第24話 23年前の夢を見る真一…『23年ぶりの「どうしたらいい?」』⑦

(回想・真一の記憶)

高校の卒業式の前日、帰りの電車が高校駅に到着し、真一、優香、白木、佐野山の4人はボックス席に座った。真一のとなりに優香が座り、向かい側に白木と佐野山が座ったが、白木と佐野山は座るや否や寝た。真一は何か話そうとしていたが寝たので、話せなかった。仕方なく優香と話そうとしたら、優香も寝てしまった。優香は真一の右肩に頭をもたれさせて寝た。真一は、優香が寝たことで右腕は動かせなかった。

仕方なく真一は車窓を眺めた。携帯音楽プレーヤーで音楽を聞く。親戚のお兄さんから借りているCDを何気なく聞いていた。すると、岡村孝子の『一人息子』という曲が流れた。


何気なく真一は曲を聞いていると、歌詞を聞いてドキッとした。

タイミングが良すぎると思った。真一はとなりで寝ている優香を見た。優香は真一の右肩にもたれて寝ている。その後も真一は最後まで曲に聞き入っていた。



真一は心の中で叫んだ。



真一(優香ちゃんゴメン。オレ、ホンマは優香ちゃんのことずっと好きやった。けど、オレの勝手な都合で『恋愛に興味を持ったらアカン』のや。だから、こんなことくらいしか出来んのや。優香ちゃんがオレに甘えてきた時、めっちゃ心苦しかった。けどオレは幼稚園の時からずっと優しかった、そんな優香ちゃんにもっと甘えたかった。優香ちゃんも甘えてきてくれたけど、こんなことくらいしかできんかった。ホンマにゴメン。大学行ったら、アイツ(森岡)とも遠距離になるけど、幸せになって欲しい…。オレは不器用でも、何とかするしかないし、もう優香ちゃんには頼れないし、自分でやれることをやることにする。ホンマに楽しかったし嬉しかった)



真一は横で寝ている優香の手を握ろうかと

も思ったが、森岡の手前できないと思い、右肩に頭をもたれさせて寝ている優香をそのままそっとしてやっていた。それが真一のせめてものの許される範囲だった。そして真一はまた車窓を眺めた。


真一は優香が寝ていて起こすのは悪いと思い、北町まで乗ろうかと思っていると電車が南駅に到着した。すると、優香が起きた。



優香「南駅やで。降りなよ」

真一「あ、あぁ…。じゃ、お疲れ…」

白木・佐野山「お疲れ…」

真一「優香さん、少しいいか?」

優香「うん…」



電車のドア付近で真一はホームに降り、優香はドアの前に立った。



優香「どうしたん?」

真一「ん?」



真一は笑いながら優香の頭を『なでなで』した。



真一「じゃあ、お疲れ❗」

優香「うん(笑)」



真一と優香はお互い手を振った。













(回想・真一の記憶)

高校卒業後、炎天下の7月のある日、真一は森岡から電話で『大阪まで送れ』と高校まで呼び出されていた。



真一「なんやねん❗ 人が気分よく寝てるときに起こされて出て来いって言われたもんやから、来たら『特に無い』って、どういうことや❗ あんた『大阪まで送れ』って言うてたやないか❗」

森岡「途中駅でかまへんから」

真一「大阪まで行ったるわ。お前どうせまた新潟行かんなんやろ?」

森岡「その必要はなくなった」

真一「…は? どういうことや?」

森岡「別れたんや」

真一「なんでや?」

森岡「飽きた…やって」

真一「あんたらも知ってたんか?」

白木「みんな、いま聞いた」

寺岡「だから、あんたを呼んだんや」

真一「いや、別に呼んでもらわんでもええやんか。オレ関係ないし」

森岡「お前が一番関係するやないか。アイツ(優香)の幼なじみやし」

真一「オレは高校までや。これからはあんたの番やったやんか」

森岡「オレは別れたんや。だから、またお前の番や」

真一「別にオレやなくても、ええやんか?」

村田「あのな堀川くん、近々ゆうちゃんから堀川くんに手紙書くって言ってたよ」

真一「手紙? なんで?」

村田「いや知らんけど、とにかく手紙書くって…」

森岡「とにかくお前に手紙が新潟から来るから、アイツ(優香)のこと、あとはお前に任せた」

真一「よう意味がわからんなぁ…。とりあえず大阪まで送る。拓、車に乗れ❗」


………………………………………………


森岡「とにかく、村田さんが言うてた通りアイツ(優香)からお前宛に手紙が来るから、あとは頼んだ」

真一「ちょっと待て。なんでオレなん? あんたとの話はオレ関係ないやん」

森岡「お前はアイツの幼なじみやろ。アイツのこと、誰よりもお前が一番よう知ってるやないか」

真一「あんたもや」

森岡「オレは別れたんや。となると、お前しかおらんやろ」

真一「なんであんたは優香さんと別れたんや? 何があったんや?」

森岡「何がって、新潟行ったらアイツが『別れて』って言うたんや」

真一「抵抗せんかったんか? 理由聞かんかったんか?」

森岡「『なんでや?』って聞いた。そしたら『遠いし飽きた』って言うねん」

真一「で、あんたは『そうか、わかった』って鵜呑みにしたんか?」

森岡「いや色々話したけど、アイツが聞き入れんかったから」

真一「いつ言われたんや?」

森岡「5月のゴールデンウィーク」

真一「2ヶ月も前やんか…」

森岡「で、お前に手紙書くって言う話や」


真一は首をかしげる。


真一「………。優香さんは普通でいったら、そんなことオレには言わんぞ。何も言わんはずや。それを手紙書くって何か引っ掛かるなぁ…。ウソやろ?」

森岡「ホンマやって。村田さんも言うてたやろ?」

真一「おかしいなぁ…」

森岡「お前、そんな先のことわかるんか?」

真一「優香さんの性格からいったらの話や。あんたもその辺わかるやろ?」


………………………………………………


森岡「とにかく、あとはお前に任せた。第一オレがアイツと付き合う前、お前、アイツとめっちゃ仲良かったやないか」

真一「どこが? 普通やで」

森岡「そんなこと無い。オレが見てても、アイツとお前の仲は幼なじみ以上やったわ」

真一「そうかなぁ…。幼稚園の時からあんなんやったから、特に変わったことなかったし、別に特別どうこう無かったし。それにあんたと付き合ってたんやからなぁ、優香さんは」

森岡「アイツはお前しかおらんのや」

真一「そんなこと無い。村田さんとかいるやないか」

森岡「村田さんとかおっても違うわ。今度こそ、お前がアイツを迎えに行ってやらんとアカンやろ。幼なじみなら尚更アイツの気持ちわかるやろ?」

真一「今、あんたから『別れた』って聞いて、この2ヶ月程優香さんは1人というわけや。寂しがってるんとちゃうの?」

森岡「そう思うなら、尚更、電話とか手紙とかしてやれよ。なんなら新潟行って会ってこい」

真一「連絡先も知らんのに?」

森岡「村田さんとか知ってるやろ」

真一「どうなんやろなぁ…」

森岡「だから、アイツはお前しかおらんのやって」

真一「えらい頑なにオレに言うなぁ。やり直さへんのか?」

森岡「もうええわ、あんな奴」

真一「えらい強がってるやん」

森岡「強がってへんわ」

真一「あんたのことやから『やり直してくれ』って頼んだんやと思ってたわ」

森岡「そんなことせえへんわ」

真一「そうか…」

森岡「ええな、あとはアイツのこと、お前に頼んだぞ。お前やったら絶対大丈夫や」

真一「何が大丈夫なん?」

森岡「アイツ、お前とおったら安心してるわ」

真一「安心するか? 幼稚園の時、席がとなりやった言うだけで、高校で再会しただけやけどなぁ…」


………………………………………………


森岡「お前、なんで自分は前に出ようとせんのや? なんで自分から手あげへんのや?」

真一「なんでて、幼なじみやからやんか」

森岡「お前なぁ、アイツとお前はただの幼なじみやない。幼なじみ以上の仲や。オレが言うのもなんやが、今度はお前がアイツの相手になってやらんのか?」

真一「オレはそんなんやない。同級生や」

森岡「なんで彼女にしようとせんのや?」

真一「オレは幼なじみや。昔から何ひとつ変わらん。確かに仲も良いで。けどそれ以上も以下もない。普通や」

森岡「幼なじみ特有の問題やな…」

真一「なんやそれ?」

森岡「当の本人たちは普段通りにしているんやが、周囲の人間からしたら珍しい光景なんや。感覚の問題や」

真一「なんやようわからんけど…」

森岡「お前、一回アイツのこと、考えてやれ。アイツはお前のことを待ってるはずや」

真一「…………」















(回想・真一の記憶)

真一が森岡から優香と別れた話を聞き、新潟にいる優香と連絡をとっていた。以降、真一と優香は文通していた。


ある日、真一宛に優香から2枚のハガキが届き、2枚目の優香からのハガキにはこう書いてあった。



『この間、電話で親から小言を言われた。大学の吹奏楽のサークルで、練習が上手くできなくて先輩に少し怒られた。帰ってから1人で泣いてしまいました…』



と辛い話が書いてあった。真一は初めて優香の弱い部分を目の当たりにした。優香は素直に真一に話したのだった。文面をみる限り、森岡と別れてから1人の優香なので、不安なのだろう…と思った真一だった。



真一「電話したらなアカンかな…?」



風呂から上がり夕食を食べた真一は、少し遅めに新潟の優香に電話してみた。



優香「(元気ない声で)もしもし…」

真一「あ、南町ですが…」

優香「あ、しんちゃん。どうしたん?」

真一「泣いてた?」

優香「……………」

真一「ハガキ2枚届いて見たで」

優香「…うん」

真一「1枚目と2枚目の内容が極端すぎて…」

優香「うん。1枚目で終わるつもりやって、出そうとしたときに2枚目の内容が…」

真一「そうやったんや…」


………………………………………………


真一「それより、大丈夫か?」

優香「…うん。しんちゃんが電話してくれたから嬉しい」

真一「そうかぁ…。よう言うてくれたなぁ…」

優香「うん…」

真一「実はオレも今、仕事が気分的にしんどいんや」

優香「そうなん?」

真一「お互いに、しんどい気分なんやなぁ…」

優香「そうやなぁ…」

真一「ちゃんと寝れてるか?」

優香「寝てるよ」

真一「こういう事って、村田さんとかに電話とかで話してないの?」

優香「してないよ。しんちゃんだけやで」

真一「そうなんや…。いや『ガス抜き』が必要かな…って思ったんや。だから電話させてもらったんや。迷惑やったかな…」

優香「ううん、いいで」

真一「いま優香ちゃん1人やで、近くに誰かおったらええんやけど…」

優香「しんちゃん来てよ」

真一「え、オレ?」

優香「うん」

真一「相変わらず南町在住やでなぁ…(笑)」

優香「新潟においでよ。案内するわ」

真一「そうやなぁ、新潟行ったことないからなぁ…」

優香「それは尚更こっちに来ないとアカンなぁ(笑)」

真一「いつ行ったらいいの?」

優香「いつが良い?」

真一「今週末は展示会があって、来週は大丈夫かな…」

優香「来週は私がサークルの演奏会やから…」

真一「そうかぁ…」



優香は大学で吹奏楽のサークルに入っている。



優香「でも、もうすぐお盆やから、私、北町の実家に帰るよ」

真一「うん…。優香ちゃん、それまで大丈夫なんか?」

優香「大丈夫…やと思う」

真一「ホンマか?」

優香「しんちゃんがいてくれたら…」

真一「相変わらず南町やでなぁ…生粋の北町南町の人間ですから(笑)」

優香「新潟に来てよ」

真一「おう。マンションの近くにビジネスホテルかなんかあるの?」

優香「ウチに泊まったらええやん」

真一「いや、さすがにお年頃の女子が一人で暮らしてるマンションに男が…って」

優香「ええやん、しんちゃんは大丈夫や」

真一「なんでや? じゃあ、白木とか(が来て)もええの?」

優香「アカン」

真一「ほな(そしたら)、オレかてアカンやん」

優香「しんちゃんはいいの❗」

真一「じゃ、オレはとりあえずこたつで寝たらいいんやろ?」

優香「アカン、ベッドや」

真一「ベッド? 優香ちゃんはどこで寝るの?」

優香「私? ベッド」

真一「………。いや優香ちゃんはベッドで寝るやんか。オレはどこで寝るの?」

優香「しんちゃん? ベッド」

真一「襲われたらどうするんや?」

優香「襲ったらええやん(笑)」

真一「おいおい…、何言うてんの? お年頃の女子が『襲ったらええやん』って…。アカンアカン❗」

優香「そんなん、せっかく南町から来てくれるんやから、こたつでは寝させへんよ」

真一「でもそういうわけにいかんやろ?」

優香「いいの❗ しんちゃんは私と寝るの❗

しんちゃんは私と一夜を共にするの(笑) 」



真一は唖然となっていた。



真一「…なぁ、どうしたん? やけくそになってるんか? 寂しいんか?」

優香「…寂しいよ。しんちゃんの声しか聞こえへんから…」

真一「そうか…」


………………………………………………


優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「声聞けてよかったけど、会いたい…」

真一「寂しいんやな…」

優香「…寂しいよ。しんちゃん寂しい…」

真一「そうか…」

優香「しんちゃんは寂しくないの?」

真一「そうやなぁ…。うまくは言えんけど、幼稚園と高校の時、オレの横には優香ちゃんがおったのは、普段と変わらん、当たり前なんやと錯覚してたんかなぁ…。就職してから、何かポッカリ穴が開いたような感じ…」

優香「私がいないと寂しい?」

真一「…どうなんやろ…。大学行ってるんやから仕方ないと思ってるけど…」

優香「寂しくないんか?」

真一「『どっち?』って聞かれたら寂しいかな…」

優香「素直やないなぁ…(笑)」

真一「ウソはついてないけど…」

優香「ちゃんとハッキリ言ってよ」

真一「言うたやん…(笑)」

優香「あ、またはぐらかしてる(笑)」

真一「はぐらかしてへんわ。なんやねん(笑)」

優香「顔赤くなってるくせに(笑)」

真一「なってへんわ」

優香「ウソや。なんぼ『電話や』って言うても、私はしんちゃんが今どういう状況かわかるで(笑) 『わぁオレ、優香ちゃんに鋭く突っ込まれてるー』ってなってるやろ?(笑)」

真一「悪いか?」

優香「素直にならなきゃダメよ(笑)」

真一「ホンマにお盆まで待てるんか?」

優香「待てへんかも…。でも我慢する。お盆になったら会おうよ。楽しみにしてるから」

真一「わかった。待ってるわ。また盆になったら、連絡して。オレも何かあったら連絡するわ」

優香「うん」

真一「あと、盆までに何かあったら携帯に連絡しておいで。今日みたいに愚痴は聞くでな」

優香「うん、ありがとうしんちゃん」

真一「うん」

優香「なぁ、しんちゃん」

真一「なんや?」

優香「私、どうしたらいい?」

真一「どうしたら…って?」

優香「私、森岡くんと別れたやんか」

真一「うん」

優香「私、これからどうしたらいい?」

真一「どうしたら……って…。どうしたらいいんやろなぁ…(笑)」

優香「どうしたらいい?」

真一「いや、今まで優香ちゃんに相談されたことないから、初めてで…。どうしたらいいんやろなぁ…ホンマに」

優香「………」



真一「アイツ(森岡)とはやり直さんのか?」

優香「やり直さへん。それはないわ」

真一「そうかぁ…。優香ちゃん、好きな人いるの?」

優香「いるよ」

真一「そうなんや…。どこにおってん(いるの)か知らんけど…」

優香「北町南町」

真一「え? 誰なん?」

優香「…近所のお兄ちゃん」

真一「アイツ(森岡)とアカンよなった(別れた)時、『遠いから』って別れたんやないんか?」

優香「別れたよ。けど、北町南町は近いで」

真一「いやぁ、大阪も北町南町も距離変わらんで(笑)」

優香「でも、好きな人いるよ」

真一「そうかぁ…。なぁ、盆に帰ってくるんなら、今度会った時に2人で腹を割って話さへんか? 幼なじみとして」

優香「わかった。腹を割って話そ、幼なじみとして」














真一がまた心の中で考えていた。



真一(森岡と別れた理由は、森岡曰く『遠い、飽きた』やった。けど、今から考えたら本当は…)










(回想)

優香「どうしたらいい?」









真一は、その後もずっと幼稚園の園舎を眺めながら、23年前の優香のことで考えていた。



真一(まさか、この歳であの時の『リベンジ』をさせられるとは…。いろんな意味で難儀なコロナ禍やなぁ…)

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