第11話 24年前の夢を見る真一…『不器用な真一』②
(回想・夢の中)
『合同展示会』も無事盛況に終わり、真一たちの高校最後の『合同展示会』も幕を閉じた。
京都からの帰りの電車にて…
ポイント付近を通過する電車が、立っている真一たちの足を揺れつかせた。その時、優香は村田を真一に目掛けて押した。
村田「うわぁー…」
真一「おーっ…と」
村田は真一にまともに当たり、真一はとっさに村田をこけないように支えた。
優香「渦中の2人なんやで、スキンシップくらいはなぁ…(笑)」
村田「ちょっと、ゆうちゃん違うって…」
真一「なんやなんや…」
真一と村田は動揺を隠せなかった。
白木たちもニヤニヤ笑いながらガマンした。
優香「だって、しんちゃんもくーちゃんも顔赤いもん」
真一「びっくりしたからや」
村田「もう、ゆうちゃん…❗」
優香「恋愛の講習で教えたくーちゃん先生が生徒のしんちゃんと恋するのはいいと思うで」
真一「え?」
村田「ちょっと、ゆうちゃん…❗」
優香「ダメなん?」
真一「無理やりやんか」
優香「無理やりやないで。だって、2人とも意識してるし、お互いウジウジしてるし、くーちゃんだって真一くんと一緒におって楽しそうやったもん。これのどこが無理やりなん? 真一くんだって、私と普通に話してる感じでくーちゃんと話してたから、私見てて安心したんやで。嬉しかったもん」
真一「………」
村田「…ゆうちゃん…」
優香「これこそ、くーちゃんが言ってた『ひょんなことから』じゃないの?」
村田「ゆうちゃん…」
優香「帰るまでまだ時間かかるから、2人っきりで帰りの電車の中で話しておいで。くーちゃんも真一くんに甘えたかったら甘えたらええやん。真一くんはいざという時、受け入れてくれるわ」
真一、村田、優香以外の友達は3人のやり取りを黙って見つめていた。真一と村田の動向を促した優香は、真一の喜ぶ顔を望んでいた。そして優香は真一に耳元で告げた。
優香「しんちゃん、くーちゃんにアプローチしてみなよ」
真一「え? どうすんの?」
優香「さりげなく、手つなぐとか…。スキンシップやな」
真一「う、うん…」
真一と村田は優香に促され、2人っきりで京都から電車の2人がけのシートに座って、話すことにした。
2人から少し離れたところに優香と加藤、それに滝川が座っている。白木たちも優香たちの辺りで、真一と村田から距離をおいて座る。
白木「堀川、大丈夫か?」
藤岡「加島さんが言っているんやから大丈夫なんちゃうか?」
坂本「それならいいんやけどなぁ…」
白木「堀川次第ってとこか…」
優香「堀川くんは少し考えが変わったかもしれん。良い兆候が見えるわ」
白木「なんでわかるん? 幼なじみやから?」
優香「それだけじゃなくて、言うたら否定しまくってたのに、黙って首を縦に振ってた時があったから…」
滝川「そうなんや。それでか?」
優香「うん。仲良くなったらいいんやけどね…」
加藤「そっとしておいてあげようよ」
優香「うん」
一方、真一と村田は、真一がしどろもどろだった。それを優香は見逃さなかった。
優香「はい、チョコレートキャラメル。2人には甘いイチゴがいいかなぁ…」
真一「なぁ、それ激甘のやつやんか」
村田「ゆうちゃん…」
優香「くーちゃん、これを真一くんに食べさせてあげたら真一くん喜ぶよ(笑)」
真一「は? 何言うてんの?」
優香「『あーん』してあげてな。真一くんもくーちゃんにしてあげるんやで❗」
真一「ちょっと、暴走してるんか?」
優香「暴走してへんわ❗ じゃ、ごゆっくり…(笑)」
真一と村田は余計に顔が赤くなった。
真一「優香さんの言うてること、気にしなくてもええから…」
村田「してあげよか?」
真一「えっ?」
村田「今、帽子被ってるから『しんちゃん』やろ?」
真一「え、ホンマにええの?」
村田「うん…」
真一「無理にしなくていいから…」
村田「無理やないから…。あくまで講習やでな…」
真一「う、うん…」
村田「あ、あーん…」
真一は村田からチョコレートキャラメルイチゴ味を口に入れてくれた。
村田「どう?」
真一「あっま~。相変わらずの激甘や❗」
真一の悶絶ぶりに村田が笑う。
村田「そんなに甘い?」
真一「甘いでー。食べてみなぁ…」
村田「た、食べさせてくれる?」
真一「あ、あぁ…。じゃあ、あーん…」
村田は真一からチョコレートキャラメルイチゴ味を口に入れてくれた。
村田「甘いけど、美味しいで(笑)」
真一「ようこんな激甘なん食べれるなぁ…(笑)」
村田「大丈夫やで」
真一「そうか…。食べるか?」
村田「…うん」
真一「はい…あーん…」
真一は顔を赤くしながら村田の口にチョコレートキャラメルイチゴ味を入れた。
村田「…あ、ありがとう」
真一「…あぁ…」
村田「めっちゃ顔赤いで(笑)」
真一「村田さんもやで(笑)」
優香は2人の様子を見ていた。2人とも顔を赤くしながらチョコレートキャラメルイチゴ味をお互いの口に入れているのを見て、笑いながら安心していた。
その後は2人とも疲れて寝てしまった。村田が真一の右の肩にもたれて寝ていた。真一も寝ていた。自然に真一の右手と村田の左手が重なっていた。優香はその様子をみて安心していた。他の男連中と加藤と滝川は寝ていた。
真一は少し目が覚めて自分の右手が村田の左手と重なっているのを見て、内心びっくりしていたが、優香のアドバイス『アプローチ』が頭に浮かび、そのまま手を軽くつなぎ、また寝た。
途中駅に到着し、北町行きの電車に乗り換える。
真一は村田と重ねた手を離し、乗り換えるが、優香が無理やり村田とひっつける。
真一「村田さん、迷惑やないか?」
村田「…ううん、大丈夫やで…」
真一「オレ、こんなこと今までないから…」
村田「…うん。ゆうちゃんに振り回されてない?」
真一「オレは大丈夫や。村田さんは?」
村田「うん、大丈夫」
真一「いろんな意味で疲れてないか?」
村田「ちょっとね…」
真一「優香さんに振り回された?」
村田「大丈夫やで」
真一「そうか…。さっきの電車の中で寝てしまってて、なんかオレ、村田さんに手つないでて…」
村田「堀川くんも疲れてたんやから、大丈夫やで(笑)」
真一「ゴメン」
村田「大丈夫」
真一「けど村田さんの手、温かかった。女の子と手つないだのは、優香さんと幼稚園でつながされて以来やから、こんな感触今まで無かった…」
村田「そうかぁ…(笑) 」
真一「オレ、変なこと言うてるなぁ…」
村田「ううん、堀川くんが少しずつ勉強してるんやって(笑)」
真一「うん…」
真一は少し心が揺れていた。優香の言うとおり、村田に恋心が芽生えた?
梅沢駅で、村田・加藤・滝川が下車する。
村田「じゃ、バイバイ」
真一「じゃあ…お疲れさん」
加藤・滝川「じゃあね、バイバイ」
優香「バイバイ」
真一「お疲れさん」
白木と佐野山は爆睡中だった。
真一は優香と話す。
真一「はぁ…」
優香「どうしたん? 胸キュン?(笑)」
真一「違う、疲れた」
優香「そうかぁ…。しんちゃん、くーちゃんと手つないでたやん(笑)」
真一「知らん間やった。村田さんに謝っといたけど『寝てたんやから…』って…」
優香「謝らんでもいいんやで。私、ホッとしてたんやで」
真一「なんで?」
優香「しんちゃん、成長したなぁって…」
真一「なんのこっちゃ」
優香「離れて見てたけど、お似合いやったよ」
真一「そうかなぁ…」
優香「しんちゃん、くーちゃんのこと、どう思ってるの?」
真一「…うーん…」
優香「好きになった?」
真一「…わからんのや」
優香「今までみたいに私の同じクラスの友達ではなくなった?」
真一「寝てしまってた時に、誤って手重ねてた時、村田さんこんな手してるんか…って思ったんや」
優香「そうかぁ」
真一「幼稚園の時の優香ちゃん以来やったわ…」
優香「そうかぁ。私の手より良かったやろ?(笑)」
真一「なんやそれ」
優香「でも深く考えんと、少しの勇気だけやで…」
真一「いや、オレはただ…」
優香「講習やないよ。実戦やと思うで」
真一「えっ?」
真一は困った顔をしていた。
優香は困った顔した真一に語りかける。
優香「くーちゃんのこと、よう考えてごらん」
真一「………」
優香「ある程度、しんちゃんを受け入れてたんやないやろか?」
真一「そうなんかなぁ…」
優香「真相はくーちゃんのみぞ知る…かな」
真一「………」
優香「告白…してみる?」
真一「いやぁ、無理やろ…」
優香「わからんやんか。慌てなくていいから、しんちゃんが『付き合いたいなぁ』って思ったら告白してみなよ。まだ様子は見なアカンから、早いけど」
真一「………」
それから数日後、真一は村田を化学実験室に呼び出した。
村田「どうしたん?」
真一「………」
村田「………」
真一「…あのな、オレは元々恋愛に興味なかったんや。けど、興味持たなアカンっていっぱい言われた。今まで教えてもらったことやら討論みたいになったことも事実や。優香さんの強引な企みもあったけど…」
村田「……うん」
真一「まだまだオレはわかってないと思う。そやから、これからも分からんこと教えてもらいたいと…」
村田「……」
真一「そんな気持ちもあって、オレを男にしてもらたくて…、うまいこと言われへんけど
、つ…つ…付き合って欲しい…」
村田「………」
真一「………」
村田「ごめんなさい。私、興味ないんや」
真一「(えっ)………………そうか…………」
村田「…………………」
真一「…そうやんな、やっぱりオレ不器用やで、無理やんなぁ(笑)」
村田「……ううん、ゴメンな…」
真一「いや、かまへんで…。悪かったな呼び出して…」
村田「ううん…」
真一は村田にフラれた。フラれた事にはショックを受けていない。しかしフラれた理由に違和感を覚えた。『興味がない』、この一言で当時の真一は心に決めた。
真一(なんやねん、あんだけオレに『興味持たなアカン』と担いでおきながら、いざ告白したら『興味ない』って、どういうことや❗ やっぱりオレの言うた通りや。恋愛なんてロクなもんやないわ。それならはじめから興味ない人間に興味持たすなよ❗ もう女なんてくそ食らえや❗)
真一は当時、心の中で怒りを覚えたと同時に、もう周囲からいくら言われても恋愛には一生興味持たないと心に誓ったのだった。
放課後、真一は図書館に寄ることなく、学校下の食堂のおばちゃんのところでラーメンをすすって、気をまぎらわせていた。
真一は皆が乗るであろう5:55の電車に乗らないようにしようとしたが、怒りが収まらない。真一は優香に話そうと、あえて5:55の電車に乗ることにした。
真一が高校駅で電車を待っていると、優香、白木、佐野山がやって来た。
佐野山「おっちゃん…」
白木「おう」
真一「おう」
優香「堀川くん…」
真一「電車に乗ったら、優香さんに話がある」
優香「わかった」
北町行きの電車が来て、4人は乗る。真一と優香はあえて後ろの車両に乗って話す。
優香「くーちゃんから聞いたよ」
真一「その事で話があって…」
優香「どうしたん?」
真一「一体どういうことや? オレをアホにしとんのか❗」
優香「どういうこと?」
真一「告白してフラれたのは別に凹んでないけど、オレ今めっちゃ腹立ってんねん」
優香「なんで?」
真一「フラれた理由や」
優香「理由? くーちゃんは何て?」
真一「『興味ない』やって」
優香「え…」
真一「オレ、元々恋愛に興味なかったんや。『興味持て』って口酸っぱく言うてたん、誰やねん❗ 興味ない人間に興味持たせて『興味ない』って言うてフるんなら、はじめから興味ない人間に興味持たせるなよって言いたい❗ それで頭にきてんねん❗」
優香「そうなん…。でも、くーちゃんも考えた結論やから仕方ない部分もあるけどなぁ…、そんな断りかたしたんか…」
真一「優香ちゃん、もう悪いけど、二度とオレに女の話は一切せんといて。もうオレ恋愛どころか一生結婚もせんから❗ 優香ちゃんにも悪いけど、女なんかくそ食らえや❗ 世界中の女から敵に回されたってかまわない。オレは一生一人で良いし、オレが今まで言うてたことは間違ってなかったんや。二度とオレに浮わついた話はせんとって。ロクな人生送れんわ。興味ある人だけ興味持ったらエエだけの話や。興味ないオレには一切関わらんといて欲しい」
優香「しんちゃん…」
真一「悪いけど、もうオレのことはほっといて❗」
優香「しんちゃん、待って」
真一「何?」
優香「くーちゃんも断り方が悪かったかもしれん。けど、フラれても次の出会いがあるから…」
真一「もういらんねん。オレはそもそも興味ないんや。次も何も、元々こちらから探してないから、いらんねん」
優香「じゃあ、しんちゃんは堀川家はしんちゃんで終わるんか?」
真一「そうや。オレがトドメを打つ。それが嫌なら養子に来て」
優香「しんちゃん…」
翌日から真一はまた図書館に来ることはなかった。
真一は少し時間はかかったが、図書館にはやって来るようになった。真一はあか抜けたように、村田のことは吹っ切れたようだった。真一は優香と一緒にいる森岡に声をかけられた。優香は2人の話に耳を傾けながら、真一の顔色をうかがった。
森岡「堀川」
真一「なんや」
森岡「お前、ホンマに不器用やのう」
真一「そうやで。それが何か?」
森岡「器用になりたいって思わんのか?」
真一「思わん。オレには必要ない」
森岡「…お前、一生独身を貫くんか?」
真一「そうや」
森岡「寂しくないんか?」
真一「別に。生まれてこの方一人っ子やから、一人は慣れてる」
森岡「もっと高校生活を謳歌せんか?」
真一「もうすぐ卒業するのに?」
優香「『一人は寂しい』って、前に言うてたやんか」
真一「もう慣れてるし、オレは一人っていう宿命なんやから、もうどうでもええわって思ってる」
優香「もう彼女は懲り懲り?」
真一「オレには全く必要ない」
加藤「ヤッホー。あ、堀川くん❗」
真一「加藤さん」
加藤「堀川くん、大変やったなぁ…」
真一「いや別に…」
加藤「くーちゃん、反省してたよ」
真一「そうなん? まぁ、オレには関係ないけど…」
加藤「堀川くん、あのな、くーちゃんのことはともかく、実はこれ言うたらゆうちゃんが怒るかもしれんけど、ゆうちゃん、堀川くんが図書館に来なくなった間、ゆうちゃんめっちゃ堀川くんのこと心配してたんやで」
真一「………」
優香「………」
加藤「くーちゃんのことを堀川くんから話聞いた次の日から、堀川くんのこと心配して、白木くんとか藤岡くんとかに様子聞いてたんやで」
森岡「そうやぞ。オレのことほっとかれてまでもやぞ(笑)」
真一「心配する必要ないって言うたけどなぁ…」
優香「あんだけ怒ってたら心配するって。心配せん方がおかしいわ」
真一「………」
加藤「堀川くんは『一人』って言うてるけど、いつもそばには『ゆうちゃん』っていう幼なじみがいるんやで」
真一「………」
加藤「ゆうちゃんが一番心配してた」
真一「でも、もうすぐ卒業するから終わりやけどな」
優香「…………」
加藤「卒業してからも連絡とったらええやん」
真一「なんで? 森岡という彼氏がいるのに?」
加藤「それとこれとは違うよ」
真一「ううん、いつまでも頼ってばかりはアカンよ。頼るのは高校までや。もう昔とは違うから…」
優香「………」
当時『自分は誰にも頼らない』と決意したように思えた真一の考えに、何も言えなかった優香だった。優香は昔に戻りたい気持ちになった。
浅田「へぇー、オレが高校辞めたあと、そんなことがあったんや。あの人(優香)たちに言われて、アイツ(村田)があんたに説得しておきながら『興味ない』はアカンやろ。もっとマシな断り方なかったんか? それはあんたが怒るのも無理ないわ」
真一「あの当時は結局振り回されただけやったなぁ…」
浅田「そらぁ、あの人(優香)も困ったやろなぁ…。複雑な心境やったんと違うの?」
真一「さぁ、どうやったんやろなぁ…」
浅田「それであんた余計に『トラウマ』になったんやな?」
真一「そうやなぁ…。おかげで当時のオレは、これで『ロクなことない』って実証できたから、ある意味良かったけど…」
浅田「ホンマにボタンの掛け違いだけやな…。これで、もうすぐ高校卒業するんか?」
真一「まぁ、その前に冬休みやな…」
浅田「なかなか濃い話やな、あんたとあの人のこと…(笑)」
真一「すんなりいきませんなぁ…」
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