第16話 23年前の夢を見る真一…『優香の愛情』③

(回想・夢の中)

真一は村田から新潟の優香の連絡先を聞いて、電話をかけた。



優香「もしもし…」

真一「もしもし、南町ですが…」

優香「あ、久しぶり」

真一「どうや、元気で頑張ってるか?」

優香「うん、お陰さんで。元気してる?」

真一「まぁ、なんとか…。それよりなぁ、聞いたで。名前伏せるけど、アイツ(森岡)から。大変やったなぁ…」

優香「あ、うん」

真一「大丈夫か?」

優香「うん、大丈夫やで」

真一「2ヶ月程不安やなかったやろかと思って…」

優香「ありがとう。私はホンマに大丈夫やで」

真一「それなら良かったけど…」

優香「それよりどうしたん?」

真一「先週末、寺岡通じてアイツ(森岡)本人から電話あってな、『今すぐ高校来い。大阪まで送れ』って。オレ昼寝しとったところを起こされて機嫌悪かって…。で、高校へ迎えに行って『車乗れ。大阪まで送ったる。どうせまた新潟行かんなんやろ?』って言うたらアイツ(森岡)が『その必要はなくなった』って言うねん」

優香「そうやったんかぁ…」

真一「大阪着くまで4時間程、ずーっとえらい未練タラタラ言うてたで(笑)」

優香「そうなん?」

真一「何があったんか、オレはあえて聞かんことにするわ。アイツ、オレに『あとはお前に任せた』とかなんとか言うてたなぁ…」

優香「そうなんや…」

真一「いやそれでな、先週アイツと村田さんからな『近々、優香さんから手紙来るから』って言われたんやけど、1週間経っても来ないので、もうどうせなら直接聞いた方がええと思って、村田さんにこの電話番号教えてもらったんや」

優香「うん」

真一「で、手紙の内容って何やったん?」

優香「え、手紙って何?」

真一「いや、村田さんとアイツが『優香ちゃんからオレ宛に手紙が送られてくる』って聞いたから、手紙の内容なんやった?」

優香「手紙送るなんて言うてないで」

真一「え? 何それ…」

優香「なんやわからんけど、ええわ。書くわ」

真一「え、うん…」


やはり森岡と村田がウソをついていた。


優香「それより、仕事頑張ってる?」

真一「まぁ、何とか…」

優香「しんどい?」

真一「しんどいけど仕方ない。仕事やから…」

優香「そっかぁ…」

真一「優香ちゃんはどうなんや?」

優香「私? 私は遊んでるなぁ(笑)」

真一「ええなぁ。オレも遊びたいわ。そっち(新潟)は日本海側、海の物もあるからうまいもんがいっぱいなんやろなぁ…」

優香「こっち来たら? 遊びにおいでよ」

真一「ええなぁ…。でも遠いやんか(笑)」

優香「車飛ばして6時間位やって」

真一「簡単に言うけど、なかなか遠いやんか(笑)」

優香「大丈夫やって、真一くんなら」

真一「時間あったらな…」

優香「うん…」

真一「なぁ、また電話してもええか?」

優香「うん。待ってる」

真一「わかった。ありがとう」

優香「ううん、こちらこそ心配してくれて電話ありがとう」

真一「あぁ…」

優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「久しぶりにしんちゃんの声が聞けて良かった」

真一「そうか…。あ、オレいま携帯電話からかけてるんや。オレ携帯電話持ってるから…」


真一は優香に自分の携帯電話の番号を教えた。真一と優香は3月に優香が新潟へ行く直前に会って以降、4ヶ月ぶりに電話で話したのだった。


真一は村田と森岡が『手紙』のウソをなぜ言ったのか、なんとなくわかった気がした。森岡が優香と別れたので、真一と急接近させようという魂胆だったのかもしれない。












浅田「そうなんや。結局(優香に)電話したんや(笑)」

真一「もう、痺れきらしてなぁ…。まぁ、村田さんとかと連絡取り合ってたやろし、大丈夫やとは思ってたけど…」

浅田「それでもアイツら(森岡・村田)に言われたから(手紙来るのを)待ったんや(笑)」

真一「半信半疑でな…」

浅田「で、手紙がんから電話して、結局手紙出す予定なかったけど、『手紙出すわ』って言われたんや…」

真一「うん…」

浅田「手紙来たんやろ?」

真一「すぐ来たで」

浅田「(笑)…」







(回想・夢の中)

この電話から2日後、真一宛に優香から手紙が届いた。



『この前は電話ありがとう。久しぶりに声が聞けてうれしかったよ』

『ところで、元気でやっておるかね“しんちゃん”よ❗ 私は元気だよ。心配させてゴメンね』


と、電話で話したので、明るい内容の手紙に久々の優香からの言葉に安堵した真一だった。

真一は返事を出すことにした。

不器用な真一は、手紙を書くが便箋がすぐに見つからないことと、地元の情報も入れる思いも込めて、新聞の折り込みチラシの後ろの白紙や高校時代の手伝いで使用していた裏紙のメモ用紙を便箋がわりにしていた。

真一は優香に宛てた手紙に想いを綴った。


『この間は急に電話してゴメン。けど久しぶりに元気そうな声が聞けてよかったわ。アイツ(森岡)と村田さんが(手紙のことを)言っていたのは一体何だったのか、ようわからんけど…。また何かあったら遠慮なく南町に連絡ください。くれぐれも“自分で何とかしよう”と自分で抱え込まないで、困ったらすぐに誰でもいいので声かけてな。もちろん、オレでもいいし。愚痴くらいならナンボでも聞くし❗』


これ以降、真一と優香は文通を始めた。


ある時の優香からのハガキには、


『大学の人とかと話すのはちょっと緊張するけど、しんちゃんとやったら全然話しやすいわ。このハガキなんかでも、話し言葉を書いてるから楽や(笑)』


とか、真一の手紙には、


『この間、朝、会社の事務所で電話が鳴って、営業の金田さん宛に3番に電話や…って言われて、電話機の3番を押したつもりが、3番の上の8番を押しちゃって、8番は倉庫への放送用なんやけど、金田さんが8番押したもんやから、倉庫に“あ、もし…もし…もしもし? あれ…聞こえへんで、ええっ”って言うちゃったのが丸聞こえで、みんな外でラジオ体操してる時で爆笑した』


と、エピソードを綴った。


真一と優香はハガキ・手紙の最後に名前を書いていたが、真一は◯の中に『し』と書いて送っていた。『真一』という意味だ。優香も同じように□(四角)の中に『ゆ』と書いて送っていた。『優香』という意味だ。


ある時、優香から真一宛にいつもならハガキなのに、手紙が届いた。手紙の入ったその封筒には封筒の表に住所と『堀川真一様』が表面いっぱいの大きな字で書かれてあり、一番下には


『どうだー恥ずかしいだろうーフッフッフッー』


と書かれてあり、裏面には差出人・優香の名前と住所が小さな字で書いてあった。その下には『かかって来い❗』と挑発していた。

封筒の中身の手紙には『どうだー恥ずかしいだろう❗ 郵便局の配達の人もどう思ってるだろうねえ(笑) しんちゃんの名前がデカデカと書いてあるから、うわぁー恥ずかしい(笑)』とも書いてあった。


これには真一も火がついた。

真一は自分の部屋にこもり、机の引き出しを開け、封筒を探す。長4サイズの青い封筒を見つけた真一は横向きで封筒の上3分の1に新潟の住所を、残りの下全部に『加島優香様』と黒の極太マーカーで書いた。封筒の後ろには差出人・真一の名前と住所は小さな字を書き、その下には『これでどうだー❗ もっと恥ずかしいだろう❗』


と優香の挑発を返したのだった。

中身の手紙には、何事もなかったように近況報告を書いていた。


その3日後、優香からハガキが届く。


『もう、あれはアカンわー。なんで極太マーカーなん? 極太で書いてあるやん❗ めっちゃ恥ずかしいわぁ。もうヤメよな(笑) で、中身の手紙は普通に近況報告って…。考えとったやろ?(笑)』


と今回は優香が降参しながらも楽しんでたようだった。



ある日、真一が仕事から帰ると、優香からのハガキが2枚届いていた。

これまで、優香から届いたハガキには蛍光ペンで『S』や『N』の文字が文面のバックに書かれてあり、真一が『これは何か意味あるの?』と手紙に書いて聞いていた。

すると、1枚目のハガキに優香からの返事が書いてあった。


『あれはね、全部並べると“SHINCHAN(しんちゃん)”になる予定やったけど、“恋人ちっく”なのでやめました』


と書いてあった。


真一「マメやなぁ…。さすが器用な優香ちゃんや。でも、ロマンチックは聞いたことあるけど『恋人ちっく』て…(笑)」


2枚目の優香からのハガキにはこう書いてあった。


『この間、電話で親から小言を言われた。大学の吹奏楽のサークルで、練習が上手くできなくて先輩に少し怒られた。帰ってから1人で泣いてしまいました…』


と辛い話が書いてあった。真一は初めて優香の弱い部分を目の当たりにした。優香は素直に真一に話したのだった。文面をみる限り、森岡と別れてから1人の優香なので、不安なのだろう…と思った真一だった。


真一「電話したらなアカンかな…?」


風呂から上がり夕食を食べた真一は、少し遅めに新潟の優香に電話してみた。


優香「(元気ない声で)もしもし…」

真一「あ、南町ですが…」

優香「あ、しんちゃん。どうしたん?」

真一「泣いてた?」

優香「……………」

真一「ハガキ2枚届いて見たで」

優香「…うん」

真一「1枚目と2枚目の内容が極端すぎて…」

優香「うん。1枚目で終わるつもりやって、出そうとしたときに2枚目の内容が…」

真一「そうやったんや…」

優香「なぁ、しんちゃん」

真一「ん?」

優香「私、いま勉強というかレポートやってて、終わったら話したい。夜中になると思うけど…」

真一「あぁ、かまへんで。携帯電話の電源は入ったままやし、明日土曜日は仕事休みやから、夜更かしは大丈夫やで。寝てても着信音なるようにしておくわ」

優香「ゴメンね」

真一「かまへんで」











浅田「ハガキ見て、電話したんや」

真一「うん…。体が勝手に電話かけてたわ。その事覚えてるわ」

浅田「あ、そう。なんやかんや言うて、あんたも気にかけてたんやな」

真一「拓(森岡)と別れてから、新潟で一人ぼっちやったからなぁ…」

浅田「さすが幼なじみやな…」

真一「さぁ、それでや…」

浅田「ほう」

真一「ここから話がなぁ…」

浅田「何があったんや?」

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