登場人物紹介


〇ジークレット・デ・ヴァイオ

二章終了現在、十一歳


この物語の語り部。周囲からタルクウィニアの落とし子と期待されるヴァイオ家の長子。先天的に魔力を持たない体質だったために、生まれてすぐセルモンドの別荘に放置された。自己肯定感がゴミクズ。

好きなもの、女体、人の情緒、パン、お絵かき。

嫌いなもの、怒っている声や表情、常に不機嫌なひと、私。


生前からそこそこ頭の回転が早い程度にしか思っていないが、脳の出来は実際人より優秀であり、そのせいで良い子を演じぬいてしまった。でなければ偏差値七十超えの高校になど受からない。記憶力も良く、物事をまとめたり要約するのが得意な文系。なによりも観察力に長け、それ故に人の機微に敏感。

頭の出来が一般的であれば幼い頃にきちんと叱られ、違う性格になっていたかもしれない。


本人は自覚していないがその心は非常に繊細で、そこから覗くどこか危うい様が、女たちに「私がそばにいてあげないと!」と思わせている。女であるが典型的なダメンズであり、ダメンズ好きのお姉さんたちには堪らない蜜である。


最近、前世で当たり前だった生理用品の偉大さを実感した。


『タルクウィニア様、早いところナプキンの落とし子を呼んでください。マジで、頼む』



〇ナーシャ・ドルマシク

二章終了現在、二十九歳


なんと、初登場時点で十八歳だった乳母のお姉さん。

十四で結婚して、すぐに娘を妊娠。しかし、翌年すぐに旦那が死去。十五歳にして未亡人という、もはや未亡人の運命を背負って生まれてきたみたいな女。薄幸美人といえばこの人。


夫が死去してから義父母の好意で男爵家の籍を残してもらっていたが、恋愛結婚でもなく、言ってしまえば他人の家なので気まずさしかなかった。ただ、好意と善意であることには違いなく、「実家に帰ります」を切り出せなかった。

亡き夫の家は気まずさマックスであれどレーナはまだ幼く、他家へ使用人に出ることも出来ない。ヴァイオ家ジークレット嬢の乳母に選ばれたのは非常に僥倖であった。


レーナの卒乳が遅くて本当に良かった。乳首から血が出ても耐えた甲斐がありました。


ジークレットにたいしては子への愛情というよりも、どこか崇拝に近いものがある。本人は赤ん坊を演じていたが、さすがに三十路の大人がベイビーをやるのには無理があった。赤ん坊に宿った神様を世話している気分だったらしい。


レーナの吸引器かと思うほどの授乳のせいで、乳首がとれる夢を三日連続でみたことがある。


『ジークレット様ははむはむしていらっしゃいましたね。お可愛らしかったです』



〇なかなか卒乳できなかったレーナ・ドルマシクちゃん

二章終了現在、十五歳


四歳まで卒乳できなかった魔王ちゃん。頭の出来はよろしくないようで、どうにもシナプスが繋がらない。思ったことをスムーズに適した語彙で口にすることがとても困難。だからこそ幼かった頃、その感情を整理するためにママのおっぱいが必要だった。悲しいときも、怒ったときも、寂しいときも、言葉にできないからおっぱいを吸ったのです!

ジークレットに初めて指を握られたその日に卒乳して、ナーシャを戸惑わせた。姉としての自覚が……?とナーシャは思ったが、レーナとしては「たいへん!れーなはあかちゃんじゃない!」と思っただけ。


好きなもの、あまーいポリッジ、お姫様と騎士様の童話、ママ、ジータ様が絵を描いているときの背中。

嫌いなもの、おじいさま、算学、文語学、おじいさま、礼儀作法、おじいさま、野菜、おじいさま。


ときおり見る不思議な夢は自分の前世なのだと信じて疑わない。成長するにつれて、夢の“前世”も成長しているような気がする。気のせいかもしれない。わかんない。でも、うーん。

塗料で悩んでいるジークレットに本当は自分が一番力になりたかった。いつか自分の作った白石粉で絵を描いてほしい。


『レーナ!土魔法の練習したら片付けなさいっていつも言っているでしょう!もう子どもじゃないのに、いつまでこんなことを言わせるつもりなの!』

『ごめんなさーい!』



〇デルフィナ・ソルマト

二章終了現在、二十九歳


ナーシャと同い年の漢前姐さん。粗相した弟子は容赦なく怒鳴るし殴る。けど、それとは関係なく可愛いものが大好き。本当はぬいぐるみとか超好き。お花とか、モフモフの動物も大好き。


三歳の時から木彫師の父に師事し、三十を前にして彫刻歴は二十五年を超えている。最近白石で食器を作り始め、これによってボロ儲けしているらしい。


七歳のダルドが父の工房へ見学に来たことで人生が変わった。なんと父親以上に年が離れているオッサンに口説かれはじめたのである。その名もハルクレッド、当時三十七歳。最終的に結婚したが、恋愛関係というよりももはや親子関係である。

『というかさ、アタシよりもオヤジのほうがハルクレッドと歳近いんだよ。仲良くてなによりさね』


ハルクレッドは旦那というよりふたりめのオヤジだし、ダルドは息子というより職人仲間であり友人。こんな凶悪犯みたいな顔した息子を産んだ覚えはない。

ハルクレッドによる三年間の猛アタックに絆されて結婚した。と表向きには言っているが、正直面倒になった側面のほうが大きい。婚期逃したし、オヤジはダルドのこと気に入ってるし、ハルクレッドも悪い男じゃないし……まぁいいか。


ハルクレッドに恋はしていないが、家族の情はある。ダルドを息子とは思っていないが、家族の情はある。

ジークレットは知らない。デルフィナとジークレットが関係をもつことに対して、ハルクレッドが喜んで許可したことを。


年下の女にコロッと落ちた女代表。

自分でも驚くほどジークレットを気に入っているし、べた惚れしている自覚もある。けれど、ハルクレッドと自分以上の歳の差なのでとても気にしている。落としたい、けど歳の差が気になる。そんなお年頃。


最近の悩みは、レフロランの花輪づくりを教えてほしいと未だに言い出せないこと。


『だってアタシが花冠とか似合わねぇだろ!うるせぇバカ弟子!さわんな!』


ライバルはナーシャ。



〇ハルクレッド・ソルマト

二章終了現在、四十六歳


作麼生、いかがお考えですかな?ふはははは!

最初の結婚は二十六歳、同じ神官だった女が相手。ダルドが四つのときに妻が死去。

洗礼を終えたダルドが木彫を習いたいと言うので、ソルマト木工房に連れて行った。そこで出会った工房主の娘に一目惚れ。三年かけた猛アタックの末、再婚。ただし惚れさせることには失敗して、残念ながらふたりめのお父さんにしかなれなかった。

『良いのですよ!デルフィナの顔が好みですから!ふはははは』


顔が派手な女が好き。というか女が好き。すっごく女が好き。三度の飯より女が好き。

本編では「教え導く者ですから」みたいな顔をしているが、しょっちゅう川を渡って娼館に通っている。ジークレットには隠されているが、みーんな知ってる。


ジークレットの怠惰癖と保身癖を早い段階で見抜き、宿題や課題を出すことはしなかった。マリピエーロの神話で語られるように恐ろしいまでの賢さがあると分かっていたが、同時に、その知性で名をあげるとは微塵も思っていなかった。ジークレットが絵を描き始めたときに納得したし、自分は間違えていなかったと大騒ぎをした。結果、デルフィナにすごい怒られた。


女好きのハルクレッドは知っている。ジークレットみたいなやつはモテるのだと。


『ああいう影のある男は危険ですな。ちょっとでも仲を深めようものなら、女がずぶずぶハマっていくのですよ。まぁ、ジークレット様は女性ですが。ふははは!』



〇ダルド・ソルマト

二章終了現在、十九歳


驚異の十九歳。三十五歳にしか見えない十九歳。しかも二児の父。

厳つい見た目のわりに、細かく繊細な彫刻をする木彫師。しかし構図は男らしくダイナミックに大胆で、繊細でありながら荒々しい作品を手掛ける。ダルドの木彫は男連中にとても人気がある。

デルフィナの父、ソルマト親方のお気に入りで、デルフィナが「工房はダルドに譲ってくれ」と言い出したとき、一切反対されなかったらしい。本人の与り知らぬところで話が進み、寝て起きたら親方になっていた男。


成人の儀のときにはしゃぎすぎて、ソン・ザーニャに頭から落っこちた。そのときに顔面をザックリ切ってしまい、消えない傷が残った。ちなみに、このとき介抱してくれた同い年の女と結婚した。


上半身に布をまとうともぞもぞして気持ち悪いので、貴族への納品時など、どうしてもという時以外は上半身ハダカ。自分の姿を見てジークレットが引かなかったので、大丈夫だと思ってヴァイオ家へも半裸で行った。

ジークレットが内心でドン引いていたことは永遠に隠される。


スキンヘッドなのは髪を洗うのが面倒だから。口髭は格好いいから。娘には不評。


『ぱぱ、おひげいたい!ぱぱ、きらーい!ままー!ままがいいー!』



〇カルロッタ・デ・ヴァイオ

二章終了現在、二十五歳


サゼロ侯爵家のお嬢さん。サゼロの家は兄が継ぐので嫁にでた。優秀な女ではなかったが、見た目が良くて礼儀作法だけ完璧だった。

サゼロの子どもたちは冬になると雪遊びをし、夏は野山で駆け回る。お淑やかなお嬢さんに見せかけて、意外と活発で身体が頑丈。子どもを生むまで風邪を引いたことがなかった。


ジークレットの出産を終えて落ち着いた頃に、すぐ弟を妊娠。さらに双子を出産したが、産後の肥立ちが悪く、ジークレットに会いに行くことが叶わなかった。

長男と双子は夫の実家、というより姑にとられてしまって、あまり自分の手で育てられていない。三人は義母に懐き、姑に何を吹き込まれたのか、ときおりカルロッタを軽んじるような発言をする。


結婚してから七年ほど心を病んでいたが、ジークレットと文通を交わす中で少しずつ持ち直した。悲劇の女。


『あの、いつもごめんなさいね……お義母様が戻る前に、ジータへの手紙だけ急いで出してもらえる?ええ、花も。ありがとう、お願いしますね』



〇コルシーニ・デ・ヴァイオ

二章終了現在、二十七歳


ヴァイオ家のひとり息子で、すべてにおいてそこそこ優秀な子どもだった。言い換えれば器用貧乏。突出するところもない、まあまあな子ども時代といえる。

すこし神経質な気があるものの、別段変わったこともなかった。はずだった。


兄と慕っている幼馴染が実家の商家で大成功をおさめたことが、人生の転換期だった。幼馴染が「コルシーニのためになるなら」と迷わずヴァイオ家に降ったことで、ヴァイオ家は大商家を傘下にいれた。それをコルシーニの功績だと母が操作したことと、当時の当主(コルシーニの父)が体調を崩したことが重なり、若くして当主の座を継ぐことになった。

爵位継承後に父の体調は戻ったが、補佐されているとはいえ、十代で継いだ当主のプレッシャーは重く、周囲からの期待も大きい。長子が魔力なしだったことから、少しずつ性格にトゲが見え始めた。


両親の期待に応えねば、必ずヴァイオ家を大きくしなければ、今度こそ幼馴染の手柄を借りずに自分の力で功績を打ち立てねば……


その思いに蝕まれ、今では立派な潔癖症である。強迫性障害ともいう。


『おい、おい!石鹸を買ってこいと言っただろう!ストックがもうないんだ!』



〇アーレスト・ガラ・セルモンド

二章終了現在、三十二歳


前当主であった父が病で死去したため、爵位を継承したセルモンド本家の当主。

弟よりも早く結婚したのに自分の妻はなかなか妊娠せず、周囲から“種無し”だと陰口をたたかれていると思い込んでいた、クソほどに面倒くさい男。幸いなことに子どもをなせる体質で、妻は無事に妊娠出産。子を授かったのがアーレスト基準では遅かったので、ひとり娘を溺愛している。


非常に憶病であり、それでいてプライドがエベレスト。常に自分が上に立っていないと怖くて怖くて仕方ないのである。『ま、また私のことを馬鹿にしやがって!』ガオー!と牙をむくウサギくん。


すぐ怒るし、すぐ怒鳴るし、すぐに人のことを見下す。十歳のデビュタントで出会った某伯爵家の女の子をダンスに誘った際、「アーレスト様って威張りん坊なんですもの。お断りします!」と言われて、威張りん坊のガラスハートは傷だらけになった。

ちなみにその子と結婚した。最近の悩みは薄くなりつつある頭頂部。


『ほう……なるほど、そのオイルが頭皮に良いのだな……うむ、いくつか見繕ってくれ。あ、おい、くれぐれも内密に頼む』



〇エルネスタ・ガラ・セルモンド

二章終了現在、七歳


我がまま令嬢。けして悪い子ではない。ちょっと甘やかされて育っただけ。ちょっと自己愛が強いだけ、ちょっと押し付けがましいだけ。

エルネスタ様は高笑いがお好き。七歳にして高笑いがお好き。


『アタクシは世界で一番かわいいのよ!だってパパがそう言ったもの!ねぇ、あなたもそう思わない?』


セルモンド家の象徴とも言えるくすんだ金髪は、お嬢様にはタルクウィニアの稲穂色と同色に見える。鏡が悪い。鏡の質が悪いのが悪い。


『ンフフフ、職人がアタクシのためにって作ってくれたのよ!このパン皿のタルクウィニアったら、まるでアタクシの髪色と同じと思いませんこと?あら、もしかして職人はアタクシの髪をイメージしたのかしら!ねぇ、あなたもそう思わない?』


最近の悩みは、自分の美しさに気が引けて友だちが遊びに来なくなったこと。みんな揃いも揃って、お嬢様の美貌に嫉妬しているのでしょう。きっとそうに違いありません。


『つまらないわ、パパ!……ねぇ、アタクシが悪いのかしら、ぐすっ』


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