第31話 23年前の夢を見る真一…『真一と優香・夢の中で「腹を割って話す」』③

(回想・夢の中)

優香「確認したいことって、何?」

真一「前に聞いたことがあるけど、念押しで確認したいから、聞いてもいいか?」

優香「いいよ」

真一「うん…」



真一は少し間をおいてから、静かに優香に聞き始めた。



真一「いくつか確認したいことがあるんやけど…、一つ目は、アイツ(森岡)とはホンマにやり直さんのか?」

優香「うん、やり直さへん。それはないわ」

真一「未練は無いんやな?」

優香「無いよ」

真一「そうか…。二つ目。『新潟ここと大阪は遠い』んやな?」

優香「うん、遠いで」

真一「じゃあ、『新潟ここと福町、途中町、南町、北町も遠い』か? 直線距離にしたら、大阪とあんまり変わらんのやけど…」

優香「北町南町は近いで」

真一「なんで? 直線距離にしたら大阪と変わらんのに…?」

優香「北町南町は、お盆とお正月に私が北町の実家に帰るから。だから近いんや」

真一「ホンマに近いか? オレ、昨日福町から新潟ここに来たけど、途中休憩しながら車で7時間程かかったんやで」

優香「でも、近いもんは近いんや❗ 北町南町は近いんや❗」

真一「そうか…。大学行ったら、っとこ前が居てるんやで」

優香「大学には(好い人)おらんのや(いないの)❗」

真一「ホンマにそれでいいんか?」

優香「いいんや❗」



優香の意思は強かった。真一は23年前、一人で考えた結果、自分が前に出ず優香の将来のことを考えると、大学で『出会い』を見つけた方が得策と考え、結果『切ない話』となったのだった。しかしそれから23年が経った今、夢で当時の事を見るのが嫌だったので、話を『先送り』したのだった。



真一「…そうか。三つ目。『近所のお兄ちゃん』とはその後どうなんや? 連絡とってるの?」

優香「……………」

真一「好きなんやろ? 近所のお兄ちゃん…」

優香「……………」

真一「………?」



真一と優香の間に沈黙が続く。



真一「うまいこといってへんのか?」

優香「……………」

真一「ちょっと…、『近所のお兄ちゃん』のことは置いとくわ。そしたら…」



真一は、ついに夢の中で23年ぶりの『リベンジ』として、優香に話し始める。話し始めるにあたって、真一は例え夢の中でも『言い訳』と思われたくない為、優香にこう話し始めた。



真一「あのなぁ、今から長い『独り言』を話すわ。これはあくまでオレの『独り言』や。オレ自身に言い聞かせる為なんや。優香ちゃんに言うてるのではないので、それだけはわかってほしい」

優香「…わかった」



真一は大きく深呼吸をしてから、『独り言』を話し始めた。



真一「あのな、7月に優香ちゃんと電話で話したとき、優香ちゃんから『どうしたらいい?』って聞かれたんやな…」

優香「うん…」

真一「それで、あの電話から盆までずっと考えとった。盆に優香ちゃんと会ってても考えとった。けど実は、全く思いつかんかった。ヒントも探してた。『何か手がかりがないか?』と。けど(でも)オレ、アホやし無い知恵絞っても、全く思いつかんかった…」



優香は静かに真一の『独り言』を聞きながら見守っていた。



真一「盆休みに優香ちゃん達と『遠足』に行った時も『どうしたらいい?』の質問の答えを考えとった。『遠足』行ってて優香ちゃんとおったら(居たら)『何か見つかるかなぁ?』と思ってたんやけど…。結局、盆までに返事が出来んかった(出来なかった)。優香ちゃん、ホンマにゴメンな」

優香「ううん、しんちゃん、真剣に考えてくれてて、それでも見つからんかったんやから、仕方がないやん」

真一「おおきに(ありがとう)。盆休みの間、ずっと考えとったけど、ヒントになるもんすら見つからんかった。ヒントの『ヒント』になるもんも見つからんかった。途方に暮れとった」

優香「…………」

真一「この前、北町を車で走ってて信号待ちしてたら、歩道で幼稚園の子供と引率の先生が歩いているのを見かけて、そしたらオレらが通ってた幼稚園の看板を見たんや。もう無意識で幼稚園の駐車場に車を停めて、幼稚園の敷地内に入ったら不審者と思われるのもシャクやし、少し離れたところから幼稚園の園舎(校舎)を眺めたんや。そしたら、幼稚園の時、優香ちゃんと出会った時からほぼ順に優香ちゃんとの記憶が甦ったんや」

優香「そうなんや…」

真一「先生が『イスを1個とって、自分の席について』って言われて、イスを取りに行こうとしたら、オレの視界にイスも取りに行かんとしょんぼりしてる女の子を見てなぁ、『なんで?』って思ったら、体がもう勝手に動いてて、気がついたら、イスを2個とって1個をその女の子に渡したんや。そしたらその女の子、一転して満面の笑みを浮かべちゃったんや」

優香「うん…」

真一「それからは暗黙のルールみたいなもんで、オレがほぼ毎日イスを2つ取りに行って、女の子にイスを1個渡してたんや。たまにその子が、逆にオレの分までイスを取りに行ってくれたこともあった。『ありがとう』って言うたら、その女の子がまた満面の笑みを浮かべちゃったんや」

優香「うん…」

真一「それからは、園庭でかけっこするとき、背の低いもん順に男女一列ずつに並んで、オレのとなりにはその女の子、遠足とかの集合写真でオレのとなりにはその女の子、遠足においては一緒に弁当食ってたような記憶がある…」

優香「………」

真一「それが優香ちゃんやった。とにかくオレにはめっちゃ優しかった」

優香「よくそんな昔のこと、覚えてるね…」

真一「思い出したんや」

優香「そっかぁ…」

真一「それと2つ目。オレの事やで、他人に言うことやないから、詳しいことは口に出して言わんけど…」

優香「うん…」

真一「…オレ、昔『トラウマ』があってなぁ…」

優香「…………」

真一「どういうことかは、言いたくないのでここでも、どこでも誰にも絶対言わんけど、オレ、昔、とある『トラウマ』になって、恋愛には全く前向きになれんのや。高校の時、村田さんたちに『彼女見つけなアカン』とか説得されたことがあったけど、あの時は正直しんどかった。だから嫌々で話に乗ってた。村田さんにだいぶ説得されたから、そこまで言うのなら…と話に乗ったオレがアホやった。結局『興味ない』って言われて村田さんにフラれたんや。フラれたこと自体は気にしてない、どうでもよかった。それでオレ、帰りの電車で優香ちゃんに文句を言うたんや」

優香「そうやったんや…」

真一「もうあれでオレは益々、余計に恋愛には全く興味持たなくなった。『オレが言うてたのは間違ってなかった、立証された』と…。周りの者は『そんなことない、恋愛はええことや』とか言うてきてたけど、オレからしたら『オレの気持ちなんて、わかってへんくせに…。オレの気持ちなんか、そう簡単にわかられてたまるか❗』って思ってた」

優香「…………」

真一「だからオレ、恋愛はもうどうでもいいって思ってるんや」



優香がしょんぼりしている。



優香「…………」

真一「3つ目。この前のアイツ(森岡)や。アイツから優香ちゃんと別れた話を聞かされて、オレは優香ちゃんがアイツと別れたことそのものはどうでもよかった。その時まず一番に思ったのは、アイツと別れたゴールデンウィークからこれまで『優香ちゃんがひとりぼっちになってる』ことやった。幼稚園の時に見た『しょんぼり顔』が思い浮かんだんや。まぁ村田さん、滝川さん、加藤さんらと連絡は取り合ってるやろう…とは思ってたから、そこまで深刻には思ってなかったけど、ちょっと気がかりやった」

優香「そうやったんや…」

真一「その上で、優香ちゃんの『どうしたらいい?』や」

優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「私も『独り言』言うてもいい?」

真一「うん、かまへんで」

優香「……………」

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