第22話 第二夜~開戦

 ――午前零時三分


 白い謎の空間に吸い込まれ、一瞬の間を経て、視界は元に戻った。今のは……。

オレは辺りを見渡すが、ボスやステラたちがいないどころか、風景そのものが様変わりしていた。おそらく、ここは……島の反対側か。目の前に見える発電施設から、それを確信する。


 すると、タイミングよく支給された通信機から声が聞こえてくる。


《永遠君、大丈夫!》


「……ええ、問題ありません。どうやら、移動させられただけのようです」


 瞬間移動テレポートって奴なのかもな。現状から考えるに、オレを突き飛ばした男が、件の力を持っているのだろう。


《それで、これからなんだけど……》


「分かっています。取り合えず、ここから離れますね」


《ちょっと待――》


 オレが飛行場の方へ足を踏み出そうとした瞬間、空から勢いよく何かが降ってきた。


「なんだ!」


「なんだ……とは失礼じゃない? 急いで駆け付けた護衛に対して」


 聞き覚えのある声に、見覚えのある金髪、正真正銘ステラだ。おそらく、菜月さんが作戦会議で貰った機器を通して、場所を教えてくれたのだろう。何かぶつぶつと話しているのが、その証拠だ。


「護衛なら、刺客と間違われる登場しないでくれよ」


「そこは我慢しなさい。私だって、あまり余裕があるわけじゃないの……よ」


 力んで発した言葉と共に、ステラは右手を前方へとかざす。疑問に思い、その方向へと体を向けると、青白い光線がオレたちを呑み込まんと、高速で接近してきていた。膨大な力に当てられ、思わず身を強張らせる。


 しかし、謎の光線はオレに当たることはなく、ほんの一メートルほど手前で、見えない壁に激突したように静止する。後ろのステラから、膨れ上がる力の奔流を感じた瞬間、バチバチと青い火花をまき散らし、その存在は掻き消えた。


「流石ですね。今のを難なく防ぐとは」


 凛とした少女の声が響き、三人の人間が姿を現した。奴らは飛行場で見た銀髪の双子、もう一人はオレをここに飛ばした軍服の男か。


「どうってことないわ、この程度。日常茶飯事だもの」


 先ほどの巨大な閃光を前にしても、彼女の余裕は崩れない。本当に頼もしい限りだ。


「そうですか……。では、その日常のぬるさを教えてあげますよ。ガンマ!」


「ハイハイ」


 ガンマと呼ばれた少年は無造作に、右手をオレの方へかざす。何をしてくる……。緊迫した空気が、オレとステラを包み込む。ごくりと喉を鳴らし、少年の方を注視していると――目の前を青い何かが覆った。


 不味い。その強いエネルギーを発する青い壁から逃れようとするが、周囲すべてを半球状に、薄く発光する障壁で包み込まれていた。Eコードでどうにかできるか……。オレは一か八か、出現した壁に手を伸ばす。だが、オレが能力を使う前に障壁はひび割れ始める。ステラか!


「永遠クン、大丈夫!」


 少し焦りを滲ませた声が、崩れた青い障壁の向こうから聞こえてくる。壊れた壁の隙間を抜けると、再び莫大なエネルギーの波動を、真正面から受け止めていた。


「まだまだ、これからが本番ですよ」


 砕けた青い破片が飛び散る中、細く圧縮された光線がオレへと放たれるのが見える。このままだと空中の欠片にぶつかるが……。しかし、オレの予想は覆され、通り道に何もないかのようにその攻撃は飛来する。


 これは反応できない! 必死に身を捻ろうとするが、このままでは右半身に直撃だ。恐怖と緊張に苛まれ、冷や汗が額を濡らすのを感じた。だが、光線の軌道が目の前でねじ曲がり、上空へと消えていく。


「心配しないでいいわよ。そこに居てくれれば私が守るから!」


 こちらを見ることなく、力強い宣言が聞こえてくる。情けなさに歯を食いしばりながらも、オレは前を向き、敵の様子を伺う。


「おいおい、ベータ。分かってるよな? 俺らの目的」


「分かってます。でも、今はこれが最善でしょう。文句があるなら、あなたはあなたの役目を果たしてください」


「ボクも同意見ですよ、亡霊さん。チャンスは作ってあげますから――お願いしますよ」


 細められた瞼の隙間から赤みがかった瞳がのぞき、言葉も相まって威圧感を放っている。


「おー、こわ。じゃあ、化け物の相手は怪物双子に任せて、俺は手早くお暇させてもらうわ」


 なるほど。会話から察するに、奴らの狙いは……オレの生け捕りか。妥当なところだな。ちらりとステラの方を見るが、今も降り注ぐ光線の捌くので手一杯になっている。本来なら、ゴリ押しで何とかなるんだろうが、枷の存在か邪魔になっているな。ならば、今のオレに出来ることはこれしかない!


 オレは放たれる青白い光へと、迷わず突っ込んで行く。攻撃を行っている少女はもちろん、ステラも目を見開いている。そして、彼女へと『こっちに構うな』、そんな意図を込めた視線を送る。


 駆ける足を止めず、眩い閃光へと向かう。案の定、ベータと呼ばれていた少女は、慌てて軌道を変えた。殺すわけにはいかないもんな。しかし、甘い制御のせいか、うねる光に右肩は抉られ、耳元を掠める。焼けるような痛みが思考を支配しようとするが、すぐさま左手で右肩を握り、修復する。


「無茶するわね……。でも、よくやったわ」


 痛みを許容した甲斐があった。オレは刹那の隙を狙って放たれた衝撃波を、横目で見ながらそう思う。アスファルトの道路は余波で粉砕され、灰色の塵が巻き上がっている。確実に仕留めたはずだ。だが、一つ当てが外れた。瞬間移動できる男が、肩を焼かれた隙を狙ってくると思ったんだが。嫌な不信を積もらせながら煙が晴れるのを待っていると、再び白の世界へと誘われていた。

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