第26話 23年前の夢を見る真一…『23年ぶりの「どうしたらいい?」』⑨
(回想)
真一は23年前も夢の中でも、優香のことを考えていたが、『説得力のある返事ができない』と思っていた。やはり当時の『トラウマ』が真一には引っかかっていた。
(回想・真一の記憶)
真一が中学3年の夏。真一の自宅に叔父の浩二が夕食を食べに来ていた。
浩二「しんちゃん、高校はどこ受験するんや?」
真一「工業高校やで」
浩二「そうか。何かやりたいことがあるんか?」
真一「『何か』って言われたら、まだわからんのやけど、ただ普通科の勉強より、工業系の事に興味があって、もし高校入れたら将来何をするか模索しようとは思ってるんや」
浩二「そうか…。しんちゃん、くれぐれもオレみたいな男にはなったらアカンぞ。オレは失敗例や。オレが学生時代の頃、一人の女に夢中になり過ぎてた。ずっと一人の女を追いかけていた。それだけで進路は二の次やった。女の事を考えてから進路決めてたから、今更後悔しても仕方ないんやけどな…。婆さん(真一の祖母)にはホンマに迷惑かけっぱなしやからなぁ…(笑)」
真一「…………」
浩二「しんちゃん、絶対オレみたいな男にはなったらアカン。義姉さん(真一の母・美沙子)と兄貴(真一の父・一雄)の言うこと、よう(よく)聞くんやぞ。オレは女優と別れたお笑い芸人と一緒の立場や。お笑い芸人はそれを逆手にまた芸を磨く。でもオレは何の取り柄もないから…。今のオレがコレや(笑)」
真一「………」
浩二「ええか、何回でもしつこく言うけど、しんちゃんはオレみたいな男には絶対なったらアカン。これだけは言うとくから…」
叔父の浩二は高校時代、同級生だった女に惚れ、交際をはじめた。進路は二の次で、交際していた女が大学進学するのに合わせ、浩二も同じ大学に奨学金を使って入学し、在学中に妊娠させ、中絶するのを条件に結婚が許された。しかし浩二は進路を二の次にしていた為、就職もなかなか落ち着かず職を転々としていた。紆余曲折あり、女とは離婚、2人の子供の親権は女が持ち、浩二は一人ぼっちになったのだった。
浩二は、真一たちと夕食を共にしてからしばらく経ったある夏の暑い日、浩二は亡くなったのだった。それが真一にとって浩二の最期の言葉だった。
そんな『最期の言葉』を浩二から言われた真一は、浩二が亡くなってから、恋愛には『興味をもたない』と心に誓ったのだった。しかし高校入学後、優香と再会し『友達以上恋人未満』の状態だった。そして真一は、そんな叔父の浩二の事があったから、恋愛に積極的にはなれなかったのだった。
真一(当時はやっぱり『叔父さんの事』が全く忘れられんかった。叔父さんが亡くなって、とてもやないけど恋愛には前向きになれんかった。『もう(恋愛に)興味をもたないでおこう』と…。誰もオレの気持ちなんてわかってくれん(くれない)から、オレだけの話にしたんや。しかし、この状態でどうやったら少しでも前向きになれたんやろか…。そういえば…、後に前向きになれたのは…)
そう、真一が間違いメールで出会った長野の夏美だった。夏美は真一がどれだけ断っても、夏美は真一のことを簡単に諦めず、1ヶ月以上、ほぼ毎日電話やメールで真一を説得していた。そして、真一が夏美のところへ『観光客』として長野へ会いに行った時のこと。夏美が真一に話したのだった。
(回想)
夏美「すぐに会えないのはわかってる。会うために時間もお金もかかるのもわかってる。それでも、しんちゃんが愛しいの。しんちゃんと一緒にいたいの。しんちゃんは優しいもん」
真一(確かその時にオレ、優香ちゃんと『腹を割って話した事』を思いだしたんやったっけ? それで当時のオレは、優香ちゃんの気持ちがその時にわかって…。優香ちゃんの気持ちを理解した上で、夏美の気持ちを汲んで、そして、オレが根負けして夏美と付き合うことになって…)
真一は、過去に夏美と交際するときのことを思い出していた。
真一(それからいったら、森岡が言うてたこともある意味あてはまるんやなぁ…。実際、後に優香ちゃんと『腹を割って』話した時、お互い『初恋の人』やったことがわかった。けどオレから見て、優香ちゃんの真意は当時半信半疑なところもあったのも事実や。ということは、優香ちゃんはあの当時、ホンマにオレのこと…)
真一は、いくら実際過去に終わった話でも、今回半年以上にわたって見た優香の夢は、このコロナ禍で自分の人生を振り返る時間だと思ったのだった。
真一(端から見たら『過去の失恋が尾を引いてる』って感じに思われるかもしれんが、それは違う。実際優香ちゃんとのことは歴史的事実であって、後悔もしていない。何せオレには、今、みつきという嫁がおる(居る)から…。過去は過去や。それにしては毎晩夢見せられてるんやけどなぁ…。この矛盾、どうにかならんもんなんか? いずれにせよ、ここまで来たら『乗りかかった舟』や。また優香ちゃんが夢に出てきたら、考えなしゃあない(仕方がない)か…)
浅田「あんた、真面目に考えたんや」
真一「あぁ。もうこんな夢も見たくないしなぁ…(笑) それに、オレの頭の中もおかしくなってきてたから…」
浅田「重症やなぁ…(笑) 叔父さんのことは、あんた自身は当事者やないから関係ないやんか。そんな深く考えることないやんか。あんたはあんたなんやから…。あんたは叔父さんのようなことをせんように(しないように)したらええだけやんか。叔父さんにも『オレみたいな男になったらアカン』って言われたんやろ? そんなこと言うてたら、そらぁ何もできん(できない)で』
真一「それはなぁ、そんだけ衝撃があったからや。当時はオレのこの気持ちなんか、誰もわかってくれん(くれない)から、『言うても無駄や』と…。だから、誰にも言わんかった。優香ちゃんやみんなの前では、のらりくらりとして逃げてた。現実逃避してたんや」
浅田「あんた、叔父さんが亡くなったことに相当ショックが大きかったんやなぁ…。それで、このあとどうなったん?」
真一「このあとか? このあとは……」
(回想)
そしてある日の夜、来るべき時が来た。
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