第7話 25年前の夢を見る真一…『バレンタインデー・ホワイトデー』
(回想・夢の中)
2月のある放課後、図書館で皆が集まった。
寺岡「もうすぐバレンタインデーやな」
この一言がきっかけで、この年のバレンタインとホワイトデーは事前申し合わせという事で、手作りで何か作ってくることに全員意義なしだった。というわけで、お菓子屋の陰謀を逆手にとり、それぞれ皆が手作りでお菓子またはチョコを用意することになった。
その日の帰り。真一は皆と帰ろうかと思ったが、それぞれ予定あり?とのことで、先に帰ってしまっていた。すると…
優香「こんにちは」
真一「あ、手先が器用の優香ちゃん」
優香「これはこれは、手先が不器用の真一くん(笑)」
真一「いらんこと言わんでええねん❗」
優香「私は器用やけど、しんちゃん不器用やでなぁ(笑)」
真一「今に始まったことやない」
優香「そうやな。幼稚園からずっとやもんなぁ。私がおらんかったら地獄やったやろ(笑)
小学校、中学校の時ってヤバかったんちゃうん? 」
真一「終わってたわ」
優香「だろうね…(笑)」
真一「ところで、みんなの流れであんな話になったけど、よかったんやろか?」
優香「私は大丈夫やで。逆に楽しいと思うよ」
真一「そうかぁ」
優香「しんちゃんはなに作るん?」
真一「いや、なに作ったらええか分からんのや…。ホットケーキくらいしか知らんから」
優香「ホットケーキできるんやったら、蒸しパンとかドーナツも出来るで」
真一「そうなん?」
優香「うん。ホットケーキミックスの取説の所に書いてあるわ」
真一「帰って見てみるわ」
優香「うん」
自動販売機でホットのミルクティを2本買って1本を優香に渡す。
真一「はい」
優香「ありがとう」
真一「おう」
優香「しんちゃんはどんなお菓子が好きなん?」
真一「オレ?」
優香「うん」
真一「うーん、特にこだわりはないけど、ケーキでもクッキーでも何でも食べる。ケーキもエエけど、クッキーがええかな…? 甘すぎるのはちょっと…」
優香「そうなんや」
真一「うん」
優香「シンプルなのが良いんやなぁ?」
真一「そうやなぁ」
優香のお菓子作りに気合いが入ったようだった。
そして、なんやかんやで2月14日。バレンタインデー当日を迎えた。
放課後、真一は保健室の大川先生と大職員室の木田先生、図書館の富永先生から呼び出しがかかり、バレンタインデーのチョコをもらった。
図書館では予定通り、優香たち4人から真一たちへそれぞれ事前申し合わせした手作りのお菓子をバレンタインデーでもらった。真一ら男子は優香たち4人に『ありがとう』とお礼を言って、持ち帰る。
真一は図書館の富永先生の手伝いを終えてから下校する。優香も真一を待っていた。
高校駅から電車に乗った真一と優香は、真一がもらったバレンタインデーのプレゼントを一緒に見ることにした。先生方からもらったのはチョコレートだった。
真一「次は誰の見る? 優香ちゃんの?」
優香「いいよ」
真一「あ、クッキーやん。いつやったか前に食べたヤツか?」
優香「そう」
真一「これは楽しみやなぁ(笑)」
優香「喜んでくれて何よりや(笑)」
真一「次は誰の見る?」
優香「ちーちゃんかな」
真一「見よか」
優香「うん」
真一「チョコレートケーキやなぁ」
優香「美味しそう」
真一「食べるか?」
優香「食べたいなぁ。いいの? もらった人」
真一「ええで。そうか、あと2人の見てからにするか?」
優香「そうしよか。じゃあ今度はひっちゃんの」
真一「加藤さんは…これガトーショコラか?」
優香「手の込んだことしてるなぁ。これは(彼氏の)福田くんにもあげてるからかなぁ」
真一「かもしれんなぁ…。で、村田さんのやな」
優香「チョコパイや」
真一「既製品しか見たことないけど、作れるんや」
優香「作れるで。なんなん、3人とも手の込んだことばっかりしてるやん。私、めっちゃシンプルすぎるやんか…」
真一「何言うてんの。4人とも手の込んだことしてるで。クッキーでもシンプルに見えるけど奥は深いんやで」
優香「クッキーのどこが奥深いん?」
真一「手作りって甘さとか生地の固さとか全て味付けや粉の量とかによるもんやろ? 微妙な調整で味も変わるわけやんか。オレは優香ちゃんのクッキーは前にもらってからハマったもんな(笑) 村田さんらは考えてきてるんやと思うけど、食べたらすぐ無くなるで。優香ちゃんのクッキーは食べてもすぐには無くならんなぁ(笑)」
優香「しんちゃん、クッキーでかまへんの?」
真一「多分なぁ、このクッキー家に持って帰ったら親父が全部食いそうや」
優香「マジかー」
真一「3人のお菓子食べよ」
優香「うん。気合い入りすぎやし…」
真一「ええがな、優香ちゃんも気合い入ってるって。見たらわかる」
優香「ありがと」
優香は、村田・加藤・滝川のお菓子を1個ずつ試食した。
優香「3人ともおいしいなぁ」
真一「滝川さんのは甘さ控えめ、加藤さんのはちょっと甘め、村田さんのは滝川さんと加藤さんの間くらいの甘さってとこやな。どれもおいしい」
優香「なぁ、ホンマにクッキーで良かったんやろか?」
真一「オレはもらえるものは何でも嬉しいで。加藤さんの場合は福田がおるから甘めなんやろなぁ。村田さんも彼氏おったんやなかったかいなぁ?」
優香「いないよ。ちーちゃんはこの間、坂本くんに告白されてフッたみたいやし(笑)」
真一「え❗ 坂本、滝川さんに? いつの間に?(笑)」
優香「私もちーちゃんから聞いてびっくりやった(笑)」
真一「4連敗か…」
そんな会話も南駅に電車が到着するまで盛り上がった真一と優香だった。
翌朝、いつものように真一は南駅から電車に乗る。
優香「おはよう」
真一「おはよう」
優香「はぁ…」
真一「どないしたん? 昨日の3人の(ケーキのこと)か?」
優香「うん…」
真一「あのなぁ、昨日帰ってから晩飯と風呂入ってから、お菓子食べようと思ったらなぁ、やっぱり親父が優香ちゃんのクッキー全部食べよって、オレ当たらんかったんや…」
優香「ウソ?」
真一「予想的中や」
優香「クッキー当たらんと予想当ててどうすんの?(笑)」
真一「3人のお菓子はまだ残ってるんや」
優香「マジか」
真一「クッキーのおかわり無いの?」
優香「今はないなぁ(笑)」
真一「ゴメン」
優香「ううん、嬉しい。おっちゃん全部食べちゃったんや」
真一「風呂からあがって、クッキー食おうとしたら『このクッキーうまいなぁ』って全部食べよってん。挙げ句の果てに『もうないんか?』って。『ええ加減にせえよ』って言うといた」
優香「どんな勢いで食べちゃったんやろ?(笑)」
真一「異常やったわ」
優香は真一の話を聞いて、少し明るくなった。
高校駅に電車到着し、真一と優香が下車。高校まで登校する。
優香・真一「おはよう」
村田・加藤・滝川「おはよう」
村田「いつも2人でホンマ仲ええなぁ(笑)」
真一「そうかぁ? 普段と変わらんけど」
優香「仲は良いよ」
真一「うん」
村田「手つないで登校したら、幼稚園の時のそのままなんとちゃうん?(笑)」
優香「ちょっと、くーちゃん」
真一「オレらは幼稚園へはバスで通ってたからね」
加藤「徒歩じゃないんや」
真一「あ、それよりみんな、昨日はごちそうさまでした。おいしかったで。四者四様やった」
滝川「よかった」
真一「みんな上手に作ってやなぁ」
村田「そんなことないよ。なかなかやで」
真一「加藤さんは、福田が喜んでたんとちゃうの?」
加藤「フク、めっちゃ喜んでた(笑)」
真一「加藤さんのはちょっと甘めやったから、甘さ加減が福田ベースになってるんやと思った(笑)」
加藤「そこまで推理するん? まぁ、そうなんやけど(笑)」
優香「ひっちゃん、ただのオノロケやん(笑)」
真一「滝川さんのは、ちょっと大人っぽいお菓子やったなぁ」
滝川「そんなことないって」
真一「良くできてたよ」
滝川「ありがとう」
真一「村田さんのは、個人的にチョコパイって既製品でしか食べたことないから、手作りのチョコパイは初めてやった」
村田「そうなん?」
真一「うん。既製品のは結構甘いんやけど、昨日もらったチョコパイはちょうどよい甘さやったから、おいしかったで」
村田「よかった。あ、ゆうちゃんのはどうやったん?」
真一「それがなぁ、家帰って晩飯のあと風呂からあがってきたら、親父が優香さんのクッキーをバクバク食って、オレ食えんかったんや…」
村田「えー❗」
真一「でもなぁ、前に優香さんに食べさせてもらったことあるから、味は知ってるし。親父は味にうるさいおっさんやで、バクバク食ってたということは、止まらんかったということやし、うまかったということや」
優香「……」
真一「ゴメンな、親父がみな食ってしもうて…」
優香「しゃあないなぁ、また作ってきてあげるわ」
真一「やったね❗(笑)」
高校に着いてから、真一以外の男子も4人にお礼を言っていた。
昼休み、優香は工業系実習棟の廊下で真一とすれ違う。
優香「しんちゃん」
真一「優香ちゃん」
優香「しんちゃん、今日一緒に帰ろ」
真一「あぁ、かまへんで。どうしたん?」
優香「ちょっとね、用事があるんや」
真一「うん、わかった。先生の仕事があるから、遅くなるけどかまへんの?」
優香「どうせいつもの5時55分(の電車)でしょ?」
真一「そうやろなぁ」
優香「いいよ。待ってるわ」
真一「わかった」
そう言って、2人は別れる。
放課後の5時半前、真一が図書館に戻ってきた。
真一「優香ちゃん、お待たせしました」
優香「いえいえ」
真一「帰るか?」
優香「帰ろ」
真一と優香は下校する。
いつものように、自動販売機かと思ったら、下の食堂のおばちゃんの店が開いていたので、ドーナツとミルクティを買って、1個ずつ優香に渡す。
真一「はい」
優香「ありがとう」
真一「おう」
優香「ドーナツあったんや」
真一「うん。ところで、話って何?」
優香「電車に乗ったら話すわ」
真一「わかった」
優香「(バレンタインデーのお菓子)みんな、喜んでくれたみたいやった」
真一「そうか、よかったなぁ」
優香「うん」
真一「というか、アイツら味知ってるんやろか?」
優香「どういうこと?」
真一「味知ってないヤツばっかりやで(笑)」
優香「そうなん?」
真一「坂本・寺岡あたりなんて、食べられたらいいって言う感じやんか(笑)」
優香「なんとなくわかる(笑)」
真一と優香は高校駅から電車に乗る。
2人はドア付近の2人掛けの座席に着く。
優香「しんちゃん、あのな」
真一「何?」
優香「はい」
真一「うん?」
優香「どうぞ」
真一「なんや?」
優香「昨日、食べ損なったでしょ」
真一「え?」
優香は昨日食べ損なった真一のために『おかわり』のクッキーを作ってきていたのだ。
優香「実は、昨日『おっちゃんが全部食べてしまうかもしれん』って、しんちゃんが言ってたでしょ」
真一「うん」
優香「それでウチでどうしようかなぁ…と思ってたら、お姉ちゃんが食べたい言うて昨日確保してたんやけど、お姉ちゃんが、全部食べてしまって『おかわりは?』って言うので、最初は『ない』って断ったんやけど、しんちゃん(弟の新次)も『食べたい』って言い出すし、しんちゃんは『全部食べられてしまいそう』って言うてたから、作ったんや。でもウチの新次は私とケンカしたから、新次の分はなし(笑) だから、新次の分は『しんちゃん』だけに、しんちゃんと私が食べることにした(笑)」
真一「かわいそう、しんちゃん(笑)」
優香「はい、さっきのは2人で食べる用。こっちはしんちゃん専用やから、家でおっちゃんに取られんように食べて(笑)」
真一「なんか、悪かったなぁ。気ぃ使わせて、大変な思いさせてしまって…」
優香「いいよ。私もしんちゃんと食べたかったし」
真一「優しいなぁ、優香ちゃんは。昔からやなぁ…」
優香「いいよ、私が勝手にしてるだけやし」
真一「いやいや、オレのためにも作ってきてくれたんやから、感謝して味わないと…」
優香「ちなみにお姉ちゃんも少しだけやし。昨日もめっちゃ食べてたから、ほとんどしんちゃんと私の分やで(笑)」
真一「無茶するなぁ(笑)」
優香「食べよ」
真一「うん」
真一と優香はクッキーを食べる。
真一「これこれ❗ うまい❗」
優香「よかった(笑)」
真一「この前よばれた時にハマったもんなぁ」
優香「いっぱいあるで、食べてよ」
真一「うん。でもオレ、すでに別で優香ちゃんからもらってるからなぁ。優香ちゃんも食べなよ。あ、晩飯前か」
優香「大丈夫」
真一「お姉ちゃんとしんちゃんにもあげたら? 『オレから』ってことで(笑)」
優香「えー…。お姉ちゃん、いっぱい食べてるで。新次にも?…」
真一「お姉ちゃんとかしんちゃんの立場で考えたらな、このクッキー、食べれんかったら『食い物の恨みは凄い』でなぁ…。ここはオレから…ということではアカンかな? その代わり、優香ちゃんも自分の分を確保しときな」
優香「もう…しゃあないなぁ。しんちゃんに言われたら言い返せれんなぁ…」
真一「オレの名前出したら、優香ちゃんも言いやすいんやないの?(笑)」
優香「えー…」
真一「オレを誰やと思ってんの? 幼なじみのしんちゃんやで」
優香「……」
真一「優香ちゃんは堀川家のクッキー全部食われた事件を、今解決してくれたんや。今度は加島家3兄弟クッキー事件をオレが解決せなアカンやろ?(笑)」
優香「…わかった」
真一「ありがとう。オレも大事にクッキーいただくわ」
優香「うん」
真一「ん? ラッピングが昨日と違うやん? なんか、今日の方が豪華やん? どないしたん?」
優香「気にしないで。ラッピングの良いのがなかったから…」
真一「そうかぁ」
優香「…しんちゃん」
真一「ん?」
優香「私のクッキーで良かったん?」
真一「うん。どうしたん?」
優香「くーちゃんとかはケーキ作ってきてたから…」
真一「まだ気にしてんの?」
優香「だって、私だけクッキーやったんやもん」
真一「それは…、優香ちゃんがオレに『何がええ?』って聞いたやろ? オレが『前に食べたクッキー』って答えて、優香ちゃんはオレのリクエストに答えてくれたやんか。だからオレは嬉しかったんやで(笑)」
優香「でもくーちゃんとかはチョコパイとか作ってきてたやんか」
真一「確かに3人のもおいしかったよ。でも、優香ちゃんのはオレが好きな『シンプル』なお菓子やからやで。優香ちゃんはオレの意見を採用してくれたんやから、オレ個人的には村田さんとかのよりも優香ちゃんのクッキーが一番よかった。さすが幼なじみやなぁ…って(笑)」
優香「そうかぁ…。ありがとう」
真一「いやいや、こちらこそオレ中心で考えてもらって嬉しかった」
優香「なぁ…」
真一「ん?」
優香「ううん…」
真一「うん…。このラッピングしてあるクッキーも、優香ちゃんの気持ちが入ってるみたいやな…」
優香「うん」
真一「ホンマに優香ちゃんは、幼稚園の時からオレに優しいなぁ…」
優香「だって、しんちゃんやもん。しんちゃんだって、私に優しいやんか」
真一「だって、優香ちゃんやもん」
2人はお互いを見て笑った。
バレンタインデーも『延長戦』を含めて終わり、今度はお返しのホワイトデーとなる。男連中は優香たち4人に何をお返しするか考えていた。真一は事前に優香から聞いたドーナツにすることにした。
3月、高校入試と重なる頃、真一たちは期末テストだった。その期末テストもようやく終わり、白木は実習棟に籠り、新しいアンプや競技ロボットの試案に入っていた。
坂本は連敗を4でストップし、ようやく彼女が出来た。私立女子高校の1年生だ。しかも寺岡も坂本の彼女の友達と付き合うことになった。
佐野山も小学生から入っているボーイスカウト活動に多忙だった。
加藤は福田との交際は順調に『天然ボケカップル』は愛を育んでいた。
藤岡も自動車ラリーに興味を持ち、趣味に没頭していた。
優香は大学進学を目指すことになり、受験勉強に入ったが、真一とは相変わらず仲良く登下校し、下校時は真一がミルクティを買って、優香に渡していた。
真一はというと、唯一何も変わっていなかった。進路についても全くの白紙。期末テストが終わったこの日も優香と一緒に帰っていた。ミルクティを買う。
真一「はい」
優香「ありがと」
真一「おう」
優香「しんちゃんは進路どうすんの?」
真一「全く考えてない。大学進学は家庭の経済面でもオレの頭もアホやし、銭もうけ(就職)しかないかなぁ…。優香ちゃんは大学やろ?」
優香「うん。新潟の大学行こうかなぁ…と」
真一「なんで新潟なん?」
優香「工業系の大学やし、国立やし、おばあちゃんが新潟にいるからね」
真一「なるほどなぁ。優香ちゃんなら安心して入れるわな。オレとは正反対で賢いし」
優香「分からんよ。しんちゃんは将来どんなことしたい?」
真一「それが、全く分からんのや。不器用やし、アホやし、取り柄ないし…無いもの3点セットやからなぁ(笑) 『フーテンのしんちゃん』でもなろうかなぁ…(笑) 風の向くまま気の向くまま…旅に出ながらってね(笑)」
優香「何アホなこと言うてんの?(笑)」
真一「どうしようかなぁ…」
真一は少し焦っていた。みんなは就職や進学を目指すものが見つかったのに、自分だけ見つかっていないこと、自分だけ『ホワイトデーのお返しは何するか?』をずっと考えていた為、目の前の事しか頭に無かったことで自暴自棄になりつつあった。
3月14日、ホワイトデーがやって来た。
朝、男子は優香たち4人にそれぞれ手作りのお菓子を渡す。
白木は炊飯器で作ったフルーツケーキを、佐野山、浅田は既製品のチョコレート、寺岡はチョコレートキャラメル、藤岡はクッキーを、そして真一はホットケーキミックスで作ったドーナツを各々4人に渡した。
滝川「みんなありがとう」
加藤「ありがとう」
村田「みんなありがとう」
優香「ありがとう」
昼休み、白木・坂本・寺岡は真一と話す。
白木「堀川、今日ホワイトデーやろ。お返し(ホワイトデー)プレゼントしたやろ?」
真一「したね」
白木「加島に何か言わんのか?」
真一「何を?」
白木「うーん…、わかるやろ?」
真一「へ?」
坂本「白木、堀川に普通に言うても超が付くくらい鈍感や。1から事細かく言わんとアカン。あのなぁ…おっちゃん、バレンタインデーに何をもらった?」
真一「え? 村田さんはチョコパイ、加藤さんはガトーショコラ、滝川さんはチョコレートケーキ、優香さんはクッキーやったなぁ」
坂本「うん、そうやったなぁ。加島さんからもらったクッキーは、どうやった?」
真一「どうって、何が?」
坂本「おいしかったか?」
真一「おいしかったで」
坂本「おかわりもらったんやないんか?」
真一「なんで知ってんの?」
坂本「村田さんらから聞いた」
真一「そうなんや」
坂本「なんでおかわりもらったんや?」
真一「親父が全部食べて、オレ食べれず終いやったから、優香さんが気使っておかわりをくれちゃったんや」
坂本「それは、あんたが食べれず終いやった理由もあるけど、他に理由があるんや。何やと思う?」
真一「理由? なんやろ、幼なじみやからとちゃうか? 優香さん優しいからねぇ」
坂本「それもあるなぁ。それだけやないんや」
真一「え、何?」
坂本「わからんか?」
真一「何?」
寺岡「あのなぁ堀川、オレと坂本は私立女子高の子と付き合うことになったんや。オレと坂本は自分で相手を探して見つけた。坂本なんか4連敗から初めて彼女ができたんや。あんたの場合、身近に彼女になる候補はいてるんや。わかるやろ?」
真一「…それって…」
白木「そうや」
真一「なんでやねん? 前にも『いつもと変わらん』って言うてるやないか」
白木「変わらんかもしれんけど、普通女の子って、男の事、ここまでやってくれる女の子はおらんぞ。それに幼なじみやっていうこともあると思うけど、それだけやないんや。周りのオレら全員思ってるで。加島はお前から告白されるのを待ってるぞ。これからも仲良くなれるんやぞ」
真一「『これからも仲良くなれる』て、もうなってるやん」
坂本「それはわかってるけど、今まで以上に仲良くなれるってこと」
白木「じゃあ聞くけど、お前なんで頑なに恋愛に興味ないんや? 今のお前は恋愛に興味あろうがなかろうが、付き合う大チャンスなんや。そうやなかったら、あんだけ仲良くならんぞ」
真一「オレには関係ない話やからや」
坂本「加島さんとも付き合わんってこと?」
真一「だから、優香さんはただの幼なじみやって」
白木「お前、前にも言うたけど、もし加島が他の男と付き合うことになったら、今までのようなことにはならへんのやぞ。それでもいいんか?」
真一「それはオレの知ったことやない。優香さんとその男の話なんやから、オレは関係ない」
坂本「なんでそこまで興味持とうとしない?
もうすぐに手が届くところに加島さんはおってんやで。なぜ手をさしのべない? ただ興味がないというのではないやろ? 」
白木「何かあったんか?」
坂本「勇気を出さんと、いつまでも話は進まんぞ」
真一「何にもないし、興味もないし、話が進むとか進まんとかの問題でもない。普通や」
寺岡「あんたなぁ、それを加島さんに聞いてもらってみ? ショック受けてやぞ」
真一「なんでショック受けるん?」
寺岡「本当は好きやのに、その好きな人が『興味ない』って言ってたらショック受けるやろ」
真一「…そう?」
白木「だからお前が興味なくても、加島はお前に興味があるんや。だから加島の為に、お前考えてやれよ」
真一「そんなこと言われたって、何を考えるんや?」
白木「何って、それはなぁ…(笑)」
坂本「白木、ハッキリ言わんとわかってへん場合があるから。あのなぁ、おっちゃん、加島さんが好きやっていうことを考えるんや」
真一「うーん……。どないするんや?」
坂本「例えば『好きです。付き合ってください』って言うんやな」
寺岡「あんたの言葉でいうてあげるんやで」
真一「……………」
白木「今日はホワイトデーや。よく考えてみ?」
浅田「そんなことがあったんや」
真一「うん」
浅田「あんたこの当時『トラウマ』があって、自分の思ってることが言えんかったんやなぁ…」
真一「そうや、正直困ってた。『叔父さんの事』があってトラウマになってて、優香ちゃんのことも気になってた。何とかのらりくらりとしてたんやけど、白木やら坂本とか、周りの友達から痛い所を突かれてなぁ…。でもこのまま優香ちゃんと付き合うことになると『叔父さんと同じ轍を踏む』ことになる可能性があったんや。新潟の大学に進学を目指してて、進学が実現すると同じ轍を踏んでしまう。かといって『高校まで』限定で付き合うわけにもいかないと考えてたから…」
浅田「そんなん、例え『トラウマ』があったとしても、無理してでもあの人(優香)と付き合ったらよかったんや。そしたら絶対あんたのトラウマは、あの人(優香)で解けたはずや。解けるのに時間がかかっても、あの人なら絶対解けたはずや。なんせ『幼なじみ』なんやから、あんたのこと、よう(よく)知ってるんやからなぁ…」
真一「それでなぁ、そのあと一人で少し考えたくて、一人で学校から帰ろうとしたらなぁ…」
(回想・夢の中)
高校の校門を出て、1人で高校駅に向かい、電車で帰ろうと考えていた真一だったが…
優香「こんにちは」
真一「お、おう」
優香「何びっくりしてんの?」
真一「急に声かけられたから…」
優香「そうかぁ? 普通やけどなぁ」
真一「そうか…」
真一はミルクティを買って、1本優香に渡す。
真一「はい」
優香「ありがと」
真一「おう」
2人に沈黙が続く。
優香「今日はどうしたん? 何か様子がおかしいで」
真一「そうかぁ? 普通やけどなぁ…」
優香「ふぅん…そうかぁ」
沈黙が続く。
優香「しんちゃん、何があったん?」
真一「へ? 何が?」
優香「絶対様子が変や」
真一「普通やって」
優香「何考え事してんの?」
真一「してへんよ」
優香「そう………」
真一「………」
優香「あ、ドーナツ、うまいこと出来てたよ」
真一「そうかぁ、よかった。口に合うかどうかわからんけど…」
優香「大丈夫やったよ。不器用なしんちゃんでも、これなら大丈夫でしょ」
真一「まぁな。でも優香ちゃんのクッキーには敵わんわ」
優香「そう? あんなんでホンマに良かったんか?」
真一「うん。シンプルなんが良いわ」
優香「そうかぁ。また気が向いたら作ってあげるわ」
真一「うん」
また沈黙が続く。優香は明らかに真一の様子が変だとわかっている。真一が否定してもウソをついていることはわかっていたが、真一が頑なに否定しているので、あえてそれ以上は聞かなかった。優香はただ、真一を見守るしかなかった。
浅田「あんた、ある意味『恋患い』やったんやなぁ(笑)」
真一「そんなええもん(いいもの)と違うわ」
浅田は電話の向こう側で笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます