第8話 24年前の夢を見る真一…『出雲出張』
(回想・夢の中)
ある夜の事。真一は自分の部屋で優香のことで白木・坂本たちから言われた話を思い返していた。
『加島の気持ちを考えてやれよ』
その言葉が引っ掛かっていた。真一は頭を抱えていた。
真一(この当時は叔父さんと同じ轍を踏むことになってしまうと…。叔父さんは『オレみたいな男になったらアカン』と言って亡くなった。結婚したけど、何もかもとられてしまって、あの嫁、えげつない女やった。あんなん見たら付き合うのも結婚するのも嫌になるわ…。優香ちゃんはこの時、オレの事どう思ってたんやろ? もし白木たちが言うように、オレのことを気にしてるのなら、優香ちゃんの為に一度だけ考えてもいいのか? はたまたただの勘違いで、白木たちに担がれただけになるのか? …確か、白木に電話させてわざとフッてもらったんやったなぁ…)
真一は当時かなり考え込んでいた。
そして真一は電話をかける。
2階で電話をかける。電話は白木にかけた。
真一「もしもし」
白木「どうしたん?」
真一「今日の話や」
白木「加島の事か?」
真一「あぁ」
白木「どうすんの?」
真一「一度だけ考えるわ」
白木「そうか」
真一「聞いてくれんか? 『付き合って欲しい』と」
白木「お前、それはお前から直接言えよ」
真一「なんでや?」
白木「そらそうやろ? 本人同士の話やろ」
真一「アホか。オレは元々興味ないねん。にもかかわらずオレに色々言うてきたのは誰や? お前らやろ? それなら、お前から言ってくれ。オレを担いだのはお前らや。それで返事しだいで話はどっちが正しかったかわかるやろ? あくまでもオレは(恋愛に)興味はない」
白木「……わかったけど、どうなっても知らんぞ」
真一「オレは興味ないねん。どうなろうがオレには知ったことやない」
白木「わかった」
真一は電話を切り、白木からの返事を待った。期待はしていない。なぜなら、あえて白木に告白を伝える形にしたからだ。結果は目に見えていた。本当は普通に恋愛したかった。でも真一の心の中は傷だらけだった。『自分が我慢すればうまく回るようになる』、そう考えたのだ。自分の気持ちは押し殺したのだった。
しばらくして、白木から電話がかかってきた。
真一「もしもし」
白木「すまん、遅くなった」
真一「うん」
白木「『興味ない』って」
真一「見てみぃ、オレの言うた通りやろが❗ 担ぐだけ担いで、怒らせてるやないか❗ 二度と入れ知恵してくるな❗」
白木「いや入れ知恵なんてしてないで。2人がええ雰囲気やったから…」
真一「だから言うたやろ、普通やって。オレの言うたことが正しかったんや。二度とそんな話はオレにしてくるな❗」
真一は啖呵を切って電話を切った。
真一(この当時は『これでよかったんや』って思ったんやなぁ…)
真一は自分に言い聞かせた。
翌朝、真一は気まずかった。南駅から電車に乗る。いつものように先頭車両に乗る。すると優香の姿は無かった。
真一(やっぱり、この時はこれでよかったんかなぁ…)
真一は当時、何度も何度も自分に言い聞かせた。今後はもう前みたいに一緒に登下校することもなくなると覚悟していた。
電車は高校駅に着いた。白木が真一を待っていた。
白木「昨日は悪かった」
真一「もういい」
白木「なぁ、ホンマにこれで良かったんか?」
真一「しつこいぞ❗ オレの人生をめちゃくちゃにしたいんか❗」
白木「決してそんなことはない」
真一「それなら、もうほっといてくれ❗」
白木「………」
翌日以降、真一は一人で登校した。
学校に着いても図書館に寄ることはなく、教室へ直行した。周りの友達が声をかけるが、『オレの事はもうほっといてくれ』と突き放す真一だった。
ある朝、真一は坂本と登校した。
坂本「今日、図書館へ久しぶりに顔出さへんか?」
真一「あんただけ行っておいで」
坂本「会いたくないんか?」
真一「向こう(優香)が会いたくないやろ」
坂本「わからんやん。本当は会いたいかもしれんやん」
真一は渋々坂本に連れられ、図書館に向かった。
すると、真一の目に森岡と優香が手をつないでいるところを見てしまった。
真一「オレ、用事思い出したから先に行く」
真一は図書館を出ていった。真一の動揺は隠せなかった。一人教室へ向かった真一は、教室でクラスメイトの声を聞く。
「アイツ、5組の加島と付き合ってたんやないんか?」
「昨日とか今朝、加島って女、2組の森岡と一緒におったで。なんか付き合い始めたらしいで」
「一体どういうことなんや?」
クラスメイトにも話は既に伝わっていたようだった。そう、優香は結局森岡と付き合うことになった。
真一はこの場から逃げたかったが、全ては身から出た錆、苦しい気持ちになりながら耐えようとしていた。
佐野山、藤岡、坂本、高山、寺岡も教室に入ってきたが、真一に声をかけることができなかった。
朝も昼休みも放課後も図書館へは一切行かなかった真一だった。しかし図書館に席がある岩田先生に実習のレポートを提出しなければならず、放課後前に図書館に行くが岩田先生がいなかった。
仕方なく、放課後図書館に行くと、優香たちがやって来た。真一は図書館の事務所で富永先生の手伝いをしながら岩田先生を待った。
優香は図書館の席から事務所にいる真一の後ろ姿を見ていた。真一はこちらを向こうとしない。
森岡が優香たちと話し始めた。森岡も真一の後ろ姿を見ていた。
岩田先生が事務所にやって来た。
真一「お待ちしてました」
岩田先生「おう、何や?」
真一「レポートです。遅くなりました」
岩田先生「よし、OK」
真一はレポートを提出すると、富永先生の手伝いを佐野山に任せ、そそくさと図書館を後にした。
その様子を、優香たちはじっと見ていた。
一方、真一は図書館を出た後、化学実験室へ行き、高山の手伝いを始めた。
青銅鏡づくりの研究に没頭して、優香のことを毎日言い聞かせるように忘れようとしていた。
5:55の電車で帰ろうとすると、誰かと帰ることになるので、今日も一人で帰ろうと、わざと6:30の電車で帰ろうとしていた。
6時になってから学校を出た真一。一人で高校駅へ向かう。途中ミルクティを買って、駅へ向かう。
駅に着き、待合所で腕組みして寝ながら電車を待っていると、となりに誰かが座って来た。
見ると、となりには優香がいた。
真一は声もかけずにまた腕組みしながら寝ようとした。
優香「ふて寝してんの?」
真一「眠たい。おやすみ」
優香「……。話があるんよ」
真一「オレは無いから。おやすみ」
優香「私が話あるの。聞いてくれへんの?」
真一「聞くことないわ。オレ、もう関係ないし」
優香「しんちゃん、どうしたの?」
真一「オレの事はもうほっといてくれたらええから、はよアイツ(森岡)の所へ行ってこい」
優香「もう今、送ってくれたんや」
真一「あ、そう」
優香「しんちゃん、お願いやから話聞いて」
真一「何? 彼氏ができました。器用な男とってか? 自慢か? もういいで」
優香「違う」
真一「なんやねん?」
優香「しんちゃんが傷ついてるのはわかってる。後で聞いたんよ」
真一「同情なんていらんわ」
優香「違う。くーちゃんから聞いたんや」
真一「……」
優香「白木くんから言われてあんなこと…」
真一「もう忘れたわ。そんなに面白かったか? なんぼでも笑い者にしてくれたら良いわ」
優香「しんちゃん…違う」
真一「もう、オレの事はほっといてくれ❗」
と、真一は優香との話を遮ってホームへ向かい、帰る方向と逆向きの電車に乗り、街へ向かった。
優香は真一の態度に愕然としていた。
優香(相当傷ついてる…)
翌日、真一は尿路結石の検診で学校を休んだ。
真一は当時、優香と『幼なじみ』の関係は崩壊したと思っている。優香は真一と話したいが、ぶっきらぼうな言い方で突っぱねられるので、お互い傷ついていた。
もはや『幼なじみ』はこれで終わるのか?
優香は真一と『幼なじみ』の関係をまだ諦めてはいない。
周囲の友達も2人を見守るしかなかった。
浅田「そんなことになってたんか?」
真一「あぁ…」
浅田「なんか、ボタンのかけ違いというか、片方が近づいたらもう片方が離れていく感じやな…。あの時、オレがもっとあんたに話しておいたら良かったなぁ…」
真一「何をやな?」
浅田「あんたは一人っ子や。そやから、将来のことも考えたら、どんなことしてでもあの人(優香)と付き合ったらよかった…と思ってたんや。高校時代のあんたを見てたら、そらぁ『幸せになってほしい』って純粋に思ったわ。悪友(親友)のあんたやからやで。他の連れはどうでもいいけど…」
真一「それで、このあとの夢では何か『ドラマ』みたいな夢を見たんや」
浅田「ドラマみたいな夢?」
それは、真一が夢の中で出雲へ優香のクラスの女子生徒・山下香織と廊下でぶつかったことから始まり、人探しの旅に出たことだった。
浅田「あんた、夢の中でも『人助け』してたんか?(笑)」
真一「けったいな夢やったわ」
浅田「それで、あんたとあの人(優香)は、このあとどうなったんや? オレ、高校辞めた頃やったからなぁ…」
(回想・夢の中)
真一と優香の歯車が噛み合わなくなってから、春休みを挟んで1ヶ月半が経とうとしていた。真一も優香も平行線を保ったままだった。
ある日の放課後、優香の彼氏になった森岡 拓が坂本を介して真一を呼び出し、真一が気まずそうに図書館にやって来た。
森岡「おう、待ってたぞ」
真一「何か用か?」
森岡「ちょっと2人で話したい」
真一「……」
森岡と真一は化学実験室へ。
森岡「アイツ(優香)のことなんやが…」
真一「………」
森岡「オレが言うのもなんやが、アイツ、お前と仲が気まずくなってからへこんでるんや」
真一「それで?」
森岡「何かアイツ、お前に話したい事があるみたいや。話聞いてやってくれんか?」
真一「この間、高校駅で聞いた。あんたと付き合ってることを自慢したかったみたいや。だから話は聞いたで」
森岡「それは違う。そんな事を話したいんやない。お前、幼なじみやろ? 幼なじみ同士で話がしたいみたいや」
真一「もう、オレが話すことは何もない。これからはあんたが話聞いてやんな。話ってそれだけか?」
森岡「待て。まだ終わっとらんぞ」
真一「………」
森岡「これは彼氏としてお願いしている。オレの立場で言うのもなんやが、アイツがお前と仲直りせんと、どないもならんのやと思う。そやからもう一回、アイツと話してやってくれんか? 頼む、この通りや」
と森岡は真一に頭を下げた。
真一は黙ったまま、返事しなかった。そして真一は化学実験室から出ていった。
森岡「おい…」
図書館に戻った森岡は、ブツブツ愚痴をこぼしていた。
真一はその後、工業系職員室で中田先生へ実習のレポートを提出していた。
中田先生「堀川くんはワシと一緒で南町やなぁ?」
真一「そうです」
中田先生「ワシなぁ、この間日曜日にスーパーで堀川くん見たんや」
その時、優香が工業系職員室に入ってきて、担任の鈴木先生から呼び出しされていた。
真一「ホンマですか? 声かけてくれたらよろしいやん」
中田先生「えらい熱心に食材を丁寧に見とったから『何を真剣に見てるんやろ?』って思ったんや」
真一「あぁ、肉のコーナーとちゃいますか?」
中田先生「そうや」
真一「ちょっとエエ肉無いか探してたんですが、あそこのはちょっと程遠かったんで、北町のスーパー工房へ行ったんです」
中田先生「そんな旨い肉あるんか?」
真一「ミスジが旨いんですよ」
中田先生「よう知ってるなぁ」
真一「たまに肉マニアになりそうな自分がおって怖いくらいです(笑)」
中田先生「また旨いもん教えてくれ」
真一「酒のアテ探してるんでしょ?(笑)」
中田先生「バレたか(笑)」
真一「そんなもんでも食って呑まんとやってられませんもんね(笑)」
中田先生「お見通しやなぁ(笑)」
真一は職員室を出ていこうとすると、優香も鈴木先生の話が終わり出ようとしていた。
真一・優香「失礼します」
真一はそそくさと職員室を後にする。優香も真一についていく。
優香「しんちゃん」
真一「………」
優香「しんちゃん、ちょっと待って」
歩くのをやめない真一に優香が走って追い付く。
優香「しんちゃん、ちょっと待って。なんで私の事ずっと避けるの?」
真一「………」
優香「……この間はゴメン。誤解招くようなことしたなぁ私。謝る、ホンマにゴメン」
真一「………」
優香「しんちゃん、さっき森岡くんに何を言われたの?」
真一「何もない」
優香「私の事でしょ?」
真一「………」
優香「黙ってても顔にかいてある」
真一「………」
優香「あのな、しんちゃん、私、皆から話聞いたんや」
真一「………」
優香「しんちゃんが辛い目に遭ってるって。それ、私のせいなんや」
真一「………」
優香「私がしんちゃんを苦しめたんや…」
真一「………」
優香「私がしんちゃんを裏切ったんや…」
真一「………」
優香「白木くんから話聞いた。白木くんも大分反省してたよ。坂本くんと一緒に(保健室の)大川先生から雷落とされたらしいよ」
真一「………」
優香「みんな、しんちゃんを苦しめたんや。みんな、しんちゃんに謝りたいのよ」
真一「………」
優香「私が気づいてあげんとアカンのに、私もしんちゃんを苦しめた。森岡くんと付き合うことになって…」
真一「………」
優香「しんちゃん、許してもらえんよね…」
真一「………」
優香「………」
真一と優香は沈黙する。
優香「私って、ホンマにアカンなぁ。調子にのったらしんちゃんめっちゃ傷つけて…。幼稚園の時じゃ考えられんかったことやもんなぁ」
真一「………」
優香「いいのよ、許してもらおうなんて思ってへんから。許さへんのならそれで良いよ。私らが悪いんやから…」
優香は泣くのを必死でこらえていた。
真一は一切話さない。真一はこの場から去ろうとしていた。
すると、森岡がやって来た。
森岡「堀川、お前、何とか言うたらどうなんや?」
真一「………」
森岡「お前知らんのか? 加島はなぁ、オレに頼んできたんや。『もしお前に器用なことせんとアカン時になった時、オレの事をほっといてでもお前の所へ行かなアカン。だから、そのときは了解して欲しい』と。オレが『嫌と言うても、お前の所へ行く』って…。お前、こんな幼なじみはおらんぞ❗」
真一「…………」
森岡「堀川、お前何とか言うたらどうなんや❗」
真一「…めんどくさい幼なじみやなぁ…。そんな事エエから、あんたが必死で行かんように食い止めんか❗」
森岡「食い止めれんわ。だってお前ら幼なじみなんやろ? オレはお前の存在があることはわかってる。だから許したんや。ホンマにめんどくさい幼なじみやのう」
真一「ホンマにめんどくさい彼氏やのう」
森岡「誰がめんどくさいんや?(笑)」
真一「あんたや」
森岡「なぁ、これでええんか?」
優香「2人とも…」
優香は喜んだ。
森岡「許してやってくれ」
真一「ただし条件がある」
優香「何?」
真一「オレには二度と『興味ない』もんには誘うんやない」
優香「みんなに言うとくわ」
真一「………」
森岡「ホンマに世話焼かせやがって」
真一「はぁ? どっちが世話焼いてると思ってんねん」
森岡「『持つべきものは友』というが、お前らは『持つべき友は幼なじみ』やのう」
真一「お前が言うか? その立場で?」
森岡「言わせるな❗」
優香は笑っていた。
その後、真一は白木をはじめ、みんなから謝罪があった。
優香「みんな、あのね、真一くんが『興味ないもの』には一切誘ったらダメやからね。それが私らを許してくれる条件やから…」
白木「…わかった」
坂本「わかった」
寺岡「ホンマに女っ気ないなぁ、おっちゃん。これでいいんやろか…」
村田「ゴメンな、堀川くん」
佐野山「しゃあないやっちゃなぁ…」
白木「佐野山、お前もや(笑)」
加藤「堀川くん、ホンマにこれでいいの?」
真一「オレは加藤さんと違うから…」
滝川「ホンマにそれでいいの?」
真一「あぁ。オレはこの世に生まれたときから一人や。兄弟もおらん一人っ子やから、一人は慣れてる。回り回って結局一人になるのは目に見えてわかってるから、それならはじめから一人でいいと思ってるから」
優香は真一の言葉に寂しい思いがした。
優香(やっぱりこのままではアカン。しんちゃん、一人は無理や)
真一(この当時は、これでええんや…って思ってたんやったなぁ…)
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