第34話 第二夜~ひととき
――午前零時三十一分
割れた窓から飛来した蒼い雷が見事に奴を捉えたのには理由があった。それはオレの右耳に付けられた通信機だ。オレは作戦会議の時、ボスにすべての会話を傍受するように頼んでいたのだ。つまり、全員が通信機越しに話す会話だけでなく、オレたちが交わした話すべてがボスにも聞こえているということになる。
元々、人を操作する能力で狙うであろう次のターゲットの目星はついていた。だからこその作戦だ。しかも、この事実を知っているのはオレと東さんだけ。……まあ、直接伝えてないだけでステラは気づいているかもしれないが。
「やられ……ましたね」
奴は息絶え絶えといった様子で膝をつき、必死に顔を上げている。チッ、意識までは刈り取れなかったか。
「まさか、ここで神谷が……いきてくるとは」
オレはお返しとばかりにニヤリと笑う。
「お前が菜月さんを乗っ取ったことはボスにも伝わっているからな。それに、お前がオレの考えを肯定してくれたおかげで複数人操られるとしても神谷さんは安全だ。思う存分<
そう言ってオレは右耳の通信機をポンポンと指で叩く。奴は邪悪な笑みを浮かべ、自分の左耳に取り付けられた機器に触れる。
「なる……ほど。音声の傍受だけでなく、避雷針の役目も果たしていたということ……ですか」
「まあな。それに――」
オレが無駄な口を開こうとした瞬間、青い稲妻が再び奴を襲った。ダメ押しだな。艶やかな曇り声がかすかに聞こえる。
「勝負には……負けました。ですが――これで終わりではない」
意味深な捨て台詞を残し、彼女の体はぐったりと倒れこむ。オレは菜月さんの方へ走りこみ、抜け殻となった肢体を受け止めた。肉の焦げた匂いに顔をしかめながら、能力を発動する。少し黒ずんでいた肌は元の雪のような白い肌に戻り、熱で溶けかけていたスーツも完全に復元できた。
「とりあえず、これで一安心か……」
いや、まだ油断はできないか。幻影の奴が何かあるようなことを匂わせていたしな。でも、まずは――合流だな。
「東さん、聞こえてますよね? 奴の最後の言葉も気になるのでひとまず合流しましょう。場所は――」
オレは腕の中にある菜月さんの体を机に寄り掛からせ、立ち上がる。窓の外を見ると、そこには勝気な笑みを浮かべた金髪の少女が仁王立ちしていた。思わず笑みがこぼれ、声のトーンが上がってしまう。
「拘置施設の近くで落ち合いましょう。こっちにいいあしが来てくれたので」
オレは気を失っている菜月さんを抱えて宙に浮いている。もちろん、ステラの力だ。流石のステラも菜月さんに気を使ったのかゆっくりと飛んでいる。まあ、それでも数分もせずに目的地へと着くと思うが。
「そっちも上手くいったみたいね」
「まあな」
「……これで私の役目も終わりかしら」
どことなく寂しげな表情でステラが呟く。前なら何とも思わなかったんだろうが、過去を知ってしまった今は勘ぐってしまうな。そのせいか、否定の言葉が飛び出す。
「いや、それはないだろ。天成教がこの程度で完全に諦めるとは思えない。仮に次があった場合、もうこちらを侮ることもないことを考えると、今回よりも厳しい戦いになるだろう。えーと、つまり……」
何でこんな言い訳じみた言葉を重ねているのか。夜風で頭が冷えてくると、とたんに恥ずかしくなってくる。だが、今更取り消す方が面倒だ。オレはステラから視線をそっと外す。
「これからもお前の力は必要だ。そう東さんも言うはずだ」
――沈黙。いや、特段気にすることはない間だ。だが、今に限っては嫌な緊張感が体を強張らせた。おそるおそる彼女の方へ顔を向けると、満面の笑みを浮かべたステラの顔があった。顔を遠ざけようとするが、空の上ではままならない。
「永遠クン、ありがとね」
それだけ言うとステラは先導するように前へと進んで行ってしまった。彼女らしくない素直な言葉に面食らってしまう。自分の表情を確かめるように顔に触れると、 何故か口角が上がっていた。
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