第12話 24年前の夢を見る真一…『トラウマ』

真一は浅田とスマートフォンで、このコロナ禍で見た高校時代の夢を走馬灯のように見た話をしている。



真一「それでなぁ、オレの『トラウマ』の話なんやけどな…」

浅田「あぁ。『トラウマ』がどうした?」

真一「昔、あんたには話したけど、実はもう一人、『トラウマ』の話をしてるんや」

浅田「誰なん?」

真一「保健室の大川先生」

浅田「そうなんや…」

真一「もう時効やで言うけど、高校2年の時にオレ、周りのもんから『優香さんとめっちゃいい感じやんか❗』ってよう言われてたんや。いつもと変わらんのに…」

浅田「うん」

真一「それで、確かにオレは優香ちゃんが幼稚園の時から好きやったで。けど『トラウマ』があったから、前向きになれんかった。皆の前では突っぱねてたんやけど、一応大川先生に相談したんや」








(回想)

真一は養護教諭の大川先生に自分の本当の気持ちを話し始めた。



真一「ちょっと先生と2人で話したい事があって…」

大川先生「何や? 加島さんのこと?」

真一「…ええ」

大川先生「あんた、加島さんのことどう思ってんの?」

真一「…幼なじみですよ」

大川先生「でも好きなんでしょ?」

真一「………」

大川先生「好きやって言うたらエエだけのことやな」

真一「そうはいかんのですわ」

大川先生「なんでや?」

真一「誰にも絶対言わないで欲しいんですが…」

大川先生「なんや?」

真一「約束していただけますか?」

大川先生「…わかった。約束する」

真一「……実は、オレが中学3年の時、叔父さんが亡くなったんです。叔父さんは高校の時、好きやった同級生と付き合ったのですが、彼女は高校卒業後、大学に行くことになったんです。叔父さんも彼女と同じ大学に行きたくて、ウチの婆さん(叔父さんの母親)に『大学に行かせて欲しい』と頼み込んだのです。けど、ウチは貧乏だったので大学に行くお金などありませんでした。それでも叔父さんは彼女のこと諦めきれずに、婆さんの反対を押しきって奨学金制度を使って大学に行ったんです。けど、大学に行ってから、2人の間に子供ができたんです。双方の両親からこっぴどく叱られ、子供は中絶となったのですが、本人たちは本当に愛し合っているので家族が無理から引き裂くのはどうか…とのことで、中絶を条件に結婚したのです(当時は『できちゃった結婚』が世間では許されなかった時代)。結婚後は2人の女の子を授かったのですが、叔父さんは名古屋で就職しても人間関係でやめてしまう事が度々あったんです。それで、叔父さんは地元に帰って来て夜勤の工場で働く決心をしたのですが、奥さんに何の相談もなく地元に引っ越すことに、奥さんは怒ってしまって、地元に引っ越ししてしばらくして離婚してしまったのです。その時、金目のものは全て離婚した嫁が引き揚げ

、娘2人と一緒に地元を出て名古屋に帰ったんです。その時叔父さんは『うつ』になっていました。正気の状態でないときに離婚の相談をして、叔父さんをドン底に沈めたのです。そして、叔父さんは車ごと海にダイビングしたんです。叔父さんが亡くなってしばらくして、婆さんがオレにこの話をし始めて『お前の両親にも誰にも言うな』と言われたんですが、いまのオレは叔父さんと同じ轍を踏もうとしているんです。それに、叔父さんは『オレみたいな男になったらアカンぞ』と何度も何度もオレに言うたんです。それが最期の言葉でした。だからオレは『女の子と付き合ってもロクなことはないんや。他人に担がれても結局遊び半分で笑い者にされるだけ』やと。『それなら始めから女の子には興味を持たないでおこう』、そう決心したんです。だから、オレは優香ちゃんとは一緒になれんのです」

大川先生「………。けど、それは叔父さんの人生であって、あんたの人生やないやんか? あんたは叔父さんみたいにならんように気をつけたらエエだけなんと違うんか?」

真一「叔父さんが亡くなった時、親父は叔父さんの兄なので、悔し涙をにじませてました。何度も何度も叔父さんは酒に溺れても親父は必死で話し合っていました。それに婆さんにそんな話聞かされたら、親父の息子であり婆さんの孫であるオレは、この話を無視なんてできませんやん❗ やっぱり目の当たりにした者しか、この気持ちわからんのでしょうね…。」

大川先生「………。あんた、相当傷ついてるんやな…。その事を考えんと加島さんのことだけ考えられんか?」

真一「優香ちゃんのこと考えたら、(叔父さんの事が)出てきますわ」











真一「それ以上、大川先生は何も言うてなかったわ…」

浅田「けど、それは一時的なことやろ? そんなん気にしてたら、恋愛そのものなんかできん(できない)やんか」

真一「そうや。だから、当時のオレは全く前向きになれんかった。積極的になれんかった。昔、あんたにこの話した時に言うたやんか。『オレも一応男や。普通に恋愛がしたかった』と」

浅田「あんた、相当傷ついてたんやな。それにアイツ(村田)との(不器用な告白をした)ことがあって、余計に抑制してたんやな」

真一「そうやなぁ…。終わったようなもんやった」

浅田「なんか、もったいないなぁ…。せっかく『大恋愛』のチャンスやったのに、あの人(優香)は拓(森岡)にとられて…」

真一「とにかく、あの時のオレは全く前向きになれんかったんや。だから『これでよかったんや』と自分に言い聞かせてた」

浅田「あんたらしいなぁ。自分がダメなら、他人を良くしよう…と。つまり、あの人(優香)のことだけを…。けど、それではあんたが幸せになれへん(なれない)やんか」

真一「当時のオレは、こうするしか方法が思いつかんかった。アホやでなぁ…」

浅田「ところで、夢は終わりに近づいてきてるよなぁ」

真一「『ところが』や」

浅田「なんや、何かあるんか?」

真一「まぁな…(笑)」

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