第23話 第二夜~軍勢

 ――同刻、午前零時三分


 煙のように永遠の姿が消える。俺も、ステラも、響も、一様に驚愕が顔に張り付いている。ヤバいかもな、この状況。髭を指で軽く撫でながら、強い警戒をガスマスク野郎へと向ける。


「この――」


 切迫した声音と共にステラちゃんが、凄まじい衝撃波を軍服姿の男に放った。その超越的な力の余波のせいで、俺たちの足元に均整に並んでいる滑走路までめくれ上がる。不味いな、冷静さを失ってる。巻き込まれないように後方へ跳びながら、腹から声を出す。


「落ち着け!」


 怒声のような叫びをあげ、未熟な少女に訴えかける。あまりの声量に驚いたのか、パチパチと呆けたような顔で、瞬きを幾度もしていた。


「冷静になれ、ステラちゃん。今は感情に振り回される時じゃないぜ。今が――今こそが、永遠の近くに居るべきなんじゃねーか」


 俺はステラちゃんに近づき、華奢な肩に力強く叩く。その重さのおかげか、彼女の瞳にはいつもの凛とした気高い光が戻っていた。


「……ありがとう、正剛。目が覚めたわ」


「おう。分かったなら、さっさと行きな。永遠の現在位置は菜月から聞け」


 必要最低限のことは伝えた。あとは、この最強の少女と親愛なる仲間が何とかするはずだ。俺はその確信を持って、ステラちゃんの背中を軽く押す。


「恩に着るわ。また、後で会いましょう」


 美しき少女は黄金の髪を靡かせながら、闇の中へと消えていく。


「さて……害虫駆除と行きますか。頼むぜ、響」


「いやいや、アズマも頑張ってよ」


 呆れたような表情浮かべながら、響の奴が近づいて来る。全く、相も変わらず生意気だな。だが、今はそのふてぶてしさが心強い。それに、この冷静さ。よく状況が見えているな。


「もちろん、気合は入れるさ。だが、こっからはお前の力が不可欠になると思うぜ」


「それは――」


 俺は響を黙らせるために、ポンポンと頭を叩く。


「見てみろよ」


 砂塵のように舞い葉がっている粉々のアスファルトが風で流され、青白く光る壁のようなものが見え始める。だが、それも煙のように消失し、傷一つ負っていない奴らの姿が目に入る。


亡霊ゴースト。ベータとガンマを連れてターゲットを追え。他の奴らは私が始末する」


「了解、了解。じゃ、あとはよろしく、軍団レギオン殿」


 永遠を移動させたであろう亡霊と呼ばれた男は、銀髪の少年少女と共に姿を消す。やはり、空間移動系のEコード持ちってことだろうな。


「つれねーな。俺たち二人の相手は、あんた一人で十分ってことか?」


「何を言っている。目の前の数すら数えられないのか?」


 確かに、この場には奴と同じ姿をした兵隊が、三十も追加された。だが――


「結構な人数だけどよ、それ全部あんたの分身だろ?」


 ほんの一瞬――わずか数秒ほど、あたりが静寂に満たされる。淀みなく動いていた減らず口が、若干鈍った。やはり、当たりだな。


「なんの――」


ろうさなくていいぜ。下手な策はな」


 自身の満ちている声音で、確信を持って宣言した。ここまで言えば、理解するだろ。


「……こちらのことも、調査済みということか」


「翻弄する側だと思っていただろ? 軍団さんよ」


「否定はしない。だが、何も問題はない」


「ん? 負け惜しみか?」


 俺は煽るように、嘲笑を浮かべて見せた。だが、奴は淡々と平坦の声音を響かせる。流石、歴戦の猛者だな。


「そう捉えるなら、それで結構。私は私の役目を果たすのみ」


 そう言うと、ガスマスクの奴は大型ヘリの中から、さらに十名の分身を出してきた。そいつらの手には、黒塗りの機関銃が握られている。


「もう少し、おしゃべりに付き合ってくれてもいいんじゃねーか?」


 語りかけても答えは沈黙。向けられたのは、言葉ではなく、複数の銃口だった。


「ノーってか。まあ、仕方ねーな」


 再び、響の頭を軽く叩く。


「もういいの?」


「ああ、伝えたいことは伝えられたからな。ここらが潮時だろう」


 俺は横目で響に視線を送りながら、一歩前へ出る。


「さて、それじゃあ、開戦といこうか!」


 拳を握りこみ、突き出したのは、壊れかけの地面目掛けてだった。

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