第19話 23年前の夢を見る真一…『23年ぶりの「どうしたらいい?」』②
浅田「へぇー、腹を割って話したんや」
真一「当時は、優香さんがえらいオレのことを聞いてきたから、参ったわ」
浅田「『トラウマ』さえなければ、すんなり話は進んでたんやなぁ…」
真一「どうなんやろなぁ…。それで、実際はこの次の日に会って、断った…切ない話になるんやけど…」
真一は当時、翌日優香と会い、ずっと2人で『腹を割って』話していた。その時、優香は真一の『トラウマ』について真一に問いただしていた。真一は当時かなり困惑していた。しかし優香は、高校卒業前に養護教諭の大川先生から真一の『叔父さんの話』を真一に内緒で聞いていた為、真一の『トラウマ』を解かすことに躍起になっていた。
(回想)
優香「しんちゃん、言いづらいのはわかってるけど、どうして『興味ない』って言い続ける訳を教えて欲しい。私が聞くことやないのはわかってるけど、しんちゃん、今度は私がしんちゃんを助ける番やで」
真一「……………」
優香「何があったの?」
真一「……………」
………………………………………………
優香「私でも言えないこと?」
真一「………ゴメン」
優香「しんちゃん…何かトラウマになってるんやね…」
真一「……………」
優香「もう少し時間がいるなぁ…」
真一「オレのことはいいから、ええ加減、優香ちゃんの話聞くから…」
優香は真一の目を見て話し始めた。
優香「私な、森岡くんと付き合ったの、後悔してる」
真一「えっ? どないしたん(どうしたの)、急に?」
優香「…………」
真一「新潟で寂しかったんか?」
優香「………うん」
真一「………そうか」
優香「でも、しんちゃんに甘えたからもう大丈夫。私を誰やと思ってるん?」
真一「幼なじみの優香ちゃん」
優香「そこまで知ってたら、私はもう大丈夫やって❗」
真一「いや、意味がわからんし…(笑)」
優香「さっきも言ったけど、森岡くんと付き合ったのは後悔してる。新潟に行ってから、森岡くんは何度か来たけど、森岡くんはしんちゃんになれなかった。しんちゃんに会いたかった。電話くれたとき、めっちゃ嬉しかった。電話くれたとき、今すぐにでも新潟に来てほしかった。一緒に居たかった。しんちゃんに甘えたかった。初めての気持ちになった。」
真一「…そうか……」
優香「今度はしんちゃんが話す番やで」
真一「……………」
真一は目をつぶって心の中で考えていた。優香も黙って真一が話すのを待つ。
真一「……はぁ……」
優香「…しんちゃん」
優香はずっと真一の頭を撫でている。
優香「慌てなくていいよ。しんちゃんが落ち着くまで待ってるから…」
真一「優香ちゃん…」
優香「ん?」
真一「めっちゃ偏見かもしれん。言うたらアカンことかもしれん。優香ちゃんが怒ることかもしれん…。そんなんでもオレの話聞きたいか?」
優香「事情はどうであれ、私はしんちゃんの言葉で聞きたいよ」
真一「……………」
心の中で話す真一と優香。
真一(叔父さん、もうオレ、この場には耐えられん…。優香ちゃんと叔父さん、どっちかを選ぶことができない。優香ちゃんがどうしても聞いてくる。オレの為に考えて聞いてくる。ここまで親身になってくれる幼なじみはどこにもおらん。こんな男の為に必死で話してくれる優香ちゃんは、オレにはもったいないで…)
優香(しんちゃん…しんちゃんの言葉で『あの話』聞かせて。このままではしんちゃんはダメになっちゃう…)
真一「そんなにオレの話聞いて得することないで」
優香「損得の問題やないよ。私はただ、しんちゃんの心の奥の奥にある秘めた想いを聞きたいだけ。一番大切な幼なじみの話が聞きたいだけやで」
真一「………はぁ……」
優香「……落ち着いてからでいいから…」
真一「言いたくないんやけど…」
優香「……うん」
真一「それでも聞きたいんか?」
優香「…聞かせてくれへんかなぁ…」
真一「オレ…オレ…」
優香「しんちゃん…うん…」
真一「昔、叔父さんが高校時代好きな人がおって、その女は大学進学することになってて、叔父さんも同じ大学に進学したかったけど、ウチの婆さんに断られて、反対押しきって奨学金制度使って彼女と同じ大学進学したんやけど、子供作って双方の親にこっぴどく叱られて中絶させられたんや。けど、お互い愛し合ってるんやから引き裂くことはできんから、中絶を条件に結婚を許されたんや。2人の娘に恵まれたけど、叔父さんは就職しても人間関係で辞めての繰り返しで、北町に帰ってきて就職することにしちゃったんやけど、嫁に相談せずに決めて、当時叔父さんは『うつ』になってるのに、その嫁は『離婚』を決めたんや。それから叔父さんは金目の家財道具は全て嫁に持っていかれて『裸一貫』になってしもうて、酒に溺れる日々やった。そしてある日、叔父さんは車ごと海にダイブしたんや。叔父さんは死ぬ前にオレに『オレみたいな男になったらアカンぞ』って何度も何度も言ったのが最期の言葉やった。だから叔父さん見てたら、もう結婚も恋愛もできないと思ったんや。だったら初めから興味持たん(持たない)ことにしようと決めたんや…」
優香「そうやったんか…。…しんちゃん、よう教えてくれた。しんどかったなぁ…辛かったなぁ…。そんな事があったんや…。私とくーちゃん(村田)のことがあって余計に傷つけたなぁ…。ゴメンね、しんちゃんを苦しめて…ホンマにゴメンね。私が悪かったんや…。しんちゃんがこんなに苦しんでたなんて…。だから、恋愛もスキンシップもキスも◯◯チなことも、しんちゃんにとって辛かったんやなぁ…」
真一「もう、いいよ。オレはもう終わった人間やから…」
優香「終わってないよ、これからやで❗ もう誰とも恋はしない?」
真一「その前にオレ宛にそんな女の子はおらんわ」
優香「…しんちゃんのことが好きな人がいるよ、ここに…」
真一「えっ…」
優香「昔のしんちゃんみたいに素直な気持ちが聞きたい」
真一は目をつぶって心の中で考えていた。今の自分と優香との事、優香が新潟で、大学でこれから起こりうること、すべてのことを考えていた。『どうしたら優香が幸せになるのか?』、優香のこれからの事を真一は考えていた。『自分と一緒になることが優香がこれから先幸せになるのか?』も含めて、ずっと黙って考えていた。
優香「しんちゃん…」
真一「うん」
優香「まだ素直に答えられない? 時間がいるかなぁ?」
真一「少しだけ時間欲しいかな」
優香「うん、いいよ。待ってる」
優香は真一の左肩にひっついていた。
真一は心の中で整理していた。
真一(優香ちゃんが『盆と正月に帰ってくる』とはいえ、新潟にいると大学で絶対アプローチもされるし、断りきれなくなるのではないか? 優香ちゃん、美人やからなぁ…。それに『叔父さんと同じ轍を踏む』ことになってしまう。相当悩むなぁ…。『叔父さんの事』は優香ちゃんには関係ないけど、例え『叔父さん』のことが無かったとしても、遠距離になるし、森岡と同じ結果が出るのでは…。100歩譲って優香ちゃんが言うように『南町と新潟の距離が近い』として、盆と正月に帰ってくるとしても、そうなるとお互い『重荷』になるのでは? 加藤さんとこみたいに、ずっと近所とかなら問題ないけど、優香ちゃんの場合は、新潟やし、最低でもあと3年半ある。この3年半で優香ちゃんの新潟での生活環境はガラッと変わると思う…)
真一は、自分に言い聞かせるように優香に話した。
真一「優香ちゃん、あのな、オレ…」
優香「うん」
真一「…オレ…」
優香「うん、落ち着いてからでいいよ…」
真一「うん…。オレ…幼稚園に入園してイスを取りに行って優香ちゃんの分もとって優香ちゃんに渡したことって、覚えてるやんか?」
優香「覚えてるで」
真一「うん…」
優香「それで、イス取りに行ったのがどうしたん?」
真一「その時に優香ちゃんが満面の笑みを浮かべた話や。初めてその顔見たとき、『優香ちゃんって、笑ったらこんな顔をするんや』って思った。昨日も言うたけど、高校で再会して幼稚園の時と同じようにオレは過ごしてたんや。優香ちゃんとおって、優香ちゃんがそばにおるって言うのが当たり前なんやって思ってた。高校卒業して、優香ちゃんが新潟へ行ってからオレ、その当たり前やったのがなくなって、ポカーンと穴が開いた感じやったんや。当たり前やった日常やないって…」
優香「うん」
真一「それでオレ、優香ちゃんがおらんとアカンのやって思って…。オレ、幼稚園のあの時から優香ちゃんがずっと好きやった…」
優香「え❗ウソ?」
真一「うん…」
優香「そうやったんや…」
真一「高校で再会した時、忘れとったけど、わかったときは嬉しかったんや」
優香「うん…」
真一「それでな、本来やったら『付き合って欲しい』とか言う話になると思う。でもな、優香ちゃんはいま新潟(にいるん)や。ナンボ盆と正月に北町に帰るとはいえ、3年半の間に新潟での生活環境は今よりもガラッと変わるはずや。大学で絶対好い人はいるし、声もかけられる。なんせ優香ちゃんは美人やしなぁ。この間まで大阪と遠距離してて『飽きた、遠い』って言うてたんやから、その意見を尊重したいし、また南町と遠距離になったら、オレは優香ちゃんの重荷になってしまう。そやから、その事を言わせてもらいたかったんや…」
優香は泣いていた。
優香「しんちゃん……。そんなことまで考えてたん? 何でいっつも私とかみんなの事考えて、しんちゃんはしんちゃん自身のことを考えへん(考えない)の? 私もしんちゃんが幼稚園のイスの時からずっとずっと好きやった。私の初恋の人やった」
真一「そうやったんか…。ゴメンな、優香ちゃんの辛い気持ちもわかってる。オレも一緒や。辛い。ホンマに辛い。ゴメンな。オレ、不器用やし…。オレの事、キライになってくれ。でも幼なじみなのは変わらん。北町南町に戻ったら、優香ちゃんさえ良かったら声かけてやってくれ」
優香「しんちゃん…」
優香は号泣だった。真一は慰めてやることしかできなかった。真一も泣きたかった。かなり辛かった。でも、優香のこれからの事を考えると、真一は自分の身を引くしかなかった…と考えていたのだった。
真一「ホンマに不器用でゴメン。不器用はどないもならんのや…」
浅田「………ホンマ、久々に話聞いたけど、今でも切ないわ、この話」
真一「オレも正直なとこ、思い出したくないんや。夢で蒸し返されてるようなもんや」
浅田「けど、今年に入ってからほぼ毎日、あの人(優香)の夢を見て…なんやろ?(笑)」
真一「ホンマにこのコロナ禍、『どうなってんねん❗』って思ってるんや」
浅田「良い暇潰しになるんと違うか?(笑)」
真一「全然暇ちゃう(違う)し…」
浅田「(笑)」
真一「それでなぁ、この『トラウマ』のことで、ちょっとまた難儀なことになってなぁ…」
浅田「また夢の中で『人助け』ですか?(笑)」
真一「『人助け』ではないけど、あの『切ない話』をさすがに夢では見たくないので、『対策』を考えたんや」
浅田「対策?(笑)」
真一「そう。正確には『対策』というより、なんやろなぁ…、結果的に『再チャレンジ』みたいなもんかなぁ…」
浅田「再チャレンジ?」
真一「うん。もし、オレがあの時に『トラウマ』がありながらも、前向きに考えてたらどうなってたんやろなぁ…って思ったんや。けど、あくまで『その場しのぎ』なんやけどな…」
浅田「なるほど。そうやなぁ、すんなりうまいこといくのか、はたまた棘の道か…」
真一「それで、ずっと引っ掛かっていた事があって…」
浅田「なんや?」
真一「優香さんが言うてた『どうしたらいい?』や」
浅田「そんなん、あんたが言うたらエエだけのことやんか」
真一「それがなぁ…」
浅田「なんや、また夢の中で何かあったんか?」
真一「まぁ、そんなとこや…」
浅田「一筋縄ではいきませんなぁ…(笑)」
真一「…とりあえず、盆休み最終日の朝、オレが優香さんを北町の実家へ迎えに行ったとこからや…」
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