第13話 23年前の夢を見る真一…『高校卒業』

(回想・夢の中)

波乱の真一が村田に失恋したあと、冬休みに入った。


真一は家の大掃除と新年を迎える準備をし、年賀状の作成もしていた。


年が明け、真一たちの高校生活もあと3ヶ月、しかし2月になるとテスト休みになるので、実質1ヶ月を切っていた。

元日、初詣から帰って来た真一は年賀状が届いており、家族別に仕分けていた。仕分けが終わり、自分宛ての年賀状を見る。優香からも来ていた。


『あけましておめでとう これからもよろしくね❗』

『いつも誰かを助けている真一くんはとってもエライです。これからも素直な心のままでいてね』


優香は年賀状で真一を気遣っていた。優香の今できる真一への精一杯の気遣いと思いだった。当時の真一は身に染みてわかっていた。



そして冬休みもあっという間に終わり、3学期が始まった。いつものように真一は朝、南駅から電車に乗る。


真一「おはよう」

優香「おはよう。今年もよろしく」

真一「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」

優香「もうすぐ終わりやなぁ…」

真一「大学入試もいよいよ大詰めやな」

優香「うん」

真一「手応え十分やろ?」

優香「わからん。やってみんと…」

真一「優香ちゃんは、これまで何でもそつなくこなしてる。努力の賜物やろ。オレとは違うから…」

優香「そんなことないよ。しんちゃんだって、私には出来んことやってるやんか」

真一「そんなことない。オレは不器用やから、できることしかしてないだけや。優香ちゃんは何でもできる。大学行っても成功するわ」

優香「そうかなぁ…」

真一「うん」

優香「しんちゃんは、何で自分のことより人のことを優先するの?」

真一「理由はない。ただ、体が勝手に動くんや」

優香「そっかぁ…」

真一「うん…。アノ時もそうやったで」

優香「え?」

真一「幼稚園のイス」

優香「そうなん?」

真一「うん。だって、先生に『イスとってこい』って言われて取りに行ったら、優香ちゃんだけ取りに行かんとしょんぼりしてたからやんか。オレ、そんな優香ちゃんを見て体が勝手に動いてて、気がついたらイス2個取って、1個優香ちゃんに渡してた。優香ちゃんの満面の笑み、その時初めて見たんや」

優香「そうやったんか…」

真一「うん」

優香「その時からしんちゃんは優しかったんやなぁ」

真一「そうなんかなぁ…」

優香「そうやで」



1月末、3年生は下級生よりも早く期末試験がある。優香は大学入試も控えていた。

真一は2月からのテスト休み中に地方の自動車学校へ合宿することになっている。


2月に入り、真一はテスト休みを使って自動車学校へ合宿へ行った。2週間家を空ける。



優香も当時の大学入学『センター試験』に合格し、新潟の大学へ進学することになった。




2月28日、3年生は卒業式の予行練習で登校日だった。


朝、真一は白木と話ながら登校していた。


白木「自動車学校はどうやった」

真一「合宿もなかなか面白かったで」

白木「そうか」

真一「東京やら大阪とかからも合宿に来てて、『南町って、えらい近いとこから来たなぁ』って教官に言われたわ」

白木「そらぁ、合宿やのに近いとこから来て…ってなるわなぁ(笑)」

真一「でも、都会の人らも田舎で合宿ってなかなか新鮮やったみたいやで」

白木「そうやろなぁ」


登校後は図書館でいつもの面々が集合した。


白木「おはよう」

加藤・滝川「おはよう」

藤岡「おはよう」

寺岡「おはよう」

坂本・佐野山・高山「おはよう」

真一「おはよう」

村田「おはよう」

優香「おはよう」

森岡「全員来たなぁ」


真一は村田との事が何事もなかったかのように、お互い普通に接するようになっていた。


真一「明日でしまいやな…」

白木「早いなぁ…」

村田「あっという間やったね」

滝川「ホンマに」

加藤「寂しくなるなぁ…」

真一「大学・短大進学、就職、地元に残る人、出ていく人、けど気持ちは一つやないんか?」

白木「そうやな」

滝川「そうやね」


真一は福町の電気機器・配線器具卸会社に就職が決まり、白木は大阪の大学に進学、藤岡は京都の設計下請け会社に就職、佐野山は電力会社の子会社に就職、寺岡と高山は地元の電話線工事会社に就職、森岡は大阪の重機メーカーに就職、村田は南町の職業訓練短大へ進学、加藤は神戸の大学へ進学し、滝川は奈良の短大に通いながら工場で就職することになった。


朝のホームルームの後、体育館で卒業式の予行練習が行われた。予行練習が終わると、教室に戻りホームルームがあって、下校となった。


真一は卒業式を前に自分の荷物の整理をしていた。図書館、化学準備室で『仕事道具』を片付けていた。

優香は森岡と図書館で語り合っていた。優香は時折片付けをしている真一を見つめながら森岡と話していた。


村田・加藤・滝川は先に帰った。

坂本たちも帰った。残ったのは真一、優香、森岡、佐野山、白木だった。


佐野山は工業系職員室で先生方と面談していた。かなり話が弾み、夕方まで学校に残っていた。佐野山はクタクタになっていた。

白木も最後のアンプ製作が完成し、クタクタになって夕方まで学校に残っていた。

森岡と優香はいつも通り、話して森岡が帰った。優香は片付けをしている真一を待った。

真一も片付けが終わり、結局夕方まで残っていた。

真一と優香は一緒に学校を出て、高校駅に向かう。真一はいつものように、自動販売機でミルクティを2本買って、1本優香に渡した。


真一「はい」

優香「ありがとう」

真一「うん」

優香「これが最後のミルクティやなぁ…」

真一「そうやなぁ…。明日は親父が車で迎えに来るから…」

優香「そっかぁ…」

真一「うん…」

優香「なんかあっという間やったなぁ…」

真一「ホンマやなぁ」

優香「しんちゃん、嫌な想い出しかないやろ?」

真一「そんなことないで。面白かったわ」

優香「そうなん?」

真一「うん。オレ、この高校に入って、誰もオレのこと知らんやろう…と思って入ったら、知ってた人がいて…。よりによって、幼稚園の隣の席の女の子やったとはなぁ…(笑)」

優香「嬉しかった?」

真一「びっくりした(笑)」

優香「私もびっくりしたけど、楽しかった(笑)」

真一「うん…」

優香「なぁ、しんちゃん…」

真一「何や?」

優香「頭なでなでしてくれへんの?」

真一「拓(森岡)にしてもらわんかったんかいな?」

優香「うん」

真一「なんで?」

優香「幼なじみじゃないから」

真一「アイツ彼氏やろ?(笑)」

優香「彼氏と幼なじみは違うの❗」

真一「そうか…」

優香「なぁ、ダメ?」

真一「また今度」

優香「今度って、明日で卒業するっちゅうねん❗(笑)」

真一「家帰ってから、しんちゃん(弟の新次)にしてもらいなぁ。まさしくしんちゃんに頭なでなでやんか(笑)」

優香「しんちゃんのいじわる❗」

真一「(笑)…」

優香「もう、最後までいじわるするんやから…(笑)」

真一「最後までいじっとかんと、もういじれんよなるから今のうちにしとかんとなぁ…総ざらいや(笑)」

優香「もう…」

真一「(笑)…。…優香ちゃん」

優香「何?」

真一「大学行っても頑張れよ」

優香「うん。しんちゃんもこっちでお仕事頑張ってね」

真一「うん」

優香「不器用なんやし、これからは私に頼れないよ」

真一「わかってるわ」

優香「私は新潟やからね」

真一「あぁ…」


2人は高校駅に到着、ホームで電車を待つ。白木と佐野山もやって来た。


白木「なんや、お前らもか?」

佐野山「なんでおるんや?」

真一「オレは片付けしとった」

優香「私は森岡くんの話相手」

白木「あ、そう」


電車が到着し、4人はボックス席に座った。真一のとなりに優香が座り、向かい側に白木と佐野山が座ったが、白木と佐野山は座るや否や寝た。真一は何か話そうとしていたが寝たので、話せなかった。仕方なく優香と話そうとしたら、優香も寝てしまった。優香は真一の右肩に頭をもたれさせて寝た。真一は、優香が寝たことで右腕は動かせなかった。

仕方なく真一は車窓を眺めた。携帯音楽プレーヤーで音楽を聞く。親戚のお兄さんから借りているCDを何気なく聞いていた。すると、岡村孝子の『一人息子』という曲が流れた。


何気なく真一は曲を聞いていると、歌詞を聞いてドキッとした。

タイミングが良すぎると思った。真一はとなりで寝ている優香を見た。優香は真一の右肩にもたれて寝ている。その後も真一は最後まで曲に聞き入っていた。



真一は心の中で叫んだ。


真一(優香ちゃんゴメン。オレ、ホンマは優香ちゃんのことずっと好きやった。けど、オレの勝手な都合で『恋愛に興味を持ったらアカン』のや。だから、こんなことくらいしか出来んのや。優香ちゃんがオレに甘えてきた時、めっちゃ心苦しかった。けどオレは幼稚園の時からずっと優しかった、そんな優香ちゃんにもっと甘えたかった。優香ちゃんも甘えてきてくれたけど、こんなことくらいしかできんかった。ホンマにゴメン。大学行ったら、アイツ(森岡)とも遠距離になるけど、幸せになって欲しい…。オレは不器用でも、何とかするしかないし、もう優香ちゃんには頼れないし、自分でやれることをやることにする。ホンマに楽しかったし嬉しかった)


真一は横で寝ている優香の手を握ろうかと

も思ったが、森岡の手前できないと思い、右肩に頭をもたれさせて寝ている優香をそのままそっとしてやっていた。それが真一のせめてものの許される範囲だった。そして真一はまた車窓を眺めた。


真一は優香が寝ていて起こすのは悪いと思い、北町まで乗ろうかと思っていると電車が南駅に到着した。すると、優香が起きた。


優香「南駅やで。降りなよ」

真一「あ、あぁ…。じゃ、お疲れ…」

白木・佐野山「お疲れ…」

真一「優香さん、少しいいか?」

優香「うん…」


電車のドア付近で真一はホームに降り、優香はドアの前に立った。


優香「どうしたん?」

真一「ん?」


真一は笑いながら優香の頭を『なでなで』した。


真一「じゃあ、お疲れ❗」

優香「うん(笑)」


真一と優香はお互い手を振った。

優香は幼稚園卒園の時に、レストランで真一がお子さまランチのハンバーグを食べながら、右肩に頭をもたれさせていた優香の頭を撫でていたことを思い出していた。優香はまた高校卒業前に真一が『なでなで』したことに嬉しさを噛み締めていた。

真一は幼なじみとして、せめてもの許容範囲内でできる精一杯の愛情表現だった。



そして翌日3月1日、ついに真一と優香たちは高校を卒業する日がやって来た。


真一はいつものように南駅から電車に乗ると優香がいた。


優香「おはよう」

真一「おはよう」

優香「卒業やな…」

真一「そうやな…」

優香「しんちゃん、なでなでして(笑)」

真一「昨日したやんか❗(笑)」

優香「まだ足らんわ(笑)」

真一「残りは拓(森岡)にしてもらいな」

優香「えー…」

真一「オレの許容範囲はここまでや。これ以上は森岡だけのもんやんか」

優香「うーん…」

真一「あのなぁ、彼氏差し置いて幼なじみがこんなことできると思うか?」

優香「できるやん」

真一「できても彼氏が優先や。今日でしまいや。最後の最後までオレをいじるんか?(笑)」

優香「じゃあ、ガムの銀紙を白い紙と銀紙とに剥離させてよ」

真一「しません」

優香「なんで?」

真一「実用性がないから」

優香「不器用やから出来んだけやん(笑)」

真一「実用性がないから❗ 何の得にもならんで(笑)」


最後の登校も賑やかだった。

高校駅に到着すると、優香は森岡と一緒に登校する。真一は白木、佐野山、藤岡と登校した。


そして、卒業式が挙行された。

2時間弱の式は滞りなく行われ、真一たちは高校を卒業した。


真一たちのクラスでは最後のホームルームが行われ、藤田先生から卒業の言葉を聞く。


藤田先生「私も教師生活30年以上していますが、毎年この日が一番印象に残ります。学校生活では色々な出来事もあります。私も教師の立場、担任の立場として、印象に残るものはずっと想い出になります。これから社会に出て、ここで学んだことや友達と過ごした高校生活をこれからも皆さんに良い想い出となるように、そして進学・就職、皆さんの若い力で社会を盛り上げていってください」


卒業証書を各自卒業アルバムと一緒に渡された。最後に同窓会委員長を決めることになった。藤田先生は最初、真一に依頼したが、真一が断った為、坂本が引き受けることになった。そして解散となった。


真一と優香たちいつもの面々は、図書館に集合し、最後の談笑をした。

談笑中、真一の母親が図書館に入って来た。


真一母「あ、皆さんお世話になりました」


みんなが真一の母親に挨拶する。


真一「もう行くんか?」

真一母「お父さん校門に車停めて待ってるで」

真一「あ、そう」

真一母「あ、優香ちゃん、よかったなぁ。大学おめでとう」

優香「おばさん、ありがとうございます」

真一母「大学でも頑張ってな」

優香「はい。ありがとうございます」

真一母「ところでお母さんは?」

優香「もうすぐ来ると思います」

真一母「そう。お母さんによろしくお伝えください」

優香「はい」

真一「元気でな」

優香「真一くんも」

真一「再来週から仕事ですわ」

優香「早いなぁ(笑)」

真一「タイムカードの関係でらしい」

優香「そうなんや…」

真一母「真一、行くで」

真一「ほな、帰りますわ」


みんなが『お疲れ❗』と言って真一と真一の母親を見送った。真一は父親が運転する車に乗って帰って行った。


真一はその後、両親と祖母の4人で外食し真一の高校卒業を祝った。


数日後、真一は電車で福町に向かっていた。福町のショッピングセンターのテナントに入っている桐谷先生の家業である本屋に行って桐谷先生に会う。


桐谷先生「堀川くん卒業おめでとう」

真一「ありがとうございます」

桐谷先生「いつから仕事行くの?」

真一「3月17日からです」

桐谷先生「早いなぁ…」

真一「タイムカードの関係らしいです」

桐谷先生「そうなんや…」


真一は欲しかった本を買って帰った。

その後、真一は高校の図書館に寄って、仕事で使っていた私物を引き取りに行った。


荷物を引き揚げ、完全に高校から卒業した。

校門を出て、下の食堂の自動販売機でミルクティを買う。











(回想)

真一「はい」

優香「ありがとう」

真一「うん」










真一は優香と一緒に帰るとき、いつも優香にミルクティをおごっていたことを思い出す。



真一「まだ一週間経ってへんのに…」



すると、後ろから声をかけられた。



白木「おーっす」

真一「なんや、あんたも来てたんか?」

白木「荷物を引き揚げに」

真一「あんたもやったんか。オレも荷物を引き揚げに…」

白木「オレら同じことしてるなぁ(笑)」

真一「ホンマに(笑)」











浅田「ホンマにこれでよかったんか?」

真一「当時はな…」

浅田「いつ聞いても切ないわ、あんたの話」

真一「実際、このあとホンマに切なかったけどね…」

浅田「それも夢で見たんか?」

真一「どう思う?」

浅田「見たんやな…」

真一「それがなぁ…」

浅田「何や、見てへん(見てない)のか?」

真一「実はなぁ…、ここからが本編なんや…」

浅田「え? どういうことや?」

真一「このコロナ禍、ホンマにけったいな夢見るなぁ…」

浅田「なんやなんや、もったいぶって…」






果たして、夢の中の真一は如何に…?

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