“幼なじみ特別編”第三弾 幼なじみ~不器用な男と器用な女~妄想編

まいど茂

第1話 26年前の夢を見る真一…夢の中で優香と『再会』

(回想)

優香「どうしたらいい?」















2020年秋、不器用な男・堀川真一ほりかわしんいち42歳。6年前、妻のみつきと結婚し、現在は真一の実家近くの賃貸マンションで2人暮らしをしている。


現在の世の中は、世界的に蔓延している『新型コロナウィルス感染症』の影響で、日本政府が『緊急事態宣言』を発令した為、『stay home(自宅にこもる)』の状況で、真一の『彼女』でもある『旅』は基本的に出かけていない。


真一は、このコロナ禍で、休日は基本的にみつきと買い物に出かけること以外は外出していない。自宅でのんびりしている。


新型コロナウイルス感染症の拡大により、政府が『緊急事態宣言』を発令してから2週間が経とうとしていたある日の夜から、みつきと就寝中、真一はほぼ毎日夢を見ていた。



真一は高校時代に同じクラスで、食の志向が真一と全く同じでウマが合い、その後も『悪友』こと大親友の浅田と、大体半年から1年に一度、電話や直接会って話すのが恒例となっている。最低でも1時間、長いときには4時間以上話すこともある。



2020年11月、真一は勤務する会社の事務所で一人、仕事を終えた後、浅田に電話した。



浅田「もしもし」

真一「もしもし、生きてますか?」

浅田「まぁ、なんとかですわ(笑) 生きてはりますか(おられますか)?」

真一「息だけしてますわ」

浅田「どないしたん(どうしたの)ですか、また電話してきて…?」

真一「いやぁ、時期的にそろそろ話す頃やなぁ…と思って」

浅田「そうか、もうそんな時期か…」

真一「うん。…それで今回は相談ではないんやけど、ちょっとオレの『独り言』を聞いて欲しいんや」

浅田「なんや、『独り言』って? なんか、あんたの『独り言』って、怖いなぁ…(笑)」

真一「それはどういう意味や?(笑)」

浅田「また、良からぬ事を聞くんやないやろなぁ?(笑)」

真一「いやいやいや、そんなんやないで。『独り言』やで、別に相談するわけでもなく、『なんとかしてほしい』って言うわけでもない。ただオレの話を聞いてほしいんや。ただ、嫁に言えることやないし、誰にでも言えることやない。これは、あんたにしか話せへん(話すことができない)ことやから…」

浅田「怖いなぁ…(笑) あんたの『独り言』、何か嫌な予感するわ(笑)」

真一「とにかく、話を聞いてほしい…」

浅田「…わかった。それで、何?」

真一「実はな、今年に入ってから『コロナ』で自粛モードになってるやんか」

浅田「そうやなぁ」

真一「それでなぁ、この自粛期間、所謂『stay home』の間、まぁ今もなんやけど、オレ毎晩毎晩、夢を見るんや」

浅田「ほう」

真一「それもやで、高校時代の夢なんや」

浅田「あ、そう」

真一「それもなぁ、入学式の時から順番に、実際起きたことや、途中でドラマみたいな出来事やら、とにかく時系列で走馬灯のように見てるんや」

浅田「へぇー、いいじゃないですか(笑)」

真一「いいことはないなぁ」

浅田「なんで? 夢の中で青春してるんやろ?(笑)」

真一「だって、昔の記憶を甦らせるかのように、あんたとか、白木とか、優香さんとか…、とにかくいつもの面々が夢に出てくるし、歴史的事実がまた夢の中で再現されてんねん。ちょっと怖くてねぇ…」

浅田「あ、そう。よい夢を見てはますやんか(見ておられますね)(笑)」

真一「やかましいわ❗(笑) 別に、あんたに『なんとかしてくれ』って言うてるんやなくて、ただ、オレの『独り言』を聞いて欲しいんやな」

浅田「別にオレに言わんでもええやんか」

真一「いや、オレ一人の中で抱え込むのも体に悪いし、こんな話、あんたにしか言われへんやんか。だから、あんたに話を聞いてもらうだけで、甦った昔の『優香さんとのこと』も吹っ切れると思ったんや…。ある意味、オレの気持ちが切り替えられると思ったからや」

浅田「それはどういうことや?」

真一「優香さんのことやな…」

浅田「なんで?」

真一「理由を話すより、とりあえず聞いてくれたらわかると思う。強いて言うなら、高校卒業してからもうすぐ四半世紀や。もう時効の話やし、いつまでもこんな夢で頭抱えるのもどうかと思うし…。けど時効なら、誰も知らん…、まぁ、あんたにだけは昔少し話したこともあったけど、皆の知らん話もあるんや。それも含まれてるからなぁ…。それをあんたに聞いて欲しいんや。何せ今、オレには“みつき”という嫁もいてるし…」

浅田「わかった…。それで、オレは何を聞いたらええんや?」



真一は少し深呼吸をしてから、高校時代に起きて、先日から見ている夢の内容を浅田に電話で話し始めた。








(回想・夢の中)

4月、桜の花があちこちで満開、入学シーズンに薄いピンク色が花を添える光景だ。


真一は、いよいよ高校生活の始まりだ。入学式の朝、南駅から中学校時代からの同級生や幼なじみのケンちゃんと同じ電車に乗る。他の高校に通う者もいて、駅は混雑している。

改札に入ろうとした時、真一の後ろから女の子達の声が聞こえた。


女A「あれ、あの人、どこかで見たことある人や」

女B「誰?」

女A「ほらあそこ、改札口の前にいる眼鏡をかけた男の子」

女B「あの人も同じ制服着てるよ。同じクラスかなぁ…。でもなんで知ってるの?」

女A「あの人、ひょっとしたら幼稚園の時一緒だったかも…」

女B「えーっ❗ じゃあ、幼なじみやんか。小学校と中学校は違うよね。小学校は私もいたから…」

女A「うん、幼稚園以来やと思う」

女B「ええなぁ、幼なじみ。高校生活初日から青春やねぇ…」

女A「ちょっとー、からかわないでよ❗」

女B (笑)


真一は中学校時代から目が悪くなり眼鏡をかけていた。


真一(ん? 高校入学の頃の時か? 昔、こんなことあったなぁ…)


と思いながら、その声がする方をあえて見ることなく改札口に入った。


田舎といえども通学電車は6両編成。真一は中学校の同級生と先頭車両に乗る。


高校に着くと、教室で一時待機し体育館で入学式が行われた。入学式のあと、教室に戻りホームルームが始まった。担任の岩田先生の自己紹介から始まり、同じクラスの坂本と初めて言葉を交わす。この後、立て続けにクラスの仲間と自己紹介しながら友達になる。見た目はヤンキーっぽいけど、飯の志向は真一と全く同じの浅田、鉄道マニアの高山、自己中心的な寺岡、メカニックマニアで色んな趣味を持っている藤岡、白々しい発言が多いが真面目な所もある佐野山。個性強い人間ばかりだ。


現代では考えられないが、全校生徒の緊急連絡網の冊子が配布され、自宅で保管するよう指示かあった。当時は携帯電話が普及する前の時代だった。


自宅に帰った真一は緊急連絡網の冊子を母親に渡す。母親は何気なく冊子をペラペラとめくって何となく見ていた。すると母親が真一に言った。


母親「あんた、優香ちゃんもいるやんか❗」

真一「優香ちゃん?」

母親「覚えてへんか? 優香ちゃんやで」

真一「優香ちゃんって誰やったかいなぁ…」

母親「覚えてへんの? ほら幼稚園の時一緒やったやん。一番仲が良かった優香ちゃんやんか」

真一「…そんな子いたっけ? かなり昔の話やから覚えてへんわ」

母親「うーん…ほら、かわいい女の子やったやんか。大人しい女の子で、あんたとおったら明るくなったって、優香ちゃんのお母さんが言ってたでしょ」

真一「そうやったかいなぁ…忘れたわ」


当時真一は頭の中は真っ白、幼少時代の事は完全に記憶が飛んでいた。


翌日、真一はいつものように南駅から電車に乗る。中学時代から同じ高校に通う増井と一緒に高校に通っていた。この2人が唯一同じ中学校出身者なのだ。あまり仲が良いというわけではなかったが、まぁ軽く挨拶する程度の付き合いだった。この増井の知り合いで、別のクラスにいる白木と真一は初めて言葉を交わす。白木と真一はすぐに意気投合した。真一が増井以外で他のクラスの友達が出来たのは白木が初めてだった。白木も真一を介して浅田達とも仲良くなった。


ある日の下校時、真一は一緒に帰ろうと高校駅の待合室で増井を待っていた。しかし、増井は現れない。しばらくして駅前の横断歩道で信号待ちしている人影を見つけ、真一は待合室を出て駅の入口まで出てくると、男ではなく女の子だった。すると、横断歩道を渡ってきた女の子は真一をじっと見ている。そんな視線を感じた真一も女の子をじっと見た。すると真一は衝撃が走った。


真一(あれ、またこの光景か…)


と、心の中で考え込んでしまった。2人の沈黙は続いている。そう、幼稚園の時、となりの席だった加島優香だ。夢の中なので、昔とは違い、声をかけようか迷っていた。


真一(夢の中やし、声かけてみるか…)


真一は優香に声をかけてみた。


真一「優香ちゃん」

優香「しんちゃん(笑)」

真一「やっぱり優香ちゃんやったか」

優香「うん(笑)」

真一「変わらんなぁ、幼稚園の時のままやんか。お年頃の女の子になって…」

優香「そうかなぁ…。しんちゃんも男の子らしくなって…」

真一「そうかなぁ…。オッサンにはなってるけど…」

優香「オッサンちゃう(違う)わ(笑)」

真一「そうか…」

優香「うん。だって、幼稚園の時以来やで」

真一「そうやなぁ、義務教育の9年は学校違ったもんなぁ…」


真一と優香は夢の中で、9年ぶりの再会で話に花が咲いていた。


翌日、高校駅に電車が到着し真一は白木と一緒に登校していた。優香は梅沢駅から電車に乗ってくる女友達と、真一は白木と一緒に登校していた。


白木「おはよう」

優香「おはよう」

真一「おはよう」

優香「あ、おはよう~」


優香はちょっとテンションが上がっていた。


白木「あれ堀川、加島知ってるんか?」

真一「うん」

白木「なんでや?」

真一「『なんで?』って、幼稚園の時一緒やったんや」

白木「え❗ そうなん? でも小学校・中学校は違うやろ?」

真一「違うで」

白木「けどなんでお前知ってるんや?」

真一「幼稚園の時一緒やって、席がとなり同士やったんや」

白木「えー❗ 凄いなぁ。ええなぁ、幼なじみは」

真一「どないしたん?」

白木「義務教育の9年空白あるのに、お前ら幼稚園からずーっと一緒にいる感じやな」

真一「そうかぁ?」

白木「お前ら仲がよさそうやなぁ」

真一「仲は悪くないで。別にオレと優香さんやなくても、あんたでも幼なじみいるやろ?」

白木「こんなに仲が良い幼なじみは中々おらんで」

真一「そうかなぁ?」


一方、優香も女友達3人と登校。梅沢駅から乗ってくる村田久美(くーちゃん)、加藤久子(ひっちゃん)、そして滝川ちえみ(ちーちゃん)の3人だ。優香は友達から(ゆうちゃん)と呼ばれている。

優香は3人に話した。


優香「あのな、昨日帰りに高校駅で3組の堀川くんとバッタリ会って、声をかけられたんや」

村田「あの、幼なじみの男の子?」

優香「うん。幼稚園の時と変わってなかった」

村田「そうなんや…」

加藤「良かったなぁ、幼なじみと再会できて」

滝川「運命の出会いかも…」

優香「ちょっと、そんなんちゃうって。ただの幼なじみやで」

村田「でも幼なじみでも将来結婚した人も中にはいるらしいよ」

加藤「え? ゆうちゃん堀川くんと結婚するん?」

優香「しないって」

滝川「ひっちゃん、例え話!」

村田「ひっちゃんの天然ボケが出た」


4人は大笑いした。

そう、加藤は天然ボケで有名なのだ。









真一と浅田がスマートフォンで話している。



浅田「あの人(優香)と再会した時って、実際はどんな感じやったんや?」

真一「実際はオレ覚えてなくて、当時は『連絡網』という住所録があったやろ? あれをウチのお母ちゃんが見て『優香ちゃんもおってやんか』って言うて、最初なんのこっちゃわからんかったんやけど、後でよくよく思い返してたら、思い出したんや」

浅田「あ、そう。けど、あの時のあんたは『何か持ってる』って思ったわ」

真一「なんやそれ?」

浅田「だって、幼稚園以来の再会やったやろ? しかも席がとなり同士で…。そんな偶然、ドラマやないんやでなぁ…(笑)」

真一「そうかなぁ…」



真一と浅田は電話で高校時代を懐かしんでいる。

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