第32話 23年前の夢を見る真一…『真一と優香・夢の中で「腹を割って話す」』④

(回想・夢の中)

優香「あのな、今しんちゃんの『独り言』聞いてて、私もあくまで自分に言い聞かせる為の『独り言』やと思ってほしいんやけどな…」

真一「うん…」



優香が深呼吸をする。



優香「私、高校の時にしんちゃんをだいぶ困らせてたんやなぁ…。ホンマにゴメン。しんちゃんの『独り言』聞いて、知らんこともあった。『私、何やってたんだろう?』って…。しんちゃんに『やきもち』妬かせようとしたら、それが仇になって、しんちゃんを余計に困らせてたなんて…。結局、森岡くんと付き合って、大学入ったら別れて…。森岡くんと付き合いだしてからは、しんちゃんが今までよりもかなり何も言わなくなってしまって…。昔のしんちゃんが見当たらなくなってしまって…。私、しんちゃんを幼稚園の時のしんちゃんに戻したかった。でも、しんちゃんが相当傷ついていて、私でも元に戻せなかった。森岡くんと付き合ったこと、後悔してる」

真一「……………」

優香「…私、いっつも(いつも)しんちゃんに見守られてたのに、新潟こっちに来て、森岡くんが何度か来てくれても嬉しくなかった。私の中で『真一くんに会いたい』気持ちがあったんや。でも高校卒業して、3月の末、私が新潟に行く前、つまり北町を出る前に帰りの電車で2度、しんちゃんに会ったとき、めっちゃ嬉しかった。安心したんや…」

真一「……………」

優香「こんな私でも、しんちゃんは私のこと気にかけてくれてた。森岡くんと付き合ってても、私の知らん所でも…。『さすがしんちゃん』って思った」

真一「……………」

優香「どんだけ勉強できて賢い人間よりも、人助けして気にかけてくれる人の方が賢いと思う。私にはそんなことできへん(できない)。幼稚園の時からずっと変わらんなぁ、真一くん」

真一「……………」

優香「『トラウマ』があったから、いつもの真一くんじゃなかったんや…。全然知らんかった。相当辛かったんやなぁ…。くーちゃん(村田)との(真一へ恋愛に興味もたせようと説得させた)ことは、私が悪いんや。あんなにしんちゃんを説得させて…。しんちゃん、しんどかったなぁ…。ホンマに私、何やってるんやろ…って。許してもらわれへんよね、こんな私って…。普通はそうやんなぁ(そうだよね)…。これだけ傷つけて、しんちゃんの気持ちも知らずに…」

真一「……………」

優香「私、どうかしてた。しんちゃんのこと幼稚園の時から知ってて、優しくて、真っ直ぐで、いっつも笑ってて、不器用で、鈍感で…。でもそれが、しんちゃんのいいとこやもんなぁ…。私、それを知ってるのに…」

真一「……………」

優香「こんな『恩を仇で返す』ようなことしてても、しんちゃんは今も私のこと、私が新潟ここにいるのに南町で気にかけてくれてた。ホンマに嬉しかった。ゴールデンウィークが過ぎてから『ひとりぼっち』になって、実感した。私にとって『真一くんの存在は大きい』って…」

真一「…………」

優香「しんちゃん、ホンマにゴメンね、ホンマにありがとう」

真一「あぁ…。オレを誰やと思ってんねん。幼なじみの真一くんやで」

優香「そうやな…(笑) しんちゃんから電話くれたときもめっちゃ嬉しかった。愚痴こぼしたハガキを送ったら、すぐに電話してくれて、『ひとりぼっち』でも少し安心した。でも電話やから、声しか聞こえへん(聞こえない)から、しんちゃんに会いたかった」

真一「そうか…」

優香「うん」

真一「なんでオレに会いたかったん?」

優香「しんちゃんやから(だから)や」

真一「なんでオレなん?」

優香「…『いつでも愚痴こぼしてくれたらいい』って、しんちゃんが私に言ってくれたから…」

真一「村田さんとかには愚痴こぼさへんのか?」

優香「しんちゃんだけや」

真一「そうか…。近所のお兄ちゃんには?」

優香「……………」



優香は『近所のお兄ちゃん』のことは何も話さない。それは23年前、実際『腹を割って』話したとき、『近所のお兄ちゃん』は真一のことだったからだ。それを真一は夢の中ではあえて優香に聞いたのだった。


真一と優香は、夢の中で『腹を割って』話し始めてから2時間が経過していた。



優香「なぁ、お腹空いた?」

真一「オレは大丈夫やで」

優香「私も大丈夫やで。もう少し話そ」

真一「うん…」

優香「でも、もっと遅くなるから、簡単に何か食べる?」

真一「それでもいいよ」

優香「じゃあレトルトのカレーでもいい?」

真一「いいよ」



真一と優香はレトルトカレーを食べて、昼食を簡単に済ませた。



優香「しんちゃん、話の続きしよっか?」

真一「うん…。しゃべり疲れてないか?」

優香「大丈夫。しんちゃんと久しぶりにいっぱい話せて嬉しいし、懐かしい(笑)」

真一「そうか…」

優香「うん…」

真一「これだけでもかなりしゃべってるけどなぁ…」

優香「幼稚園の時からずっとこんなふうに話してたんやもんね(笑)」

真一「そうやなぁ…。変わらんなぁ。変わったのは、優香ちゃんが『大人の女性』になったことかな…」

優香「そんなん、しんちゃんだって大人の男性になってるやんか。第一、働いてるんやから…。私なんてまだ大学生やで。遊んでるんやで」

真一「そんなことない。優香ちゃんは幼稚園の時からかわいいから、大学でも絶対、っとこ前が黙ってへんって」

優香「大学にはいないの」

真一「『北町南町』におる(居る)んやったな…」

優香「…うん。なぁ、しんちゃん」

真一「ん?」

優香「それで私はどうしたらいい?」

真一「……………」

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