゃん…」

まり「仕事してるんや(笑)」

真一「どう見ても、遊びには来てへん(来てない)なぁ…」

まり「元気してん(してる)の?」

真一「まぁ、なんとかやなぁ…。まりちゃんは?」

まり「私も、なんとかやなぁ…」

真一「そうか…」



しばらく、まりと談笑した真一は、共栄病院を出て、次の訪問先に営業車で移動した。

次に訪問したのは、老人介護保険施設だった。ここでは納品業務を行う。


3階のフロアで納品業務をして、注文書のバインダーを確認してノートに控えて帰るのだが、注文書に特殊な包帯の注文が記入してあり、現物がわからない真一は、フロアの職員に声をかける。



真一「すいません…」

女性職員「はい」

真一「ちょっと注文の件で確認したいことがありまして…」

女性職員「何でしょうか?」

真一「包帯の現物があれば見せていただきたいのですが…」

女性職員「はいはい。これです」



真一が包帯を確認する。



真一「あ、ありがとうございます」

女性職員「わかりますか?」

真一「うーん…、最近もらっていない注文のようなので、帰って調べてみます。すいません」

女性職員「いえいえ…。あの、ちょっと私も聞いてもいいですか?」

真一「はい…」

女性職員「あの、今42歳ですか?」

真一「…何歳に見えると思いますか?」

女性職員「42歳ですか?」

真一「ええ、そうですけど…」

女性職員「あの、私のこと覚えてますか?」

真一「……藤村さんですか?」

藤村「そうやで。嬉しい、覚えててくれたんや。やっぱり堀川くんやったんや(笑)。なんで声かけてくれへんの(くれないの)?」

真一「いや、いつも仕事忙しそうにしてるから、邪魔したら悪いと思って…。それに『他人の空似』で人違いやったら申し訳ないと思って…」

藤村「いやぁ、職場で同級生に会えるなんて、めっちゃ嬉しいわ。何年ぶり?」

真一「小学校4年生の頃以来やから、32年ぶりかな…」



真一は、小学校時代の同級生・藤村明子ふじむらあきこと小学校4年生以来、32年ぶりに再会した。



藤村「ここには週何回(納品に)来てるの?」

真一「週2回やな」

藤村「そうかぁ。これからは声かけてな」

真一「わかった…」

藤村「同窓会とかしたら盛り上がるやろなぁ…。でも今はコロナ禍で何も出来んけど…」

真一「そうやなぁ…」

藤村「堀川くん、誰かと再会してる?」

真一「そういえば、共栄病院の放射線科に吉田さんがおってや(居られる)なぁ」

藤村「まりちゃん? そうなんや…」




優香との夢を見なくなった真一は、藤村と再会し、その後も小学校時代の同級生に次々と再会するのだった。真一が心の中で呟いた。



真一((優香の)夢を見なくなってから、今度は小学校の同級生によう再会するなぁ。どうなってるんやろ、このコロナ禍…?)






ある日の夜、いつものように妻のみつきが先に就寝し、その後すぐに就寝した真一は、久々に夢を見た。









(夢の中)

一面に青々とした田園風景が広がっているところに、真っ直ぐに伸びた一本道があり、その一本道に1台の車が走っている。23年前に真一が乗っていたセダン型の中古車だった。



その車には、真一が運転し、助手席に優香が乗っていた。優香が真一に話す。




優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「どこに連れてってくれるの?」

真一「立ち寄り温泉とかは?」

優香「ええなぁ。私、新潟に来てから一度も温泉に行ってないん(行ってないの)よ。温泉地が色々あるのに…」

真一「そうなんや」

優香「どこの温泉に行くの?」

真一「そらぁ、優香ちゃんと行くんやから、当然『美人の湯』に行かんとアカンやろ?」

優香「別にどこでもいいよ、温泉やったら…」

真一「幼稚園の時からかわいいけど、『越後美人』の優香ちゃんがもっと美人になれるで(笑)」

優香「うまいこと言うて、ゴマすっても何も出てこないよ(笑)。でも、行こっか、温泉」

真一「ええか(いいか)?」

優香「うん。私は、しんちゃんと一緒に出かけるんやから、どこへでも行くよ(笑)」

真一「しかし、ここはええ景色やなぁ…」

優香「絵になるなぁ…」

真一「うん」

優香「しんちゃん、一緒に温泉入る?」

真一「はい?」

優香「顔赤いし(笑)」

真一「…………」

優香「ホンマに幼稚園の時から変わらんなぁ。真っ直ぐで、優しくて、正直で嘘がつけなくて、すぐ顔に出るし、不器用で…。私、(彼氏が)しんちゃんで良かったわ(笑)」

真一「どうしたん?」

優香「私を誰やと思ってるの? 幼なじみの初恋の人で彼女の優香ちゃんやで(笑)」

真一「そうやな…」

優香「じゃあ、温泉へ『遠足』に行こ、私の幼なじみの初恋の彼氏のしんちゃん(笑)」

真一「うん…」

優香「お泊まりしてもいいよ、しんちゃん」

真一「えっ…」

優香「また顔赤くなってる(笑)。エッチなこと考えたでしょ?」

真一「考えてへんわ。急に言い出すから、『えっ…』ってなっただけや」

優香「私と一緒にいられて良かった?」

真一「しっくりくるなぁ」

優香「やっぱり私ら、それでも『幼なじみ』やからね(笑)」

真一「そうやな…」





真一と優香は、幼稚園・高校の時のように、いつもの2人だった。田園風景が広がる一本道を車で走っていった。









そしてここで夢は覚め、目を覚ました真一は、不思議な光景をどことなく懐かしんでいた。











(完)

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