第6話 依頼と告白

 黒い弾丸がオレへと迫る。意識だけが引き延ばされたように、その歩みはひどくゆっくりだ。このままでは当たる! 分かっているが、銃弾より早く動くける超人のような身体能力は持っていない。だが、避ける必要もないことは分かっている。それでも……怖いものは怖いな。オレは歯を食いしばり、薄目で自分に迫る凶弾を眺めていた。


 その銃弾は予想通り、オレの額の前でぴたりと止まる。誰がやったかは分かっている、ステラだ。彼女が念動力で、見事螺旋状に回転する流線形の弾を、食い止めたのだ。


「……これはどういうことかしら?」


 少女は、半眼で東さんを睨みつける。その圧力は野生の獣の比ではない。しかし、当のボスは豪快な笑みを浮かべていた。


「どうもこうも、これがプレゼントさ。それもトビキリのな」


「……力の証明が私への贈り物というわけね」


「そうだとも。永遠はまだ、ステラちゃんの力の凄さをよく分かってないだろうからな。これで君への『信頼』ってやつも簡単に築かれるだろ?」


「理解はできるわ。でも、共感はしかねる」


「何故だ? 俺はステラちゃんを信頼して撃ったんだぜ? 絶対に銃の弾を止められるってな」


「確かに、普通の銃弾なら何万発撃たれようと、ものの数ではないわ。でも、これは違う」


 オレの目の前で止まっていた黒い弾丸が、まるで引力によって引き寄せられるように、彼女の手のひら目掛けて飛んでいく。少女はそれを見もせずに、難なく受け止めた。


「AP鉱石から作られた弾は、超常的な能力を弱める力を持つわ。特に私のような、物に直接干渉するタイプの能力者は影響を受けやすい。だから……」


「防げなかったかもしれないって? 冗談よせよ。このサイズの鉱石が発する妨害波なんて君にはあってないようなもんだろ。それにもしその万が一が起きるようならステラちゃん……君はどうせ永遠を守れない」


 一瞬、発せられていた圧力がさらに強くなる。その余波を受けたせいか、部屋を覆う窓の一部に亀裂が走る。


 彼女から溢れ出している莫大なエネルギーに、思わず息を呑んだ。ここまでか……。生き物としての格の違いを感じるな。だが、何が気に障ったのだろう。ボスの軽い煽りが、そこまで不快だったのか? まあ、考えてもどうせ分からない。オレはとりあえず成り行きを見守るとしよう。


「どうした? 癇に障るようなことは、言ったつもりないんだがな」


 ニヤニヤしながら、東さんはそう言った。ほんと、この人は煽り性能が高いな。しかし、これ以上彼女は怒らせたら、この部屋ごと吹き飛ばされるんじゃないか?


「……そうね。あなたの言う通りだわ。気にするほどのことじゃなかった。忘れてちょうだい」


 予想に反し、彼女は自らの矛を収めた。助かったが、性格的に、大人しく引き下がるとは思えなかったんだがな。


「そうかそうか。ま、取り合えず……永遠、ヒビが入った窓を直してくれ」


「了解」


 オレは壊れかけの大きなガラスに近づき、Eコードを行使する。すると、一瞬で窓は元の傷一つない状態に戻っていた。当然だ、オレは触れた物の、周辺空間の時間を巻き戻す。だから、壊れたものを直すことなんて、造作もないことだ。まあ、本当の使い方はこれではないが……。


「これが魔術師マジシャンの力ってわけね。本当に奇術みたいな能力」


「種があればな」


 オレは彼女の軽口を適当にあしらい、残りの割れている窓も、順に直していく。すべての窓の修復を終えたので、二人の方へと近づいていく。ボスの隣に座ろうとすると、少女が自分の隣をポンポンと叩く。座れってことか……。オレはその命令に従い、大人しく少女の隣に腰かける。ちらりと横を見ると、満足そうに笑っていた。


「前置きが長くなったが、そろそろ本題に入るぞ」


 東さんはポケットから、スマートフォンを取り出した。画面を数度叩くと、それを耳に当てる。


「ああ、俺だ。例の資料を持ってきてくれ」


 それだけ言うとボスは携帯をしまう。おそらく相手はあの人だ。大変だな。


「さて、まずは依頼内容の確認といこうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る