第22話 23年前の夢を見る真一…『23年ぶりの「どうしたらいい?」』⑤
(回想)
週末土曜日、仕事が休みの真一は朝、いつものように仕事に出る妻・みつきの弁当を作っていた。弁当を作っている間、みつきが朝食をとっている。支度をして、みつきが仕事に出かける。
みつき「じゃあ、行ってきます」
真一「行ってらっしゃい」
2人がキスをする。
真一とみつきは結婚してから、『行ってらっしゃいのキス』は欠かしていない。高校時代の真一には考えられない光景だ。
みつきを見送ってから真一が朝食をとる。
朝食をとったあと、スーパーへ買い物に出かけるのだが、開店時間までに時間があるので、真一は車で幼稚園に向かった。そう、夢の中でも優香に聞かれた『どうしたらいい?』の返事を探すために…。
真一(『何やってんねん(何やってるの)❗』って思われるやろなぁ…。けど全ては優香ちゃんの『どうしたらいい?』やからなぁ…。まさか23年前の話をこの期に及んで考えさせられるとは…。ホンマにこのコロナ禍、どうなってんねん(どうなってるの)…)
浅田「咄嗟に言うた話のせいで、今になってまた考えさせられるって、あんたも
真一「ホンマにこのコロナ禍、夢の中で優香ちゃんに振り回されてる感じや。『今更感』満載やけどな…」
浅田「それで、幼稚園へ行ったんや…」
真一「うん…」
(回想)
幼稚園の駐車場に車を停めた真一は、徒歩で幼稚園へ向かった。普通に敷地内に入ると不審者と思われてもおかしくない。そこで、少し離れたところから幼稚園の園舎(校舎)を眺めた。
真一(何かヒントの『ヒント』でも見つかるかな…)
真一はしばらくの間、何も考えずにボーッと園舎を見ていた。
すると、しばらくして真一は昔の記憶が甦ったのだった。
(回想・真一の記憶)
真一と優香の幼稚園時代
松本先生「じゃあみんな、これから教室の隅にかためて置いてあるイスを1個とって自分の席についてください」
園児達は「はーい」と元気よく返事をしてイスを取りに行く。
その時だった。真一はみんながイスを取りに行っているのに1人だけ取りに行こうとしない女の子に目がいった。少し寂しそうにしていた。真一のとなりの席の
真一(なんでイスを取りに行こうとしないんだろう?)
そう思った真一は、自然と体がイスを2個とって1個を優香に渡したのだった。
真一「はい」
優香「ありがとう」
優香は寂しそうにしていた顔から一転、満面の笑みで真一と目があった。おとなしい性格の優香に対して、誰とでも話すことができる真一は、優香にもきやすく話した。
イスを取りに行くのは真一の日課になった。優香は毎日そんな真一の優しさが嬉しかった。
真一「優香ちゃん、はい」
優香「ありがとう」
ある日、いつものように真一はイスを2個取りに行こうとしたら、優香に肩をポンポンと叩かれた。真一が優香の方に振り向くと、優香が指で向こうを指し、既にイスが2個置いてあったのだ。そう、優香が真一の分までイスを取りに行っていたのだ。
真一「ありがとう」
そう優香にお礼を言うと、優香はまた満面の笑みを浮かべた。
そんなやり取りは毎日続き、優香が男の子にイジメられようとしていたら真一は優香を庇い、男の子に「女の子なんやから、優しくしてやれよ」と声をかけた。優香は泣きそうになりながらも笑みを浮かべて、真一にベッタリくっついていた。
真一は教室のとなりの席には優香、園庭でかけっこをするときに男女1列ずつ背の低い順に並んだ時のとなりの女の子は優香、遠足に行って記念写真を撮るときや弁当を食べるのも、となりには優香がいた。極めつけは年長組に進級し、席替えをしても真一のとなりの席は優香だった。席替えは年中組の松本先生と年長組の矢沢先生が相談して決めたのだった。優香がおとなしい性格でなかなか人と話すのが苦手なのだか、なぜか真一とならよく話すのだった。2人のやりとりをずっと見ていた松本先生は、矢沢先生に引き継ぎ事項の中に入れていて、優香を真一と離すのは困難と判断して、年長組でも2人はとなり同士にしたのだ。
年長組に進級してからも真一は優香のイスを取りに行っていた。優香も時々真一の分のイスを取りに行っていた。
真一「優香ちゃん、はい」
優香「ありがとう」
年長組になっても、真一のとなりの席は優香、園庭で男女1列ずつ背の低い順に並んでも真一となりには優香、遠足で記念写真を撮るときや弁当を食べる時も、真一となりには優香だった。
優香が満面の笑みで真一と顔を合わす。真一も笑い、となり同士の席である真一と優香は、2年間変わらず仲が良かった。
そして幼稚園卒園を迎え、真一と優香は小学校が別々になることとなり、卒園式後、真一、優香の母親子同士で近くのファミリーレストランで食事をした。
終始優香はしょんぼりして、真一と離ればなれになるのが嫌だった。そんな優香を見て真一は、お子さまランチのハンバーグを食べながら、優香の頭をずっと撫でていた。真一に頭を撫でられている優香は、真一にべったり引っ付いて、真一の右肩に頭をもたれさせていた。2人は何も言わずに静かにしていた。
(回想・真一の記憶)
高校に入学した真一が帰りの電車の中で…
真一「あの、ひょっとして優香ちゃんやんなぁ?」
優香は笑顔で首を縦に振る。
真一「オレの事知ってる?」
優香「知ってるよ。堀川くんでしょ」
真一「堀川くんって、何か肩凝るわぁ(笑)」
優香「じゃあ…、しんちゃん❗」
真一「しっくりくるなぁ(笑)」
優香も笑った。
(回想・真一の記憶)
真一はミルクティを2本買って1本を優香に渡して、下校する。
真一「はい」
優香「ありがとう」
真一「おう」
(回想・真一の記憶)
夕方、真一は一人で下校し、高校駅に向かっていた。後ろから優香が真一に手で目隠しをする。
優香「だーれだ?」
真一「……えーっと…、誰だっけ?」
優香「だーれだ?」
真一「………あ、わかった。優香ちゃん」
優香は笑う。
真一「どないしたん(どうしたの)?」
優香「何が?」
真一「『だーれだ?』って目隠しなんかして…。ハイテンションやなぁ」
優香「そうかぁ? こんなもんやろ」
真一「そうか…」
真一は自動販売機で冷たいミルクティを2本買って、1本優香に渡す。
優香「ありがとう」
真一「おう」
(回想・真一の記憶)
真一は白木の自宅で資料作りをしていた。遊びに来た優香は、白木と村田が出ていった事を確認すると、真一のとなりへ移動した。それもかなりの至近距離。真一が振り向けばキスしてしまうくらい接近していた。
優香「何してるの?」
真一「…あ、あぁ、(養護教諭の)大川先生の資料作りや」
真一は優香がかなりの至近距離でビックリしていた。キーボードで文字入力も、手がおぼついていない。明らかにドキッとしていた。
優香「いつもエラいなぁ、しんちゃんは」
真一「何が?」
優香「先生のお手伝い」
真一「しゃあない(仕方がない)わ」
優香「何の資料作ってるの?」
真一「性教育」
優香「そうかぁ…。えーとなになに…性交について…か」
真一「………」
優香「しんちゃんは性交したことある?」
真一「…なぁ、あると思うか?」
優香「さぁ」
真一「したことあるんか?」
優香「あると思うか?」
真一「あるんか?」
優香「ないわ❗」
真一「経験済みやから聞いてきたんかと思うやん」
優香「じゃあ、私と経験してみる?」
真一「…なぁ、自分で何言うてるかわかってんのか? 『私とエッチしてみるか?』って言うてんねんで。女子高生というか、女の子が簡単に言うことか?」
優香「しんちゃんやで言うたんや(笑)」
真一「冗談キツいわ」
優香「なぁ、顔赤いで(笑)」
優香は困った顔した真一を見ながら笑っていた。
優香「しんちゃん、女の子とキスしたことあるの?」
真一「なんやねん、急に」
優香「キスしたことあるの?」
真一「…聞く以前の問題やろ。あるんか?」
優香「…この間断った」
真一「あ、そう…」
優香「というか、したかった」
真一「なんやそれ」
優香「しんちゃんと…」
真一「はぁ? 何言うてんの?」
優香「なぁ、まだ顔赤いままやで(笑)」
真一「優香ちゃんだって、人の事言えへんやないか(笑)」
優香「なぁ、今したらアカンか?」
真一「なんでや?」
優香「今のうちに私のファーストキス奪っといて欲しいし、しんちゃんのファーストキス奪いたい」
真一「冗談キツいなぁ…」
優香「マジやったらどうする?」
真一「こんな状況で? しかもここは白木の家やで。アイツの事やで、ひょっとしたら隠しカメラ設置してるかもしれんぞ。見られたらどうすんねん?」
優香「あー、なんとなくその気持ちわかるわぁ。白木くん怪しいもんなぁ…」
真一「そうやろ?」
優香「じゃあ、ココ以外で2人っきりになったらしよっか(笑)」
真一「だから、なんでそこへ話が行く? 最近テンション高いなぁ…」
優香の大胆発言(冗談?)に真一は困惑していた。
優香は真一に甘えていた。
真一「優香ちゃん、どうした? 何かあったんか?」
優香「何が?」
真一「『何が?』やないって。今日はめっちゃ甘えてるけど、何かあったんかいな?」
優香「別に…。ただ、しんちゃんと居たかっただけ」
真一「そうか…」
優香「あ、しんちゃんの仕事の邪魔してるよね。ゴメン」
真一「白木がおらんから、優香ちゃんが甘えたけりゃ甘えたら…? オレは続きしてるから…」
優香「ええの…?」
真一「する事無いんやろ? さっき村田さんと一緒に行ったら良かったのに…」
優香「ええ(いい)の…。白木くんとくーちゃんの邪魔したら悪いと思って…。それに幼なじみだけで居たかったから…」
真一「そうか…」
優香「なぁ、ワープロソフトってどうやって文字入力してるの?」
真一「情報学科の優香ちゃんならやってるやろ? ローマ字漢字で入力してるで」
優香「どうやってするん? してみたい。教えて❗」
真一「いや、教えんでも知ってるやろ?」
優香「教えて❗」
優香はキーボードの前にいる真一を退かして、優香が座ったら、その後ろから真一に二人羽織のようにキーボードをタイプしてもらおうとしていた。
真一「なぁ、この状態、オレが優香ちゃんを後ろから抱いてる状態になるんやけど…」
優香「抱いたらええやんか❗」
真一「いやいや、おかしいおかしい」
優香「ええやん別に、幼なじみやし」
真一「いや、幼なじみやからとかの問題やないやろ」
優香「しんちゃんやから、いいの❗」
真一「なんでオレやったらええねん? 白木ではアカンのか?」
優香「アカン❗」
真一「どうしたん? 今日はヤケにオレにグイグイ誘惑してるやないか。この間凹んでたの、何かあったんか?」
優香「…何もないよ」
真一「誰もおらん今やから聞いてんねん」
優香「何もないって」
真一「南駅で何があったんや?」
優香「え?」
真一「あの時、オレ毎日優香ちゃんが南駅から電車乗ってきたのを、オレが電車降りるとき見たんや」
優香「見てたん?」
真一「うん。凹んでた事と関係してなかったらええなぁ…とは思ってたんやけど。まぁ、オレが首突っ込むことやないから、オレの方から聞くつもりはない。ただ、あの頃から優香ちゃんの様子が変わったから、気になってただけや」
優香「あのな、私…」
真一「詳しく言わんでもええよ。言いたくないんやろ? 辛い思いしたんやろ…?」
優香「しんちゃん…」
真一「あの南高校の男の子か?」
優香「見てたの?」
真一「見かけただけや」
優香「どこで?」
真一「駅で」
優香「…ずっと見てたんか?」
真一「見かけただけや。ずっと見てたらストーカーやろ?(笑)」
優香「はぁ…、しんちゃんに見られてたんか…」
真一「詳しいことはもちろん知らんで。ただ、あの男の子が原因なんかな…とは思ってた。みんなの前では『何も知らん』って通してるから大丈夫や」
優香「しんちゃん、実はな…」
真一「もう言わんでええよ。どうせ迫ってきたとかいうオチやろ?」
優香「…うん」
真一「まぁ、そんなことやろうと思た」
優香「しんちゃんには何もかんもお見通しやな…」
真一「誰やと
優香「幼なじみにはかなわんわ(敵わない)…」
真一「どうだ、参ったか?」
優香「…じゃあ、このまま後ろから抱いてよ❗」
真一「意味がわからん」
優香「抱くこともようせんのか?(笑)」
真一「幼なじみがすることやない。恋人にしてもらいな(笑)」
真一は優香の頭を撫でた。
優香「しんちゃん」
真一「ん?」
優香「心配してくれてありがとね」
真一「おう」
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